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第四話 雷伐師の戦い方

 武蔵が別室からモニターで見守る中、訓練棟にて綾芽と新人五人による模擬戦が開幕した。


「この人、やばい……」


 ギラギラと反射する刀身。綾芽の構えは空気を凍りつかせる。

 最初に動くのは誰か。一同の間に緊張が走る。

 ──ただ一人、この男以外は。


「まずはこの僕からいかせてもらうよ『雷装展開!』」


 意気揚々と先陣を切ったのは唯我。空気を掴むように右手を構えると、レイピアの雷装を展開した。その剣先を綾芽に向けて特攻する。


「ふっ、はっ!」


 脚、肩、腹、腕。全身の各箇所への連続刺突が綾芽を襲う。だが綾芽は動じなかった。次から次へと迫りくる刃を順番に捌いてみせる。


「速い……!」


 双方の刃が衝突し合い、橙色の火花が舞い散る。

 互いに一歩も譲らない打ち合い。充も目で追うのがやっとだった。せめぎ合う二人は外野からの介入を許さない。


「洗練された無駄のない動きに、長い手脚を活かした間合いの外側からの突き。やるな」


 その時、綾芽の刃に異変が生じる。


「ならばこれは対応できるか?」


 綾芽の刀身を迸る稲妻。そして刀が振り上げられる。その瞬間、大気が揺らいだ。

 鬼気迫る眼光を前に、唯我は思わず後ずさる。


「本能が下がれと命令してる……!」


 綾芽は深く両脚を踏み込む。そして柄を強く握りしめた。次の瞬間、瞬く間に空気が斬り裂かれる。


『──隼迸斬じゅんひょうざん


 振り下ろされる刃。一瞬音が止まる。刹那、突風と共に雷を纏った斬撃が放たれた。

 隼の如き高速で飛来する斬撃。咄嗟に身構える唯我。だが唯我のレイピアは瞬く間に真っ二つに割かれた。


「なんだ今の斬撃……見えなかった!」


 綾芽は隙かさず丸腰となった唯我に急接近。首元めがけて峰打ちを振りかざす。


「まずは一人……」


 この一撃で勝負は決したかと思われた。

 ──だが決着のゴングはまだ鳴らない。


「なーんてねっ」


 鳴り響いたのは乾いた金属音。綾芽の刃は、破壊されたはずのレイピアで受け止められていた。


「今の一瞬で雷装を再展開したのか……!」

「フッ、僕は天才なんでね!」


 その時、綾芽の右方から空気を裂く音がした。頭部を狙った高い位置の一撃。紗里凪の回し蹴りが、振り向く間もなく迫る。


「私だって!」


 しかし綾芽は一歩も動かず右腕で蹴撃を受け止めた。


「眼帯で右側は見えないはずじゃ……!?」

「うん。まあまあ良い蹴りだな」

「まだまだ……適合者には負けない!」


 紗里凪は止められた脚で力任せに綾芽の腕を押し退けた。揺れるスカート。靡くポニーテール。

 次の瞬間、逆側の脚が綾芽の頬を掠めた。


「……速い」


 休む間もなく更なる拳撃と蹴撃が繰り出される。絶え間ない吸い付くようなる猛攻。だが綾芽はそれら全てを最小限の動作で回避する。


「適合者に後れを取らない並外れた身体能力と優れた格闘術。君もなかなかやるな」

「僕のことも忘れないでくださいよ!」


 唯我が綾芽の背後からレイピアを構えて迫る。

 前方に紗里凪。後方に唯我。拳と刺突による挟み撃ちで綾芽は追い込まれた。

 ──そう思われた。

 その時、綾芽は刀を上方に手放した。


「投げた……! どうして!?」

「二人とも実力は確かなようだな。だが──」


 遥か頭上を回転する刀。その間、綾芽の空いた両手が二人の腕を鷲掴みにする。

 横転する世界。気付いた時には、二人は転がっていた。


「攻撃が単調だ」

「うっ、そんなっ……!」

「この僕が崩された……!?」


