【答えは再会の先に】
城門の方から、いくつもの足音に混じって車輪の音が近づいてきた。
先頭にいたのは、王国騎士団の紋章が刻まれた鎧をまとう壮年の騎士だった。その後ろには護衛兵と、一台の馬車が続いていた。
「アリア殿!」
騎士は一行の前まで来ると、全員の様子を見渡した。
「ご無事でしたか。南門の地下へ向かわれたと報告を受け、陛下の命で迎えに参りました」
騎士は、アリアに寄りかかっているメルヴァリスへ視線を向けた。
「その方が、お捜しになっていた方ですか?」
「はい。メルヴァリスです。無事に連れ帰ることができました」
「そうでしたか」
騎士は、彼女が自力で立つことも難しいと察し、それ以上は尋ねなかった。
「陛下がお待ちです。まずは馬車へお乗りください」
用意されていたのは、王家の紋章を掲げた大型の馬車だった。
ルミシェナが先に乗り込み、外から支えるロゼリアとともに、メルヴァリスを座席へ座らせた。
アリアも隣に腰を下ろし、倒れないよう寄り添った。
扉が閉まり、ほどなく馬車が動き始めた。
窓の外には、戦いの傷を残した街が広がっていた。
崩れた建物には木組みの足場が設けられ、騎士と住民が力を合わせて修復を進めていた。通りの一部には今も立ち入りを禁じる柵が置かれ、地面に残った亀裂を避けるように人々が歩いていた。
アリアは街の様子を眺めた後、隣へ顔を向けた。
メルヴァリスは背もたれに身体を預けたまま、流れていく街並みを見ていた。
「疲れたなら休んでいいんだよ」
「大丈夫です。アリア様のそばに戻れたことを、まだ確かめていたいのです」
その返事に、アリアは彼女の手を握った。
握り返す力は弱かったが、指先には確かな温もりがあった。
馬車は大通りを抜け、王城へ続く坂を上っていった。
王城を囲む高い城壁の内側へ入ると、整えられた石畳と広い中庭が現れた。
馬車は正面階段の手前で止まった。
扉が開き、待機していた侍従と騎士たちが一斉に頭を下げた。
メルヴァリスは再びルミシェナとアリアの肩を借り、慎重に地面へ降りた。
「客室をご用意しておりますが、陛下は先に事情をお聞きになりたいとのことです」
案内役の侍従が、申し訳なさそうに告げた。
「ご負担のない範囲でお話しいただくよう、申しつかっております」
「分かりました」
アリアたちは広い玄関広間を通り、王城の奥へ進んだ。
磨かれた床には天井からの光が映り、壁には歴代の王や戦場を描いた大きな絵が並んでいた。何度か角を曲がった先で、侍従が重厚な扉の前に止まった。
「こちらです」
扉の先にあったのは、謁見の間よりも小さな会談室だった。
中央には卓が置かれ、その向こう側には国王エルヴァルドと王子セリオンが席につき、傍らには騎士団副団長のクラウスが控えていた。
促されたアリアたちも、向かいの椅子へ腰を下ろす。
「クラウスから、大体の話は聞いている」
クラウスが続けて口を開いた。
「あの男は、その後どこへ向かったのですか?」
「分かりません。地下を出たあと、騎士団が到着する前に姿を消しました」
アリアは、南門の裂け目から遺跡へ入り、奥で瓦礫に埋もれたメルヴァリスを見つけた経緯を説明した。
ネルガディスの力を借りて助け出したものの、目を覚ました彼女は一部の記憶を失っていた。
「私たちのことは覚えています。ただ、ネルガディスのことは分からないみたいです」
「ネルガディスは、何か言い残していましたか?」
「メルの記憶を取り戻す方法を探すとだけ。それから、行き先を告げずにいなくなりました」
エルヴァルドは少し間を置き、アリアへ問いかけた。
「そなたは、ネルガディスをどうしたい?」
すぐには返せなかった。
故郷を滅ぼされ、多くの命を奪われた。メルヴァリスを救うためだったと知っても、彼のしたことが許されるわけではない。
答えは決まっているはずだった。
それでも、地下で彼の力を借りなければ、メルヴァリスを連れ帰れなかったのも事実だ。
「許すことはできません」
迷いを押し込めるように告げた。
「私の村を襲ったことも、たくさんの魂を奪ったことも、なかったことにはできません」
「でも、今すぐ討ってほしいとも思いません。あの人は、メルの記憶を戻す方法を探すと言いました」
クラウスの目元がわずかに険しくなる。
「再び犠牲を出す可能性もあります」
「分かっています」
アリアは正面から国王を見返した。
「だから、次に会った時は私が見極めます。あの人が、メルのためにまた誰かを犠牲にするのか、それとも別の道を選ぶのか」
「その結果、敵となったなら?」
問いかけに、アリアは一度だけ目を閉じた。
「その時は、私が止めます」
声はわずかに揺れていた。それでも、口にした意志だけは変わらなかった。
エルヴァルドはしばらくアリアを見定めた後、ゆっくりと頷いた。
「よかろう。ただし、王国として警戒を解くことはできぬ」
「行方は騎士団に探らせる。発見しても単独では交戦せず、まず王都へ報告させよう。報告が入り次第、そなたにも知らせる」
「その後、十分な兵を集めて捕縛を試みる。ただし、新たな犠牲が出るおそれがあると判断した場合は、その場での討伐も辞さぬ」
クラウスが頷いた。
「承知しました。各地の騎士団にも、ネルガディスの特徴を伝えておきます」
アリアは膝の上で握っていた手をほどいた。
これが正しい判断なのかは分からない。
それでも、次にネルガディスと向き合う時は、自分の意志で答えを出すつもりだった。




