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二十五重の塔  作者: quiet
8/24

08 形



 最初、おれは窓架の言っていることの意味がわからなかったし、たぶん百羽もそうだった。

 だから、双子みたいなポーズで天井を見上げる。手のひらを上にして、首を傾げて、


「え?」

「何が?」

「……普段からぼーっとしてると思ってたけど」


 窓架が辛辣なことを言う。いい、と神経質な家庭教師みたいに人差し指を立てて、


「人は雨風を防ぐために屋根を作りました」

「はあ」「うん」

「だったら、屋根を貫通して廊下に雪が降ってるのはおかしいでしょ」


 おれは、百羽と一緒に考えた。

 教育番組のワンシーンみたいな時間だ。じっと天井を見つめる。そわそわと、粉雪が天井を透過してくるのを見つめる。試しに、ぴょんと跳んで手を伸ばしてみる。


 触れる。


「本当だ」

「え、おかしいね」

「きみらってどういう感度で生きてるの?」


 心底呆れたというか、信じられないものを見るような目で窓架はおれたちを見ていた。

 しかし、信じられないというのはおれたちの方も同じだった。こうしておかしさを認識してみると、なぜついさっきまで違和感なく目の前の状況を受け入れられていたのかわからない。普通、室内に雪は降らない。雨漏りくらいはあるかもしれないが、少なくとも屋根が雪を受けて、それがどこでも溶けないで下まで形を保ったまま落ちてくるということは、ありえない。


 しかも、床にも積もっていない。


「これ、どこまで落ちてるんだろ」


 同じことを、百羽も思ったらしい。


「見に行ってみるか? どうせコンビニ行くんだし」

「行く!」

「ちょっと待った」


 窓架が待てをかける。

 なおも信じられないものを見るような目で、


「どういう軽さ? 普通、こんな異常事態を前にしたらそんな軽率に動かないでしょ」


 そうか?

 おれは目線で百羽に訊ねてみる。百羽も「そうかなあ」というような顔をして、


「火事とかだったら慌てるけど、雪だしね」

「雪だしな」

「火事より雪の方が変でしょ」

「変ではあるけど、危なくはないよね」


 危なくないかはわからないが、変なことが起こってるなら多少様子を見た方がかえって安全度は増すように思えた。部屋が煙たいなと思ったら、どこかかから火が出ていないかと確かめに行くのと同じだ。


