【ラトナ村の魔女】
女性の家へ案内されたアリアは、空いている一室を借りることになった。
温かい食事まで用意してもらい、少し腹を満たしたあとは、勧められるまま寝台へ横になる。
身体を包んでいた疲労は思っていた以上に重く、目を閉じると間もなく眠りへ落ちた。
そのまま眠り続け、気づけば朝を迎えていた。
十分に眠ったおかげか、昨日までのだるさはかなり薄れていた。
アリアが部屋を出ると、家の中では助けてくれた女性が朝の支度をしていた。
「もう起きて平気なの?」
「はい。だいぶ楽になりました」
「そう。それならよかった」
女性は安心したように笑うと、手元の作業へ戻った。
アリアはその姿を眺めながら、まだ聞いていなかったことを思い出す。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「なに?」
「ここって、なんていう村なんですか?」
「ああ、そういえば話してなかったね。ここはラトナ村だよ」
「ラトナ村……」
その響きに、アリアは何か引っかかるものを感じた。
初めて耳にしたわけではない気がする。
いつ、どこで知ったのかまでは浮かばず、アリアはいったん考えるのをやめた。
「あの、この近くに他にも人が住んでいる場所ってありますか?」
「あるにはあるよ。ここからずっと離れたところに街があるけど、歩いて行くならかなりかかるね」
「そんなに遠いんですか?」
「この辺りは何もないからね。ラトナを出たら、しばらく人里には着かないよ」
たどり着いたこの土地がどこなのか、まだ見当もつかない。
街へ向かうにしても、まずは体調を整えてからのほうがよさそうだった。
やがて朝食の支度が整った。
食卓には、焼いたパンと温かなスープ、少量の野菜に加えて、水も用意されていた。
「遠慮しないで食べて。昨日はほとんど寝てたんだから、お腹も空いてるでしょう」
「ありがとうございます。いただきます」
席についたアリアが食べ始めると、奥の部屋から年老いた女性が姿を見せた。
すると、助けてくれた女性が口を開いた。
「母さんだよ。ここでは二人で暮らしてるの」
アリアは食事の手を止め、軽く頭を下げた。
「昨日からお世話になっています」
老女は穏やかにうなずき、向かい側の席へ腰を下ろした。
朝食を食べ終え、アリアは空になった皿を前に手を合わせた。
「ごちそうさまでした」
「味、大丈夫だったかい?」
「はい。とてもおいしかったです」
女性は満足そうにうなずき、食器を片づけ始める。
アリアも手伝おうとしたが、まだ休んでいるように言われ、そのまま席に残った。
そこで昨日見た村の様子を思い返す。
家はいくつか建っていたものの、外を歩いている者はほとんど見かけなかった。
「ここって、住んでいる人が少ないんですね」
その問いに、食器を片づけていた手がわずかに止まった。
「昔は今よりずっと人がいたんだけどね」
「何かあったんですか?」
しばらく間を置いてから、女性が静かに答える。
「……魔女に襲われたんだよ」
「魔女……?」
「そうだよ。しかも、その子はもともとラトナで生まれ育ったんだ」
「この村の人だったんですか?」
「ずっとここで暮らしてたよ。小さい頃から知ってる人も大勢いた」
向かいに座る老女も、口を挟まず話を聞いていた。
「だから、誰も考えもしなかったんだ。あの子が村のみんなを襲うなんてね」
「それで……村の人たちが?」
「……かなりの人数が殺されたよ」
その一言で、室内が静かになった。
「逃げられなかった人もたくさんいた。家族を失った者もいるし、生き残ってもここを離れていった人だっている」
話を聞いて、昨日感じていた村の違和感にも納得がいった。
「今残ってるのは、昔に比べればほんの一部だよ」
「どうして同じ村の人を……」
「それは分からない」
彼女は小さく首を振った。
「何があったのか、どうしてあんなことをしたのかもね。知っている人がいたとしても……」
「きゃあああっ!」
外から突然、悲鳴が響いた。
アリアはすぐに席を立った。
「今の声……!」
女性もそれに続き、老女も立ち上がった。
もう一度、今度は先ほどより近くから叫び声が聞こえた。
三人は急いで玄関へ向かい、そのまま家の外へ出た。




