22 仲良くなっちゃったから
多分、これから生きていく中でおれは、このことを一生誰にも打ち明けることはないと思う。
ずっと、ここにいたかった。
∞
「あ、そろそろぶつかる。……ぶつかった」
「強度はどう?」
「全然。百倍来ても余裕」
最初の仕事は、窓架の役目だった。
蜘蛛といえば、蜘蛛の巣だろう。今は〈塔〉の周辺一帯に、窓架が編んだ糸が張り巡らされて、一つの城が構成されている。
とてつもない量の糸を操っているはずだが、窓架の顔には汗一つ浮かばない。どころか、そのとてつもない量の糸のどこに何が当たったのか、そういうことを指先の感触だけを通じて理解しているらしい。正直、舌を巻いた。こういうのは、とてもじゃないがおれにはできない。
すうっと腕を動かして、
「こっちはね、雑魚ばっか。私処理するわ。で、こっちが刃物持ちがいそう。雑魚狩りが終わったら糸の強度上げてみるつもりだけど、処理速度次第では中に入ってくるから一応気を付けておいて」
「うん、うん」
パチパチと、その言葉を聞きながら百羽がノートパソコンに情報を打ち込んでいく。
こんなの簡単にできるよ、と百羽は言った。〈塔〉の周辺の地形だとか、そういうのをあらかじめまとめておいて、窓架の言っているとおりの情報をそこに打ち込んでいく。
何となくおれは、昔のずっとぼーっとしていた百羽のことが、懐かしくなる。
「……なあ、玲」
隣であずきが、腕組みして言った。
「カッコいいな。糸使いと天才ハッカーって」
糸使いはそうかもしれないが、天才ハッカーは普通に間違いだと思う。
が、そういう話でもない。おれは改めてあずきのことを見て、
「大丈夫。刀使いってのもかなりカッコいいぜ」
「ありがとう」
「あと、人間なのにめちゃくちゃ強いっていうのも効いてる」
それは、とそこであずきは言い淀んで、
「ちょっ……と。反応に困るかもしれない」
はは、と笑うと、ぺと、と手の甲に感触があった。
見る。糸がついている。
「それ、通信機」
窓架が指を差した。
「糸電話かよ」
「いいでしょ。きみら、糸電話とか好きそうな顔してるし」
「どういうことだよ」
「よくわかったな、窓架」
「は?」
「ロマンチックだからな」
どういう、と詳しくあずきに訊く時間もなかった。
あー、と窓架が大窓を見て、声を上げる。
「ごめん。やっぱ上の方は無理。てか、なんだっけ百羽」
「何?」
「あれ、あの空のやつ」
「特科会のUFO?」
「そうそれ。あれが相当火力高くて、上の方をじわじわ焼き切られてる。で、それ察して上登って降ってくるのがそこそこいそうだから――」
「俺たちの出番だな」
ようやく、とあずきはやる気満々。
おれの方はと言えば、そんなでもないけれど。
「行くか。玲」
そこまで言われれば、まあ、付き合うのにはやぶさかじゃない。
「おう」
短く答える。
あずきはバイクに跨る。エンジンを吹かす。おれは最初、普通に飛び降りるつもりだったけれど、いかにも乗れと言わんばかりにあずきが親指を立てるから、お言葉に甘えることにする。
空。
蜘蛛の巣が、赤く燃えて焼き切られる。焦げた糸の欠片が〈塔〉に降り注ぐ。僅かに開いたその穴から、無数の影が飛び出してくる。影だけじゃない。おれの頭の中に、こんな言葉が浮かんでくる。
百鬼夜行。
あずきがアクセルを開ける。
二十五階の窓から、おれたちは飛び出していく。
∞
母さんから〈塔〉の全容を聞いたとき、おれは「親子ってここまで似るのが普通なんだろうか」と考えた。
だって、おれだってそっくりそのまま、同じことをする。
大切なものは、箱にしまっておきたくなる性質だ。前々からそう思っていたけれど、かつての記憶を思い出して、はっきりと確信した。
央都に百羽が行ってしまった後。
死んだ、って聞いて。
おれは「どこにも行くな」って抱き締めた。
