【辿り着いた地で】
外へ出た途端、村の中から激しい物音が響いてきた。
視線を向けると、壊された荷車が横倒しになり、数人の村人が家々の間を逃げている。
その後を、灰色の毛皮に覆われた四足の魔物が追っていた。
口から太い牙を突き出し、低い姿勢のまま獲物へ迫っていく。
「あれは……ガルグレドだよ!」
女性の声を聞き、アリアは周囲を見渡した。
一体だけではない。
同じ魔物がほかにも四体いる。
アリアは斧を元の大きさに戻し、手に取った。
「二人は家の中にいてください」
「でも、あんた一人で……」
「大丈夫です」
そう告げて駆け出す。
前方では、一頭のガルグレドが逃げ遅れた男へ向かっていた。
四肢で土を蹴り、牙を突き出したまま一気に距離を詰める。
アリアは〈数字変換〉を働かせ、自身の筋力と敏捷を引き上げた。
加速した足で間へ割り込み、両手で握った斧を横から振り抜く。
刃がガルグレドの頭部へ叩き込まれ、その身体が勢いよく吹き飛んだ。
地面へ倒れたガルグレドは、そこで力を失った。
「早く離れて!」
男は慌てて立ち上がり、近くの家へ逃げ込む。
直後、二頭が標的をアリアに変えた。
左右へ散りながら近づき、ほぼ同時に襲いかかってくる。
斧の硬度を高め、一頭の牙を正面から受け止めた。
腕へ重い衝撃が伝わる。
アリアは足を踏ん張り、強引に押し返した。
体勢を崩した一頭の腹へ蹴りを入れる。
反対側からもう一頭が飛び込んできた。
身体を回しながら斧を引き戻し、その重量を増す。
振り抜いた一撃が胴を打ち、ガルグレドは地面を転がって止まった。
残る三頭が距離を取る。
そのうち一頭は他より一回り大きく、低い唸り声を漏らしながら前へ出た。
左右の二頭も位置を変え、アリアを囲むように広がっていく。
三方向から同時に来られれば、斧だけでは手が足りない。
斧を右手へ持ち替えた。
「魔紋ネブラギオスを発動」
魔力を消費し、ネブラギオスの力を発現させる。
アリアは空いた左手から展開する触手へ〈数字変換〉で攻撃力を付与した。
さらに魔力を使うと、手先から一本の触手が伸びる。
三メートルほどの長さを持つそれが、鞭のように大きくしなった。
それを見たガルグレドたちが一斉に動く。
左から飛び込んできた一頭へ、アリアは腕を横へ振るった。
触手が弧を描いて走り、横腹へ叩きつけられる。
強烈な打撃を受けたガルグレドが宙へ浮き、数メートル先へ転がった。
倒れた一頭が再び立ち上がる様子はない。
間髪入れず、右側から別の個体が迫る。
アリアはその攻撃を斧で受け流し、すぐさま斧を返してガルグレドを横へ弾き飛ばした。
体勢を崩した相手へ向け、アリアは左腕を切り返す。
触手が大きくしなり、ガルグレドの背中を強く打った。
鈍い音が響き、ガルグレドはその場へ崩れ落ちた。
残った大柄な一頭が、腹の底まで響くような咆哮を上げた。
前脚が地面を激しくかき、土が後方へ飛び散る。
ガルグレドは巨体を加速させ、真正面から突っ込んできた。
アリアは斧を構えたまま、その場に踏みとどまる。
距離が一気に縮まり、突き出された牙が目前まで迫った。
寸前で身体を横へ逃がす。
牙が衣服すれすれを通り過ぎた瞬間、アリアは左腕を大きく振り上げた。
頭上で触手が鋭くしなり、勢いを乗せて振り下ろされる。
激しい打撃がガルグレドの背中を直撃した。
轟音とともに巨体が叩きつけられ、土と小石が周囲へ弾け飛ぶ。
だが、それでも終わらない。
ガルグレドは荒い息を吐きながら前脚を突き立て、震える身体を無理やり持ち上げた。
アリアは左手から伸びていた触手を消し、間を与えず駆け出す。
立ち上がりかけたガルグレドが振り向くより早く、その懐へ踏み込んだ。
両手で斧を握り込み、強化した筋力を余すことなく乗せて振り下ろす。
刃が巨体へ深く食い込み、凄まじい衝撃がその全身を突き抜けた。
ガルグレドの巨体が大きく揺れ、力を失ってその場へ崩れ落ちた。
今度こそ、起き上がることはなかった。
辺りに舞い上がった土埃が、ゆっくりと薄れていく。
アリアは斧を下ろし、周囲を見回した。
周囲に倒れたガルグレドたちに、再び動き出す気配はない。
しばらくすると、家の中へ避難していた者たちが外へ出てきた。
負傷者のもとへ近くにいた村人が駆け寄り、腕を肩へ回して身体を支える。
足を痛めた老人も別の男に手を借り、ゆっくりと家の中へ運ばれていった。
アリアはそれを見届けてから、静かに息を整える。
そこへ、先ほど家へ逃げ込んだ男が戻ってきた。
「助かったよ。あんたが来てくれなかったら、危なかった」
続いて、近くにいた数人もアリアのそばへ寄ってくる。
「五体もいたのに、一人で全部倒しちまうなんて……」
「本当にありがとう」
次々に礼を告げられ、アリアは少し戸惑いながら答えた。
「間に合ってよかったです。怪我をした人たちを見てあげてください」
「それはもちろんだ。でも、あんたのおかげで助かったんだ」
男がそう言うと、そばにいた者たちも頷いた。
アリアにとっては、襲われている人を助けただけだった。
それでも、村人たちから向けられる感謝はなかなか途切れなかった。




