【数字変換なしの戦闘】
翌日、朝
「ふぁ、何だか体が重い…」
アリアは家の水場へ向かい、
冷たい水で顔を洗う。
水面に映った自分の顔を見て、
彼女は目を見開いた。
「何これ…」
アリアの髪の一部が黒くなっていた。
「何で?」
慌ててステータスを開く。
命という項目が増えていた。
(昨日の虫…?
まさか、あれが関係してるの?)
(でも体調があまり良くないのは何で…)
その日もアリアは森へ向かった。
森の浅い場所を歩き回る。
狙うのは弱い魔物。
まだ、この力は危険過ぎる。
ステータスを確認しながら、
戦闘を繰り返す。
すると、ある時。
森の奥から、
空気を震わせるような咆哮が響いた。
鳥達が一斉に飛び立つ。
嫌な汗が流れる。
「何?」
木々の奥から、
狼型の魔獣、ヴァルガが現れた。
黒い毛並み。
普通の狼より一回り大きい体。
ヴァルガが地面を蹴りアリアに飛びかかる。
咄嗟に横へ飛ぶ。
直後、
アリアが立っていた場所の地面が抉れた。
「こんなの、この辺にいるはずない…」
『数字変換』
【敏捷20】を書き換える。
今のアリアが改変できる上限。
敏捷20から10へ書き換える。
ヴァルガの動きが、少しだけ鈍った。
それでも速い。
目で追うだけで精一杯だった。
「今のうちに」
アリアは反射的に森の奥とは逆方向へ駆けた。
背後から唸り声が迫る。
息が苦しい。
足が震える。
でも止まったら終わりだ。
「はぁっ…はぁっ…もう、追ってこない…?」
追ってくる気配はない、
ほっと息を吐いた、その時。
茂みが揺れた。
現れたのは、Lv2のウルフラット。
小型の狼型魔物だった。
「もう魔力がないのに…」
アリアは近くに落ちていた木の棒を拾った。
まともな武器ではない。
それでも、今はこれしかなかった。
ウルフラットが牙を剥き、
一気に飛びかかる。
アリアは後ろへ転がって避ける。
もう魔力は残っていない。
『数字変換』は使えない。
ウルフラットが再び距離を詰める。
「来るなら……!」
飛び込んできた瞬間、
アリアは半歩だけ横へずれる。
勢い余ったウルフラットが、
木へ激突した。
鈍い音が森へ響く。
「これで倒さないと…」
アリアは木の棒を握り直し、
よろめくウルフラットの頭へ振り下ろした。
腕が痛い、手のひらが痺れる。
それでも止めなかった。
ウルフラットはふらつき、
そのまま地面へ倒れ込んだ。
「か、勝った…」
アリアはその場へ座り込む。
荒い息を繰り返しながら、
震える手を見る。
「『数字変換』がないと、こんなに大変なのね」
しばらく動かない事を確認してから、
アリアは恐る恐る近付いた。
木の棒で軽く突くが、
反応はない。
以前村で聞いた言葉を思い出した。
魔物は素材になる。
「えっと…牙とか、毛皮だっけ」
アリアは近くの石を使い、
ぎこちなくウルフラットの牙を外していく。
何とか使えそうな毛皮も剥ぎ取った。
慣れていないせいで服や手が汚れる。
「う、気持ち悪い…」
それでも必死に回収する。
生活費になるかもしれない。
素材を袋へ詰め終えた瞬間、
ウルフラットの体が淡く光り始めた。
体が粒子となって崩れていく。
同時に、
アリアの体へ温かい感覚が流れ込んだ。
【Lvが4になりました】
【スキル『鑑定』を獲得しました】
「鑑定?」
試してみたい。
けれど、今は無理だ。
魔力も体力もほとんど残っていない。
「また魔物に見つかったら…」
村に着く頃には、空は少し暗くなっていた。
「とりあえず換金しないと…」
村外れにある小さな買取所へ向かう。
村の中は、
仕事を終えた人達で賑わっている。
その雰囲気に、
アリアは少しだけ安心する。
買取所に着くと、
ドアを開け中に入る。
木造のカウンターの奥から、
年配の男が顔を上げた。
「おう、見ない顔だな」
「今日はどうした?」
「魔物の素材を…買い取ってほしくて来ました」
袋をカウンターの上に置く。
男は中身を一瞥し、牙と毛皮を取り出した。
「ウルフラットか」
軽く頷きながら、牙を指で弾く。
「少し雑だが、新鮮だな」
「す、すみません……」
「初めてならこんなもんだ」
男は少し考えてから、カウンターの下から銅貨を取り出した。
「牙と毛皮で…このくらいだな」
差し出された銅貨二枚。
「ありがとうございます…」
外の空気を吸って、ようやく肩の力が抜ける。
変に思われなかっただろうか。
服も手も汚れている。
子供一人で魔物の素材を持ち込むなんて。
早くその場を離れたくて、走り出す。
息が上がる。
初めての素材の買い取り。
手の中には、銅貨が二枚。
たったそれだけの事なのに、
アリアには妙に嬉しかった。