「とりあえず、わたしたちで見てくるよ」

「窓架は部屋で待ってろよ。後で報告してやるから。あ、なんかコンビニで買ってきてほしいものあるか?」

「……ない、けど」


 そっか、とおれは頷く。じゃ、と百羽は歩き出している。その後ろを行く。

 階段のところに差し掛かって、足音が三つあることに気付く。


 振り向く。


「……けど、私も行ってあげる」

 きみたちぼーっとしてるから、と窓架が言った。





 ついでに言うと、廊下の電気が消えていることにも窓架に言われるまで気付かなかった。

 言われなかったら、足元がよく見えなくて普通に階段から落ちていた可能性もある。この時点で、窓架が一行に参加してくれた元は取れたと言ってよかった。


 月も星も、雲に隠れてしまっている。雪明かりだけではまだ心もとない明るさで、だから慎重に、足元をライトで照らしながら歩いた。


「壊れてんのか? 電気」

「雪と同じで、これも異常事態の一つなんじゃない」


 おれの呟きに窓架が反応するが、すぐに百羽が、


「あ、でもほんとに壊れてるかも。一昨日も電気点いてなかったよ、そういえば」

「一昨日? 夜?」


 夜、と頷けば、窓架は探偵みたいに顎に手を当てて、


「そのときは何か変なことは起こらなかった?」

「変なこと……」


 訊ねる。百羽は視線を天井の方に向けて、記憶を掘り返す。

 それから、おれを見る。


「ん?」


 何の心当たりもない。とりあえず瞼を閉じてみるが、「違う違う違う」と返ってくるばかりで、それ以上百羽は何も答えない。


「あ、そういう……」


 窓架が横で、何かを察する。

 が、おれは本当に、何の心当たりもない。


「一昨日? 別に、何した記憶もないけどな。学校終わって帰って、ちょっと勉強して飯食って寝ただけで。廊下で何かあったのか?」

「ううん。別に。玲ちゃんがそう言うなら、大丈夫」


 明らかに何か思わせぶりな口調で百羽は答えた。

 ああそう、と窓架もあまり深入りはしなかった。が、おれと百羽の間で視線を交互にさせていたから、何かを勘繰ってはいた。おれは潔白だが、潔白を主張すればするほど怪しくなる予感がしたので、何も言わずにおいた。根も葉もなければ四十五日で綺麗さっぱり忘れ去られるだけの話だ。


 一階に着く。


「やっぱ、ここで積もんのか」


 うっすらとした積雪が、そこに溜まっていた。


 急に足元が明るくなったように見えた。大した量でもなく、靴の裏で擦れば簡単に床まで捲れてしまうくらいの、薄氷じみた雪が一面を覆っている。すると、ますます不思議になった。なぜ天井やら塔の各階の床はすり抜けてきたというのに、この一階の床だけはこれを留めておくことができるのか。


 というようなことを三人で話し合ってみるが、もちろん答えは出ない。

 先へ進むことにした。


「ね、二人は雪って好き?」

「冬が嫌い」


 窓架の答えに、おお、と思わずおれは慄いた。


「普通言うか? 『好き?』って訊かれて『嫌い』って」

「だって寒いでしょ。冬眠して過ごしたいくらい。夏の方がまだマシ」


 というわけで自動的に雪も嫌い、と窓架が言う。

 しかしまあ、特に意外というわけでもなかった。冬が来て教室のストーブをいち早く出すのは窓架だし、休み時間になるたびにストーブの近くに移動するし。単に火が好きというわけではないならば、寒いのが相当苦手だというのは想像に容易い。もし単に火が好きだった場合、これからおれたちは〈塔〉の全焼に備えて戦々恐々とした日常を送る羽目になる。


「玲ちゃんは?」

 言いながら、百羽はすでに雪を拾い始めている。


 正直なところ、おれも結構窓架側の意見の持ち主で、あまり寒いのが得意とも言い難い。しかし百羽が雪玉を手の中でこねている様子を見ると、付き合ってやらないのも可哀想かという気持ちが浮かんでくる。


「結構好きかもな」


 よし、とばかりに百羽が振りかぶった。

 そして、それを下ろした。


「よく考えたら、玲ちゃん怪我してるもんね」


 まだ昨日の気絶のことを気にしてくれているらしかった。当の本人のおれが忘れかけているくらいだったのに。


 そういえばどこを打ったの、と窓架に訊かれて、このへんらしい、と頭を傾けて、わかんね、と髪をかき分けられて、ここだよここ、とさらに百羽にも頭を横倒しに引っ張られて、めちゃくちゃな姿勢でおれは歩く羽目になる。


