表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/49

【暴走した実験体】

「こんな所で再会するとはな。しかし、君は冒険者だったのだな」


「あなたは商人って言ってたわよね」


「商人として動いていたのは事実だよ。だが、表向きは王都に屋敷を構える侯爵家の当主だ」


「主様、どうされますか?」


「……ここまで来た以上、放ってはおけないわ。それに、どんな悪人でも見殺しにしていい理由にはならない」


「了解しました」


「一つ聞かせて。あなたはここで何をしていたの?」


「また同じ質問か。その答えを聞いて、君はどうするつもりだね?」


アリアは言葉を詰まらせる。


ラゼルムは薄く笑い、傷ついた体を壁にもたれさせた。


「新たな魔物の性能を確かめていたのだよ。

だが、途中でこちらの指示を聞かなくなってね」


「おかげで、このざまだ」


「さっきの魔物は……」


その時、冒険者たちが騒ぎ出す。


「おい、あれは何だ?」


冒険者たちの視線が、一斉に奥の通路へ向いた。

アリアたちも遅れてそちらを振り返る。


ダンジョンの奥から、異形の魔物が近づいてきていた。

獣の脚、硬い外殻、いくつもの魔物を無理やり継ぎ合わせたような歪な姿だった。


名前:ゼノグラム・キメラ

Lv50 キメラ系

筋力:190+200

敏捷:255+200

魔力:40

体力:600+200

状態:暴走

特性:物理耐性


ラゼルムがアリアに呟く。

「あれを甘く見ないほうがいいぞ」


「幾種もの魔物を掛け合わせ、作り出した私の

最高傑作だよ」


「あんな物を作る為に……」


ゼノグラム・キメラが咆哮を上げ、冒険者たちへ襲いかかった。


前に出た冒険者の剣は外殻に弾かれ、返す腕の一撃で体ごと吹き飛ばされる。


別の冒険者が横合いから斬りかかるが、キメラは視線すら向けずに尾を振るい、鎧ごと床へ叩き伏せた。


倒れていく仲間を前に、冒険者たちの間に恐怖が広がっていく。


アリアは短剣を握り直し、ゼノグラム・キメラへ向かって歩き出した。


「メル、ルミ、ロゼ。いくわよ」


「はい、アリア様」


「承知しました、主様」


「ご命令のままに」


アリアは数字変換を発動し、三人の能力を引き上げた。


メルヴァリスの指先から赤黒い血鞭が伸び、ルミシェナの光衣がふわりと広がる。


ロゼリアは背の翼を開き、迫りくるゼノグラム・キメラをまっすぐに見据えた。


ゼノグラム・キメラは床を踏み砕きながら突進してくる。


「来るわ!」


アリアの声に応じて、ルミシェナが前へ出た。


迫る異形を前に、ルミシェナの足元が重く沈む。


それでも彼女は一歩も退かず、両腕を広げて白い光衣を幾重にも重ね、アリアたちを守る巨大な壁を作り上げた。


「白紗結界」


ゼノグラム・キメラの巨体が白い結界へ激突し、重く鈍い衝撃音がダンジョン内に響き渡る。


ルミシェナの足元に亀裂が走り、白い光衣が大きくたわむ。


「っ……主様、長くは持ちません」


「分かってる!」


アリアはルミシェナの背中越しに、ゼノグラム・キメラの数値を睨んだ。


筋力:190+200

敏捷:255+200

体力:600+200


本来の数値だけでも高い。


そこに暴走による補正が上乗せされている以上、まともに正面からぶつかれば押し切られる。


「なら、まずはそこを削る!」


アリアは敏捷の横に表示された補正値、+200へ意識を向けた。


その数字を書き換えようとした途端、まるで見えない壁に指先を押し返されたような重さが返ってくる。


「くっ……!」


狙いがずれ、干渉が弾かれる。


けれど、アリアは引かなかった。


乱れた意識を立て直し、もう一度その数字をつかむように集中する。


今度は、届いた。