 そして綾芽は落下してきた刀を見事に手中に収めてみせた。再び刃を構えた綾芽は更に殺気立つ。


「さあ、次だ。私を倒してみせろ」


 綾芽は顔色一つ変えていない。唖然と立ち尽くしている充達に人差し指をクイクイと倒すジェスチャーを見せる余裕すら残していた。


「これが雷伐師の戦い方……」


 充の開いた口は塞がらなかった。

 そんな充の隣で、斬也は眼鏡に触れながら思考を巡らせていた。


 霧崎さんの攻撃は剣術の近接がメイン。飛ぶ斬撃に注意しつつ遠距離で攻めるのが得策だな。


 すると斬也は右腕に籠手型の装備を装着した。


「そのガントレットは──」


 雷導補助武具アシスターウェポン。雷の出力が不安定な適合者の放電をサポートする装備である。


 斬也は駆け出した。綾芽との距離が開く。

 向かった先は大量の遮蔽物が設置されたゾーン。斬也は不規則に並んだ天井へと伸びる柱の隙間を縫って駆け抜ける。


「物陰に隠れたか、いい判断だ」


 斬也は柱を背に屈んで身を潜めた。

 斬也の姿が消え、訓練場は静寂に包まれる。斬也はどこから何を仕掛けるのか。張り詰めた空気に、外野の充は息を呑む。

 ──しかし綾芽には見えていた。


『隼迸斬』


 再び振りかざされる雷刃。その瞬間、柱の崩壊音が静寂を打ち破った。


「また飛ぶ斬撃だ!」


 斬也の頭上すれすれを駆け抜けた斬撃。斬也が潜伏していた付近の柱数本が瞬く間に崩れ去った。思わず背筋が凍る。

 

「そこに居るのはわかってるぞ」

「向こうからは完全に死角のはず……なんでわかった……!?」


 綾芽は倒れた柱の方へ歩み寄る。その一挙手一投足は阿修羅の如き威圧を醸し出していた。


 遮蔽物を壊されて辺りは拓けた。今出れば飛ぶ斬撃を喰らって終わり。居場所がバレてる以上隠れ続けても終わり……。


 眼鏡に触れた指先は震えていた。だが迫りくる脅威を前には、怖気づく暇など与えられない。

 斬也は迷わず立ち上がる。


「……証明しろ、こんな俺でも戦えることを!」


 斬也は右手を銃のように構える。照準は綾芽。指先が標的を捉えた時、ガントレットの先端が光る。


「穿て!」


 その瞬間、一筋の電撃が空気を穿った。綾芽の眼前に閃光が迫る。だが綾芽は首を少し傾けて難なく躱し、電撃は壁を焦がした。

 すると突然、綾芽の姿が消える。再び無音になる訓練場。


「消えた……?」


 次の瞬間、空気を斬り裂く音が斬也の耳を劈く。感じる殺気。咄嗟に背後を振り返る。


「──沈め」


 目の前を支配する綾芽の鋭い隻眼。首元には峰打ちが迫る。

 そして刃が到達する寸前、ガントレットと刀の衝突音が響いた。斬也は刃を鷲掴みにしていた。


雷導補助武具それは頑丈さと手数の多さが強みだ。だが長時間の戦闘では身体に過負荷がかかる。それに戦闘中に故障しては世話ない」


 淡々と言葉を並べる綾芽。その間にも刃を揮う力は増し続ける。


「俺の弱点は……俺が一番理解ってますよ! でも、決定的な弱点があるのは俺だけじゃない」


 押し負けそうになりながらも、斬也は笑みを浮かべる。

 

「あなたの飛ぶ斬撃。あれは連発できない。一度に大量の雷を放つんだ、必ず貯めの時間が生まれる。だからこうやって接近戦を仕掛けた……そうだろ!?」


 核心に迫る斬也。しかし綾芽は平然としていた。


「ああその通り。隼迸斬はインターバルが要る。君は優れた分析力と洞察力を備えているようだな。だが──」


 綾芽は力任せに刃を引っこ抜く。


「それを知られたとて、どうということはない。私は近接の方が得意だ」


 再び振りかざされる刃。それと同時に斬也の指先が光る。刃と電撃。互いの攻撃が絡み合う。

 