 すると、奇妙な風景を目にすることになった。

 いつもの教室だ。それが九十度傾くだけで、急に見慣れない風景に見える。上手く頭の中で処理できなくて、一瞬、変な気分になる。


 ついでに言うと、紫色の影みたいなものがその教室の真ん中に佇んでいる。


「なあ」

「ちょっと待って。玲ちゃん、もしかしてほんとに治った? どこだったのか全然わかんない」

「あれ」


 指を差す。百羽も窓架も、その先を見てくれる。

 おれがおかしいのかと思った。


 けど、すぐに二人も同じリアクションをしてくれたから、どうやら間違ってはいないらしいとわかった。


「何あれ」

「人……?」


 怪訝な顔で見るから、おれの頭が解放される。九十度修正。縦になって、真っ直ぐそれを見る。

 宇宙みたいな色をした、人型の影だか光だかが、そこに佇んでいる。


 窓際の、ちょうどベランダに続く扉のあたりに立っていた。つまり今朝、窓架がストーブを点けたり、おれがヤカンを沸かしたり、あずきが座ったりしていたあたりだ。


「これもか?」


 おれが訊くと、「知るか」と窓架はすげなく答えた。そしてこういうときに一番最初に動き出すのは百羽と相場は決まっていて、早速教室の扉に手を掛けた。


「待てこら」

 窓架に止められていた。


「刺激をするな、刺激を」

「だな。犬とかクマとかハチとかも、とりあえず刺激しないのが大事だっつーし」


 同感だったのでおれも後押ししてみるが、


「でもそれ、犬とかクマとかハチとかの話でしょ? 玲ちゃん、大人しくしてたのに蛇に組み付かれそうになってたじゃん」

「えっ、何それ」

「いやあれはおれも結構騒いでたし……」


 死ぬほどどうでもいい、あからさまに緊迫感のない雑談が始まる。


「うお、」


 終わった。

 動き出したから。


 おれたちはもう、すっかり釘付けだった。海辺で揺られる海草みたいに、その影が波立ち始めた。発光性の色砂をドラム型洗濯機に詰めたみたいに、その表面で色がぐるぐる回る。ちょっとした天体ショーみたいな光景が披露され、そのどさくさに紛れてもう一体出てきた。


 どさくさに紛れて、もう二体出てきた。

 すぐに、おれたちの教室の全生徒数を超えた。


 こっちに寄ってきた。


「わ、」「に、」

「逃げんぞ!」


 ふたりの背中を押して、駆け出した。

 影は当たり前のような顔をして教室の扉をすり抜けてくる。全く音も立てないままで、おれたちを追いかけてくる。逃げ出したのは正解だったのか? 案外あんなしょうもない会話で楽しくなってないで、素知らぬ顔でじっと見つめ合っていればそのまま安全に部屋まで戻れたのか?


「何あれ!」


 国南百羽くん十七歳は、こんなときでも好奇心に憑りつかれて後ろを振り返りまくっている。


「いいから逃げ――」


 穂ノ倉窓架くん十七歳は、好奇心に憑りつかれてはいないが、雪が苦手だった。

 つんのめった。


「うわ――」

「まど――」

「おい、」


 そこからは、雪道にありがちな事故の連鎖だった。

 窓架が足を滑らせる。責めようがない。薄氷みたいな積雪の上で三人も全力で走っていたら、誰かしらはこうなる。下半身が完全に床から浮いていて、これじゃ顔面から落ちる。


 となると、背中を押していたおれの出番だ。力の向きを逆にする。窓架の服の背中を引っ掴んで堪えてやろうとする。しかしそんなに人生何もかもは上手くいかない。全速力に急ブレーキがかかった形で、当然おれもバランスを崩す。それでも、投げないバックドロップみたいな形で窓架を抱え込むことに成功する。おれの方が下なら、何とかなるだろう。強いて心配するなら、昨日の今日で頭を打ったら流石に危ないかってことくらいで、


「危ない!」

 百羽が親切にも、その頭を庇うべく飛び込んできてくれた。


 後頭部に手のひらが添えられる。どうもありがとう。これで安心して床に落ちられる。


 体重、三人分。

 おれの背中が、全部受け止めた。


「ぐえっ!」


 一瞬、呼吸が止まった。

 それからさらに、上下左右の感覚とか、そういうのが飛んだ。手足が入り乱れすぎて、どこをどう動かしたらいいのか咄嗟にわからなくなる。当然、追われた側がそんな風に困っていても追う側には関係がない。むしろ好都合になる。


 仰向けで、天井を見上げている。

 その隅に、例の影の姿が見えた。


「やべ――」


 どうにかして起き上がろうとする。

 その瞬間のことだった。



 視界の下の方から『でかい手』が飛び出してきて、影を根こそぎ薙ぎ倒した。



 呆気に取られた。

 そのでかい手は、伸ばされたまましばらく視界に留まっている。だからおれは、まじまじとそれに目を凝らした。


 一言で言うなら、めちゃくちゃカッコいい。


 人間の手と同じく五本の指があるが、その五本が全体的に、鋭利に尖っている。指の一本一本にささくれみたいな鋭い枝分かれがあって、壁でも楽々上れそうな安定的な、そして一度捕まえた獲物を二度とは逃さないような、そういう凶暴なホールド力を感じさせる。