ゼノグラム・キメラの動きが、ほんの少し鈍る。


大きく弱ったわけではない。


だが、迫りくる巨体の速度がわずかに落ちただけで、アリアたちには攻め込む隙が生まれた。


「メル!」


「はい、アリア様」


メルヴァリスの血鞭が左右から走り、ゼノグラム・キメラの脚へ絡みつく。


赤黒い鞭は肉と外殻の隙間に食い込み、その動きを縛ろうとするが、キメラは力任せに脚を振り上げ、絡みついた血鞭を強引に引きちぎろうとした。


鞭が軋み、一本が途中で弾ける。


「……思った以上に乱暴ですね」


「ロゼ、関節を狙って!」


「承知しました」


ロゼリアが翼を広げ、床を蹴った。


白い羽が舞い、彼女の姿がゼノグラム・キメラの側面へ回り込む。


狙うのは膝裏。


ロゼリアは巨体の動きが鈍った一瞬を逃さず、剣を鋭く振り抜いた。


硬い音が響く。


「っ、浅い……!」


刃は確かに入った。けれど、分厚い肉と硬い外殻に阻まれ、深くまでは届かない。


ロゼリアが離脱しようとしたところへ、ゼノグラム・キメラの尾が横薙ぎに振るわれた。


「ロゼ!」


ルミシェナの光衣が伸び、尾の軌道を横からずらす。


直撃こそ免れたが、殺しきれなかった衝撃がロゼリアの肩を打ち、翼を広げた彼女の姿勢が空中で大きく乱れた。


「申し訳ありません」


「謝らないで、まだいける!」


アリアはロゼリアがつけた傷を見た。


体力を一気に削るのは難しい。けれど、あの傷口を広げれば、巨体の動きを崩せるかもしれない。


「そこを狙う!」


短剣を握り直したアリアは、ゼノグラム・キメラの足元へ駆け込んだ。


異形の影が頭上を覆い、横から振るわれた爪がアリアの髪先をかすめる。


冷たい感触が頬を抜けたが、彼女は足を止めず、ロゼリアが刻んだ傷へ向けて短剣を突き立てた。


「くっ……硬い!」


刃が肉に食い込む。だが、深く刺さらない。


ゼノグラム・キメラが脚を振り上げ、アリアは短剣を抜こうとしたが、硬い肉に刃を取られて一瞬だけ遅れた。


「主様!」


ルミシェナの光衣が帯のように伸びてアリアの腰を捉え、その体を強引に横へ引き寄せる。


直後、キメラの脚が床を砕いた。


石片が跳ね、衝撃が通路を揺らす。


砕けた床に片脚を取られたゼノグラム・キメラは大きく体勢を崩し、倒れ込む寸前で床へ爪を立てて巨体を支えた。


「今です」


ルミシェナの光衣がキメラの腕へ絡みつき、暴れる力の向きをずらす。


メルヴァリスも血鞭を首元へ巻きつけ、巨体の動きを押さえ込んだ。


「ロゼ!」


「はい」


ロゼリアが高く跳び上がると、広げた翼が空気を叩いて白い羽を散らし、彼女は空中で姿勢を整えながら剣先をゼノグラム・キメラの片目へ向けた。


だが、暴れる頭が不規則に揺れ、狙いが外れる。


「っ……!」


ロゼリアは空中で体をひねり、崩れた軌道を力ずくで修正した。


そして、全身の重みを剣に乗せるように振り下ろす。


「はあっ!」


刃が片目の端を裂いた。


深手ではない。


それでも、ゼノグラム・キメラは苦しげに吠え、頭を激しく振り回した。


離れていた冒険者たちがざわつき始める。


「効いてるぞ……!」


「いや、まだだ! 油断するな!」


ゼノグラム・キメラは片目から黒い血を滴らせながらも、怒りに濁った視線をアリアたちへ向ける。


片目を裂かれてなお、その怪物の気配は弱まるどころか、さらに荒々しさを増していた。


アリアは短剣を構え直し、乱れる呼吸を押さえ込む。


「……ここからが本番ね」


メルヴァリスの血鞭が再び伸び、ルミシェナの光衣が白く広がり、ロゼリアは翼を翻してアリアの前へ降り立つ。


暴走したキメラを前に、四人は一歩も退かなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