「おい眼鏡っ、雷装使わないと負けちまうぞ!」

「使わないんじゃない……俺には使えないんだ!」


 激化する戦闘。充と紫雨は震え上がる。紫雨の手脚はガタガタと鳴り、立っているのもやっとだった。そんな震える両手を胸に当て、服をギュッと握る。


「怖い……けど、私だって雷伐師なんだから、頑張らなくちゃ……!」


 紫雨は服から手を離した。


『ら、雷装……展っ、開……!』


 光る掌。轟く雷鳴。踊る雷が集まりその形を成しす。

 手中に収まったのは一丁の拳銃。内側の部品や溝の細部まで寸分違わない代物だ。


「ちゃんとできた……大丈夫、やれる……よね」


 紫雨は長いスカートを靡かせて走る。駆け込んだ先は斬也が隠れていた柱。身を潜めて慎重に狙いを定める。

 綾芽に向けられる銃口。紫雨は片目を閉じ、標的を射線上に捉える。そして人差し指を引き金に。


「お願いします、当たって……!」


 響いた銃声。その瞬間、綾芽の髪が散った。


「あいつ……銃の雷装を!?」


 斬也は綾芽を狩る一歩手前まで迫った鋭い弾道を見逃さなかった。

 更に繰り返される銃声。放たれた弾丸の全てが、吸い付くように綾芽を捉える。

 綾芽は斬也の相手を放棄。刀を構え、襲い来る弾丸を一発ずつ迎え討つ。


「なんて射撃精度だ……」


 何発もの弾丸を受けた刀身は、所々がクレーターで埋め尽くされていた。


「あっ……いい、いきなり撃って、ごっ、ごめんなさい!」


 紫雨はヘドバンするように何度も頭を振った。


「重火器雷装は内部の部品まで雷の精密操作が必須。それをこなす集中力と射撃の腕前。随分と気弱なようだが、最も警戒すべきなのは彼女かもしれない」


 その時、綾芽の足下を一筋の電撃が焼いた。


「他力本願なようで不本意だが、今はこの機に乗じる他ない!」


 斬也と紫雨。二人の集中砲火が始まった。


 鳴志と乙駒は近接特化型。風那と神薙は遠距離からの後方支援型。今回の新人はバランスが良い。

 ──君はどうだ少年。君の実力を見せてみろ。誰も悲しませない雷伐師になるのだろう。


 斬也と紫雨の集中砲火が続く中、充の脚は床に縫い付けられたように一歩も動かなかった。


「どうやって割り込めばいいんだ……!?」


 雷伐師の戦い方……そうだ雷装! 適合者なら俺にも使えるか? でもどうやって使うんだ……? ああ、もうわかんねぇけどやってみるしかねぇ!


 一か八か、充は右腕を天に突き上げる。


「雷装ォ展開!!」


 銃声さえも掻き消す充の叫びが一同の注意を引く。


「まさか適合から二日で使えるの……!?」

「フッ、君も天才と呼ばれる側なのかい?」

「何でもいい、何か出てくれ!」


 しかし充の掌は雷を放たなかった。微弱な静電気が漏れ出ているだけで何も起きない。


「……あれ?」


 駄目だ、全ッ然わかんねぇ……! でもどうにかしねぇと。俺は雷伐師になるって決めたんだ。こんな所で手こずってどうする! どうやって戦えばいい? 俺には何ができる? 考えろ、考えろ! 


 充の瞳に、ガントレットを介して戦う斬也。それを眺める紗里凪の姿が映る。


 ──そうだ、みんなそれぞれの戦い方があるんだ。雷装が使えなくたって、適合者じゃなくたって戦ってるやつがいる。みんな自分の武器を磨いてそこにきたんだ。だったら俺にだってあるはずだ。俺にしかできない、俺だけの戦い方が!


 充は瞼の裏に自身が倒した雷人──かつて母親だった怪物の姿を再生する。


 思い出せ、あの時の感覚を。逃げ出したくなる恐怖。それをぶっ壊す勇気。誰かを守りたいって気持ち。俺の全身全霊を身体中から集めて……ぶつけろ!


