【規格外の鉄章冒険者】
遠くでラゼルムがアリアとキメラを見つめる。
「終わりだ。あれに勝てる者など存在しない」
キメラの前に立つアリア。
何度攻撃しても届かず、仲間たちも傷だらけとなった今、勝てる未来が見えなかった。
それでもアリアの瞳から闘志は消えない。
まだ、何かあるはず。
アリアは倒れた仲間たちへ視線を向けた。
みんなが命を削るようにして繋いでくれた戦いだ。
ここで終わらせるわけにはいかない。
一人では届かない。
それでも、みんなが繋いでくれた戦いを無駄にはしたくなかった。
もう一度だけ、みんなと戦う力が欲しい。
その願いに応えるように、胸の奥で熱が弾けた。
《スキル『数字統合』を取得しました》
頭へ流れ込んできた情報を、アリアは即座に理解した。
「これが最後よ」
アリアは最後の望みをそのスキルに託す。
「数字統合」
仲間たちの身体から放たれた無数の光条がアリアへ収束し、一人では扱いきれないほど膨大な力が全身を駆け巡った。
統合された力が体を内側から軋ませ、全身に激痛を走らせる。
名前:アリア・フェルロード
Lv:24
筋力:55+1500
敏捷:64+2000
魔力:1900+1300
体力:32+1700
状態:数字統合 発動中
全身を裂くような痛みに耐えながら、アリアは一瞬でキメラの懐へ踏み込み、短剣を振り抜いた。
キメラは反応する間もなく、その巨体を深々と切り裂かれた。
今までとは比較にならない一撃が肉と外殻を断ち、致命傷にも等しい深手を刻み込む。
冒険者たちは目の前の光景を理解できず、ただキメラを見つめることしかできなかった。
「このまま終わらせる」
悲鳴を上げる体を奮い立たせ、アリアは持てる力のすべてを込めてキメラへ向かった。
キメラは必死に爪と尾を振るうが、アリアの姿を追うことすらできない。
その姿を見たラゼルムは顔を歪めた。
「ばかな……そんなはずがない! 私の最高傑作だぞ!?」
冒険者の一人がラゼルムの胸倉を掴む。
「正気か!? あのキメラが勝てば、俺たちだけじゃない。お前も死ぬんだぞ!」
ラゼルムはその場に膝をつき、力なくうなだれた。
もはや言葉は出ない。
アリアは爪をかいくぐり、跳び上がるようにキメラの喉元へ迫った。
振り抜いた刃が黒い外殻を裂き、その奥の肉まで深く断ち切った。
喉元から大量の黒い血を噴き上げたキメラは、数歩よろめいた末、巨体を地へ沈めた。
戦いは終わり、負傷した冒険者たちは治療を受けていた。
「みんな大丈夫?」
アリアの言葉に、メルヴァリスたちは悔しさを滲ませながら俯いた。
「はい、申し訳ありません」
「主様を守れないばかりか、危険な目に遭わせてしまいました……」
「十分守ってくれたよ。みんながいたから、私は最後まで立っていられたんだから」
冒険者たちはラゼルムを拘束し、負傷者を支えながら街へ帰還した。
いかに貴族とはいえ、あんなものを作り出した罪は重い。多くの冒険者が証人となる以上、刑を免れるのは難しいだろう。
ギルドに戻るとカリナが出迎えてくれた。
「お帰りなさい……」
しかし、傷だらけのアリアを見た瞬間、カリナは言葉を失った。
「ただいま」
「アリアさん、大丈夫なの!?」
そこへ、ランドルが後ろから入ってくる。
「おう、カリナさん。ただいま」
「ランドルさん、あなたね……アリアさんは鉄章級冒険者なのよ?」
「それを、あんな状態になるまで戦わせたの?」
カリナが責めるように言うと、ランドルは困ったように頭をかいた。
「いや、あれは俺たちが戦わせたんじゃねぇ。アリアがいなきゃ、全員帰ってこられなかった」
「どう考えても、階級と実力が釣り合ってないだろう」
「……何があったのか、詳しく聞かせてもらえる?」
カリナの視線がランドルへ向く。
「分かった。報告も兼ねて話す」
それからカリナは、心配そうにアリアへ向き直った。
「アリアさんはしばらく安静にしてたほうがいいわ」
「怪我が治ったらまたギルドへ来てね」
そう言い残し、カリナとランドルは奥の部屋へ向かって行った。
「ふぅ……村に戻ろう、みんな元気にしてるかな」