 全体としては人の手とフォルムが似ているが、細部を見ると虫とか蜘蛛とか、そういうのに近い。

 では、ここで根元を見ていこう。


「……穂ノ倉センセ」


 窓架が。

 呆然と自分の肩の先、そのめちゃくちゃカッコいい腕を見ている。


「何すかそれ」

「――何これ!?」

「何それ!?」


 がばり、とおれの上からふたりがどいてくれた。

 おれの方はといえば、まだしばらく立ち上がる気力が起きない。背中の調子を確かめて、まあ大事なさそうだなとわかってから、ようやく座った姿勢まで身体を起こす。後ろを見る。影はとりあえず、あの手が全部吹っ飛ばしてくれたらしい。さっきまでの光景が夢だったみたいに、影も形もなくなっている。


「ちょ、ちょっと待って! これ戻んない!」

「え、どうやるのそれ! ていうか何!?」

「知るか!」


 一方こっちは、大騒ぎだった。

 ぶんぶんと窓架は腕を振っている。風が起こり、雪が舞い上がる。髪がまみれたから、おれはそれを頭を振って払いのける。払いのけてから、しまった頭はあんま揺らさない方がいいか、と思っていると、


「ちょ――どうすればいい!?」


 無理な相談を窓架が持ち掛けてくる。


「お洒落なネイルだと思い込むことにする」

「適当なこと言うな! ずたずたに引き裂くぞ!」


 早速その腕に適応した脅し文句とともに激昂してくる。実は結構余裕があるんじゃないのか?