 充は瞼を開く。そしてその瞳に綾芽の姿を捉えた。雷が充の身体を這い、右拳に集結する。轟音が大地を揺らし、点滅する閃光が壁を焦がす。


「……いくぞ!」


 充は飛び出した。音さえも置き去りにして。

 熱を帯びた拳が描いた軌跡が、紫雨と斬也の弾幕を焼き払う。遂に到達する拳。綾芽は巨岩のような一撃を刀の柄で受ける。


「重いっ……!」


 遅れて轟く雷鳴。想像を絶する質量。踏ん張る綾芽の両脚が軋み、雷装に亀裂が走る。拳の威力は留まることを知らない。


「これが俺の全力……俺の技……名付けて『雷乗撃らいじょうげき』だ!」


 雷が爆ぜ、押し込まれた拳が綾芽の雷装を木端微塵にする。衝撃波が綾芽を宙に浮かせ、端壁まで吹き飛ばした。

 吹き荒れる突風。皆、攻撃の手を止める他なかった。


「ひゃぁあああああ! 霧崎さぁああん!」

「何だあれは!?」

「これが覚醒から二日の威力なの……!?」

「僕の前髪がっ!」

『そこまで!』


 戦慄と驚嘆に満ちた模擬戦は、武蔵の一声で閉幕した。


「諸君、ご苦労だったな」


 模擬戦終了直後、杖を突く音と共に再び武蔵が現れた。


「先刻の模擬戦では諸君らの戦法と相性を確かめさせてもらった。これよりそれらを鑑みたバディを言い渡す」

「社長さん、バディってなんすか?」

「雷伐師は原則、二人一組のバディでの活動が義務付けられている。故に諸君らもルールに則りバディを組んでもらう」


 武蔵の前に五人が出揃う。


「まず、神薙斬也と鳴志唯我」

「はぁ……天才様がパートナーか」

「よろしく頼むよ神薙くん」


 唯我は持ち前の笑顔で声をかけた。だが斬也は眉をしかめ、目を合わせようとしなかった。


「そして乙駒紗里凪と風那紫雨」

「えっと、乙駒さんっ。どうぞ、よろしくっ、お願いします……!」


 紫雨はつむじを紗里凪に向ける。


「紗里凪でいいよ。よろしくね、紫雨!」

「あっ、じゃあえっと……紗里凪、ちゃん……!」


 紗里凪が差し出した手を握ったことで、紫雨の手の震えは治まった。

 各々が異なる反応を見せる中、充は自身の顔を指さす。


「……あれ、俺は?」

「少年のバディは私だ」

「わっ、眼帯さん!」


 いつの間にか充の背後に綾芽が立っていた。

 新人が疲労を隠せない中、綾芽は顔色一つ変えず佇んでいた。


「ねぇ紫雨。霧崎さん、武海の大技喰らってもピンピンしてるわ……。適合者って丈夫なのね」

「た、多分霧崎さんが特別頑丈なだけです……」


 紗里凪と紫雨の眼が点になっていた。


「武海くんはまだ雷の制御がおぼつかない。故に監視役として綾芽くんを付ける」

「というわけだ。よろしく頼むぞ」

「えー、脚引っ張らないでよ?」

「なっ、生意気だぞ少年。先輩に対して何たる無礼だ!」


 悪戯っぽく笑う充。そして綾芽の仏頂面は少し解けていた。


「それはそうと少年。さっき大量の雷を使っていたが、一昨年のように立ちくらみはないか?」

「今日は何ともないな。何でだろう」

「もしかするとその金属のブレスレットがリミッターになっていたのかもしれないな」

「これが……」


 充は指先でブレスレットに触れてから微笑んだ。


「母さんが俺を護ってくれたんだな」


 武蔵はブレスレットを見つめながら充の背中と在りし日の友人の姿を重ねる。


 嘉槌かづち。あの子なら私達が目指す世界を実現できるかもしれないな。何せお前の息子なのだから──。

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