別に、百羽を相手に限った話じゃない。あずきが相手でも、窓架が相手でも思うだろう。どこか自分の知らない場所で死んだって聞いたら、絶対にそう思う。
あの頃を、ずっと続けていたかった。
こんなことになるなら、閉じ込めておけばよかったって。
だから、おれには母さんの気持ちがわかった。何度も何度も何度も、よく飽きないよなっていうくらいにこの〈塔〉の中で同じ時間を繰り返している気持ちも、よくわかった。おれも、同じことをするから。力尽きるまで、朽ち果てるまで、同じことを続ける。大切なものだから。永遠に終わらないでほしいって、本気で思っているから。
だから当然、おれの頭の中にはこんな選択肢も浮かんでいた。
母さんのやっていることを、おれが引き継ごう。
できない話じゃないと思った。直感的に、おれはそれをどうやるかがわかる。〈塔〉に四人を結び付けて、何度も繰り返す方法がわかる。話し合いがどうとか、そんなのは本当は関係がない。あずきですら、一度この魔法に巻き込まれてしまえば、そうとわからなくなっていたくらいだから。
勝手にやっちまえばいい。
そうしなかった理由は、些細な質問から。
別に、そんな核心を突いたような問いかけをするつもりはなかった。話を聞く中で、一個だけ。おれだったらそうはしないかもっていうことが混ざっていたから。どういう理由があるんだろうと気になって、訊ねてしまった。
なんで、
「あずきと窓架が入ってきたときに、排除しなかったんだ?」
おれと百羽のことだけを考えるなら、邪魔だったはずだから。
異物が混入したら、取り除くのが普通だから。不思議に思って、おれは訊ねた。
母さんは、こう答えた。
「だってあなたたち、仲良くなっちゃったから」
∞
宙に舞っている。
バイクに乗りながら。
初めての体験だった。このくらいの高さからなら落ちても死なないとわかっていても、なお怖い。頬に触れる空気が、いつもより冷たい。
その分、妙に気分が晴れやかで。
今ならちゃんと、思ったように身体が動くような気がした。
見上げた先は、蜘蛛の巣が作り出した糸の砦。
そのほんの一部が、糸の向こうのUFOが放つ熱線に焼き切られている。
無数の影と、機械が降ってくる。
「――オ、」
バキッ、と背中の骨を鳴らした。
伸びていく。変わっていく。本当に久しぶりに、身体の根本から、元の形に戻っていく。しっくりくるような気もするし、何だか全く慣れない気もする。
あずきの背中から、手を放す。
宙に完全に投げ出されて、次の瞬間、おれは元の姿に戻った。
「オォオオオオオ――!!」
自分でも驚くような声が出て、大地を揺らした。
〈塔〉それ自体にも匹敵するような巨体だ。しかも、まだでかくなれる。最終的には、母さんみたいに〈塔〉をぐるりと締め付けるみたいに伸びていくことも可能だろう。
今は、それをぶん回す。
面白いくらいに、周りの奴らは吹っ飛んでいった。
あずきもあんな小さな身体をしておいて、おれに負けちゃいない。不届きなことに、おれの身体をバイク専用の高速道路みたいに扱っていたりもする。それで、その速度を乗せたままに刀で切り裂いていく。よくもまあ、とおれは思った。人の身で、ってやつだ。
「いいぞ、玲! 準備しろ!」
それでもおれたちは、向かい来る全てをぶっ倒して自由になろうとは、思ってちゃいなかった。
そもそも、そんなことは不可能だからだ。このくらいの数なら、何とかなる。でも、次はどうかわからない。このくらいの数じゃ相手にならないと思われたら、今度はもっとたくさんの数で向かってくる。
戦い続けるだけで、生きることを終わらせるつもりもない。
だからおれたちは、別の狙いを持っている。
「――――!」
叫ぶ。
地面の下から、水が噴き出す。流れになる。川になる。渦になる。
地面を抉る。
〈塔〉が、傾いていく。
∞
「UFOをね、壊してみようと思ってるんだ」
