【救出対象の正体】
アリアはメルヴァリス、ルミシェナ、ロゼリアの三人を連れ、セレミリアの街を訪れていた。
ギルドではロゼリアの冒険者登録を済ませ、あわせてパーティ登録も更新した。
手続きが終わる頃には、ちょうど昼時になっていたため、四人は近くの食堂で食事を取っていた。
「ロゼも、これで正式に冒険者ね」
アリアの言葉に、ロゼリアは丁寧に頭を下げた。
「はい。ご主人様のお役に立てるよう、尽力いたします」
アリアは三人を見回しながら、少し照れたように笑った。
「うん。これからは四人で頑張ろう」
食事を終えたアリアたちは、ギルドへ戻った。
しかし、さっきまで冒険者たちで賑わっていたはずのギルドは、妙に静かになっていた。
「あれ? さっきまで人が多かったのに……」
アリアは周囲を見回しながら、依頼板の方へ向かった。
「アリア様、ギルドの中に人が少ないのは、この依頼書が原因かもしれません」
メルヴァリスに言われ、アリアは依頼板に貼られた一枚の依頼書へ目を向けた。
『緊急依頼』
セレミリア東のダンジョンにおける救出依頼。
「救出依頼……?」
気になったアリアは、受付にいるカリナのもとへ向かった。
「カリナさん、あの緊急依頼って……」
「アリアさんも興味があるの? 今ならまだ参加できるわよ」
カリナは依頼板の方を見ながら、少し声を落とした。
「あれは、王都の貴族を救出するための依頼なの」
「貴族の救出……」
「ええ。万が一にも失敗できない依頼だから、できるだけ多くの冒険者を集めているみたい」
「それなら、私たちも行くわ」
アリアの言葉に、メルヴァリスたちも揃って頷いた。
「……分かったわ。それなら、場所を教えるわね」
「場所は、セレミリアの東にあるダンジョンよ。ただ、今は魔物の巣窟になっているみたい。十分に気をつけてね」
詳しい場所を聞いたアリアたちは、ダンジョンへ向かった。
アリアたちがダンジョンの前に着く頃には、すでにギルドの冒険者たちが集まっていた。
その中で、ギルドから取りまとめを任されたらしい男が、集まった冒険者たちへ説明していた。
「このダンジョンはかなり広い。全員で固まって動くより、パーティごとに分かれて進んだ方がいいだろう」
「戦力が偏らないよう、金章パーティを各班の中心に置く」
「そこへ銀章、銅章、鉄章のパーティを振り分けて進む」
アリアたちは割り振られた班へ向かい、金章パーティに合流した。
振り分けられた先は、先ほどまで全体に説明していた男の組だった。
男はアリアたちの章を見て、少し驚いたように目を向けた。
「おや、君たちはまだ鉄章級か」
「よろしくお願いします」
アリアが頭を下げると、メルヴァリス、ルミシェナ、ロゼリアも揃って礼をした。
「俺はランドル。金章パーティのリーダーだ」
ランドルは四人を見回し、ダンジョンの入口へ視線を向ける。
「今回の目的は、貴族の救出だ。魔物の討伐は必要最低限でいい。無理に深追いはするな」
「分かりました」
「鉄章なら、むやみに前へ出るな。あくまで補助に徹してくれ」
ランドルの言葉に、アリアは素直に頷いた。
「よし、では行くぞ」
ランドルの合図で、冒険者たちはダンジョンの中へ入っていく。
アリアたちの班は二十名ほどいた。
鉄章級はアリアたちだけだったため、配置は最後尾だった。
アリアは周囲に気を配りながら、小声でメルヴァリスに話しかけた。
「メル、このダンジョンがどれくらい広いか調べてもらえる?」
「はい、分かりました」
メルヴァリスは周囲の気配を探るように、
意識を集中させた。
「かなり深いようですね。少なくとも、十数階以上は続いているかと」
「ありがとう。なら、体力は温存しないとね」
まだ上層だからか、現れる魔物はそれほど強くなかった。
班は大きく乱れることもなく、順調に奥へ進んでいく。
地下十階。
近くで誰か戦っているのか、鋭い金属音が聞こえた。
進むにつれ、次第に音は大きくなっていった。
通路を抜け、広場に出ると……
そこでは他の班が見たこともない魔物と戦闘していた。
ランドルが呟く。
「なんだこいつは?」
「このダンジョンに出る魔物じゃない……」
アリアもすかさず鑑定した。
名前:カオスキメラ
Lv40 キメラ系
筋力:140+20
敏捷:155+20
魔力:30
体力:200+20
状態:暴走
(レベル40……! それに、あの『状態:暴走』って何? 嫌な予感がする……)
その周囲には、すでに倒れた冒険者が数人いる。
ランドルたちも加勢する。
「あの魔物は危険だ、鉄章は後方待機するんだ」
「アリア様、どうしますか?」
「……とりあえず、指示通り待機しましょう。下手に動いて私たちの実力がバレるのも面倒だし」
「でも、もしあの人たちが危なくなったら、迷わず手を貸すわよ」
アリアに頷く三人。
「ですが、金章冒険者もおります。すぐに崩れることはないかと」
ルミシェナの言う通り、冒険者たちは苦戦しながらも、少しずつカオスキメラを追い詰めていった。
ランドルの鋭い指示が飛び、冒険者たちはカオスキメラの猛攻を盾で受け流しながら、少しずつその巨体に傷を刻んでいく。
激しい戦闘の末、カオスキメラはようやく地面に崩れ落ちた。
しかし、三割近くの冒険者が負傷していた。
「ここで少し休憩するぞ。負傷者の治療を優先しろ」
ランドルが周囲に指示を飛ばす。
「戦力を分散させたのは間違いだったか……。
このままでは先へ進めない。ここで他の班の合流を待つぞ」
アリアたちも負傷者の手当てを手伝う。
「ふぅ……そこまで重症の人はいないみたいね」
辺りを見渡しながらアリアが呟いた。
その言葉に、メルヴァリスも頷く。
「はい。命に関わるほどの傷を負った者は、今のところ見当たりません」
それから半刻ほど経った頃、異変を察知した他の班が次々と広場に合流してきた。
幸いにも、合流した班には無傷のヒーラーが残っており、負傷者も動ける程度には回復した。
「よし、先へ進むぞ」
再び隊列を整え、冒険者たちは奥へ進んでいく。
その後も警戒を強めながら進んだが、特に大きな異変は起きなかった。
地下十三階へ降り少し進んだ所で、先頭から声が上がる。
「奥に人がいるぞ!」
「ご主人様、奥に複数名の気配があります」
ロゼリアが落ち着いた声で告げる。
アリアたちも、冒険者たちの間を抜けて前方へ進む。
だが、そこにいた男の顔を見た瞬間、アリアは足を止めた。
「おや、君は……」
「ラゼルム……!? なんであなたがここにいるの!?」
そこにいたのは、あの地下施設で出会った男……ラゼルム・モルガントだった。




