【最上位冒険者】
王都各所で戦いが激しさを増す中、東門でも絶え間なく押し寄せる魔物との戦闘が続いていた。
上空から戦場を見渡し、ロゼリアが呟く。
「……きりがありませんね」
その視線の先に、ゼルグレムが姿を現した。
周囲の魔物とは明らかに異なる姿を目にし、ロゼリアは八枚の翼を広げて身構える。
異変を察したルミシェナも、魔物の群れを切り抜けながら彼女のもとへ駆けつけた。近くで戦っていた騎士たちと数名の冒険者も加わり、ゼルグレムへ武器を向ける。
先頭の騎士たちは半円状に展開し、迫るゼルグレムへ剣で斬りかかった。だが、刃は岩のような皮膚に弾かれ、表面をわずかに削るにとどまる。
ゼルグレムが歪な腕を振り抜く。
騎士たちの前へルミシェナが割って入り、光衣を広げた。幾重にも重なった白紗が攻撃を受け止めるものの、凄まじい力に押し込まれ、彼女の靴底が地面を削っていく。
「これ以上は抑えきれません!」
その声を受け、ロゼリアが刃翼を一斉に放つ。
四方から迫った刃翼がゼルグレムの腕や脚をかすめ、そのうち一枚が脇腹へ深く食い込んだ。黒い血が噴き出し、身体が傾く。
冒険者たちはその機を逃さず間合いへ飛び込んだ。剣と斧が裂けた箇所へ叩き込まれ、後衛から放たれた矢と魔法が露出した肉を貫く。
だが、それでも倒れない。
咆哮を響かせたゼルグレムが両腕を荒々しく振るい、周囲の騎士や冒険者をまとめて跳ね飛ばした。
ロゼリアは散らした刃翼を呼び戻すと、一気に高度を落とす。地面すれすれを滑空しながらゼルグレムの片足を深く斬り裂き、大きくよろめかせた。
「ルミシェナ」
「ええ」
ルミシェナが結界を解き、束ねた光の帯をゼルグレムの両腕へ絡みつかせる。巨躯を完全に封じるには至らないが、傷ついた足では踏ん張りが利かず、振りほどこうとするたびに身体が傾いていく。
騎士たちも盾を連ねて正面から押さえ込み、冒険者たちはゼルグレムがよろめいた隙に足元へ殺到して、体勢を立て直す暇を与えなかった。
傷ついた片足から力が抜け、ゼルグレムが膝をつく。
ロゼリアは低空から鋭く上昇し、すれ違いざまに刃翼を喉元へ突き立てた。黒い血を吐いた巨体が地面へ倒れ込み、二度と動くことはなかった。
「やっと倒れましたわね」
安堵したロゼリアたちの前へ、もう一体のゼルグレムが姿を現す。
「……まだ、いるのですか」
だが、一体だけではなかった。
魔物の群れの奥から同じ異形が次々と進み出る。その数、十体。
一方、南門では。
アリアとクラウスが、正気を失ったメルヴァリスと刃を交えていた。
クラウスは地面から身を起こしながら、戸惑いを隠せない様子で問いかける。
「アリア殿、メルヴァリス殿はどうされたのです! 彼女は、あなたの仲間ではなかったのですか?」
「大丈夫、必ず戻してみせるから」
アリアがメルヴァリスへ視線を戻した、その時だった。
突如、南門前を埋めていた魔物たちが一斉に切り刻まれ、血を撒き散らしながら次々と崩れ落ちた。
あまりにも一瞬の出来事に、アリアたちは何が起きたのかさえ理解できなかった。
「急いで来たはいいが、ずいぶん大変なことになってるじゃないか」
そこへ、黒章と白金章のバッジを身につけた一団が姿を現した。
その中央にいる男の腰には、七色の輝きを放つ虹章のバッジが下げられていた。
「あれは……」
周囲の騎士たちがざわめき始める。その反応が気になり、アリアは隣にいたクラウスへ尋ねた。
「クラウスさんは、あの人を知っているんですか?」
「アリア殿は、まだご存じなかったのですか。あの方は、世界に三人しかいない虹章冒険者の一人、オルギィン殿です」
「虹章冒険者……」
アリアはオルギィンへ目を向け、鑑定を発動した。
名前:オルギィン・グラングリム
性別:男
年齢:26
Lv:68
筋力:1550
敏捷:1620
魔力:650
体力:1140
オルギィンはアリアたちのもとまで歩み寄ると、少し離れた場所に立つメルヴァリスへ視線を向けた。
「まだ魔物が生き残っているじゃないか」
嫌な予感に駆られ、アリアが口を開こうとした。
だが、声を上げるより早くオルギィンの姿が消え、轟音とともにメルヴァリスの身体が遠くへ弾き飛ばされた。
「メル!」
アリアは咄嗟に駆け出そうとしたが、クラウスに腕を掴まれ、その場へ引き戻された。
「アリア殿、いけません! あの方は……」
「放して! メルが殺されちゃう!」
メルヴァリスは立ち上がるたびに打ち倒され、反撃する隙すら与えられない。もはや、どちらが上かは誰の目にも明らかだった。
オルギィンは背負っていた剣を引き抜くと、倒れたメルヴァリスの胸へ容赦なく突き立てた。