「窓架ちゃんそれ、痛いの?」

「いた……」


 おれよりも百羽の方が、相談相手には適していたらしい。

 その心配の一言で、窓架は急に沈静化する。手を握ったり、伸ばしたり。硬質な音とともにその動作を確かめて、


「……くは、ない」

 ようやく、大声が止まった。


「いや、え? 何これ。私……」

 窓架は改めてまじまじと自分の手を見ると、


「感染した?」

「何にだよ」

「改造されたの方がそれっぽくない?」

「改造されてんの? 私」


 おれは立ち上がる。百羽と一緒になって、窓架の腕を見てみることにした。


「改造されたの方がしっくりくるかもな。おれたちのピンチを救ってくれたわけだし」

「ありがとうね、窓架ちゃん」

「いやそんなんどうでもいいんだけど」

「心当たりはないのか? 最近そういえばUFOに連れ去られたな~とか」

「適当なこと言ってんなよ」


 おれは片腕一本で吊るし上げられる羽目になった。

 持たせてはならない人間に力が渡ってしまった気がする。サンキューサンキューと唱えながら腕をタップすると、あっさり地上に下ろしてくれる。適材適所かもしれない。


 それはそれとして、首は掴まれたまま、


「百羽。本当に感染系だったら危ないから、あんまり近付かないで」

「あ、うん」

「おれは頼りやすいって認識でいいのか?」

「って言ってる傍からなんで寄ってきちゃうのかな、きみは」

「いや、でも、気になるし」


 感染系ね、とおれは首に添えられた腕を見ながら考える。


「虫さされとか皮膚炎ではなさそうだけどな。考えられるなら……」


 あれ、と後ろの方を指差せば、ようやく放してくれた。


「やっぱり?」

「しかないだろ。影とか雪とかの関係で、おれらの身体にも影響が出てるんじゃねーのか」

「え、わたしたちも?」


 かも、とおれが言うと、百羽は窓架に訊ねる。


「コツとかある?」

「……別に。ヤバいと思って手を出したら、そのままぐわーって」

「正義の心に目覚めてるな」

「ふんっ」


 百羽は早速試してみたらしいが、特に効果はない。感染系にしろ、個人差がありそうだ。


「で、どうする?」


 原因はともかく、これからの対処のこと。

 話を戻すと、窓架にしては珍しく弱い語気で、


「どうするって言っても……これ、寝たら治ると思う?」

「治ってくれるといいよな」

「感染系っていうなら、薬とか塗ってみたらいいんじゃない?」

「薬……」


 本人としては、百羽の提案に一考の余地を感じたらしい。少し目線を上げてから、


「どんな?」

「皮膚炎とか、虫刺されとか、かぶれとか」

「そういう次元じゃないと思うんだけど」

「殺虫剤ぶっかけてみたらどうだ?」

「いつまでも私が実力行使に出ないと思ったら大間違いだからな」


 ぶんぶん、と威圧的に窓架は腕を振って、


「ゲームじゃないんだよ私の身体は。そんな虫っぽい成分を除去したら元の状態に戻りましたなんてあってたまるか」

「だけど、実際は『ピンチで目覚めて不思議な身体』だろ? 殺虫剤はともかく、何かしらやってみればそれがきっかけで戻ったりするんじゃねーか」


 一考の余地ありと感じたらしい。

 窓架が考え込み始める。提案としてはいかにも気休めというか、殺虫剤に至っては気休めどうこう以前に一考の余地もないだろと自分でも思うが、何せどんなしょうもない提案よりも、目の前で現実に起こっていることの方が信じがたい。気休めだってないよりはマシ。どうせここまで来たんだし、コンビニに寄ってみてもそれほど無駄足になることもない。


 と思って、そっちの方を見る。

 百羽が先に気付いた。


「なんで電気点いてるんだろ」


 それが、最後の一押しになった。

 廊下の電気はすべて消えている。だというのに、なぜかコンビニの明かりだけは点いている。さながらおれたちは飛んで火にいるあれみたいに、「もしかしたら何かあるかも」と期待してコンビニに誘い込まれていった。


 奇妙なことの最後が、そこに待ち受けている。


 店番の婆さんが、目を開けていた。


 これは結構な衝撃だ。おれと百羽と窓架は、衝撃で固まっていた。窓架なんか、腕を隠すことも忘れていた。婆さんの目線がさっとその腕に向けられた。


 婆さんが立った。

 腰を抜かすかと思った。


 実際、窓架は立ったまま腰を抜かしていたのかもしれない。婆さんがカウンターから出てきても、窓架の方に歩み寄っていっても、後退りすらすることがなかった。無理もない。傍から見ていてすら巨大ロボット地上に降り立つみたいな光景だったのだ。それを真正面から直視してしまっては、身動きが取れなくなっても仕方ない。窓架は動かない。おれと百羽は固唾をのんでいる。


 婆さんの手が、窓架の手に触れる。



 手が戻った。



「は――?」

 それでも一番最初に我に返ったのは、窓架だった。


「ちょ、ちょっと待って!」

 用は済んだとばかりに婆さんが踵を返すのを、がしっと掴んで止める。詰め寄る。訊ねる。


「何、今の!」

「大したことじゃない」

「そんなわけあるか!」


 だってさっき、と婆さんに掴みかかっていない方の手をまじまじと見て、


「全然違う、化け物みたいな形になって――」

「何も変わりはしないよ」


 対照的に、しわがれて落ち着いた声で婆さんは言う。


「そこの子は、」


 おれを見た。


「男で、他の二人は女。だけど、そのくらいのことであんたらは、その子を仲間外れにしたりはしないだろう」


 おれが相槌を打つべきなのだろうか。

 迷っている間に、婆さんは続けて、


「形なんか大したことじゃない。それだけの話だ」


 しかも、締めてしまう。

 するりと、婆さんが窓架の手から抜け出した。


 今度は窓架も捕まえられない。婆さんはカウンターの奥に入っていく。スタッフルームの方に消えていく。


 戻ってくるのかと思って待っていたら、戻ってこない。


 雪の日の夜。奇妙なことに見舞われて、廊下なんか全部暗いままで、よくよく明かりの下で見れば、結構な量の雪に身体をまみれされて、おれたち三人は仲良く顔を見合わせる。


 答えの出そうにない疑問を、心の中で共有し合っている。



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