と百羽が言ったのは、あの真夜中のことだった。
四人で並んで眠った部屋。真夜中。ぼそぼそと、小さな声で。
「力で対抗すんのか? いつか絶対、限界は来ると思うけどな」
おれは、ごく普通のことを言った。
けれど、ううん、と百羽は簡単にその予想を否定する。
「そうじゃなくて。単に、わたしたちが『手を出しにくいところだな』って思われるようにしてみようって」
それからぽつぽつと語ったのは、『総理大臣』時代に身につけた知識だったんだと思う。
あのUFOは、今のところこの国の中に存在している勢力の中では頭一つ抜けて強い――
「……よね? 玲ちゃんのお母さん、普通に受け止めてた気がするけど」
まあ、とおれは曖昧に頷いた。
母さんがどんなもんかというのは、正直なところおれにもよくわからない。ろくに外には出ないで育ってきたから。けれど、百羽が央都から帰ってきた夜の記憶はある。あの場で飛び抜けて強力に見えたのは、そのUFOだ。
「あれを作ってるところはね、特殊科学振興会っていうんだけど。なんて言ったらいいのかな。急進的っていうか、目的のためなら手段は選ばないっていうか」
「ヤバい組織?」
うん、と小さく百羽は頷く。
でも、と続ける。
「その割に、全然敵がいないんだ」
何でも、一部の『総理大臣』の支援元にもなっているらしい。
その理由は単純で、設立目的からして科学ベースに魔法を取り入れていて、懐が広く、融和的に接触できる勢力が多いから。現場レベルの行動には問題がある場合も多いが、解決不能な利害対立の発生機会が少なく、各団体が消極的友好を態度として決定する場合が多い。
「交渉して、傘下にでも入るのか? だったらなおさら、UFOは壊さない方がいいんじゃねえの」
「いや、多分壊した方が上手くいくと思う。変だから、あそこ」
あと、と百羽は付け足す。
「傘下にも入らないよ。どうせ入っても完全には合わないだろうし、わたしたちみたいにバラバラすぎると、中に入ったら会うこともなくなっちゃうかもしれないし。だから――」
途切れる。
まさか喋りながら寝たのか、とおれは恐れ入って、寝返りを打つ。隣を見る。
何とも言えない顔の百羽。
くしっ、とくしゃみ。
「……見ないで」
げしっ、と足を蹴られる。
「逆向け、逆」
げしっ、とおれも蹴り返してみる。
「つめたっ。え、玲ちゃんの方、すごい寒くない?」
「体温の問題だろ。ほらおれ、変温動物だから」
「その状態でもそうなの?」
「知らん」
「場所替わる? こっちの方が多分、暖房当たってあったかいよ」
「そんなに変わんないだろ。てか、くしゃみしてるんだから百羽の方があったかいところにいた方がいいって」
「でもほら、全然」
ぐい、と足で足を引き寄せられる。
百羽の言う通り、相当の温度差があるような気がする。それが体温のせいなのか、寝ている場所のせいなのかはわからないけれど。
とにかく、他人の足に触ってるな、というしみじみした実感だけはあって、
「…………あ、あったかいでしょ」
「…………結局、」
今瞼を閉じたら色々まずいよな、と思ったから。
おれは話を戻して、率直に訊ねることにした。
「UFOを壊すとかUFOの会がどうとか。何をどこに繋げようとしてんだ?」
うん、と百羽も咳払いみたいにして相槌を打つ。
それから一足先に、おれだけに教えてくれた。
「〈塔〉をロケットみたいに射出しようと思ってるんだ。
それでUFOを壊して、特科会の互換団体の地位を確立する」
∞
「玲ちゃん、上から落とすよ!」
結局、母さんが口にした言葉が、おれの選択の全ての理由だったんだと思う。
仲良くなっちゃったから。
「玲、そろそろあずきは上に戻さないと危ない! 滑走路!」
「待て、まだ俺は――」
「聞く耳持たなくていいから!」
「――――」
おれ一人だったら、こんな選択肢は取らなかった。
まずもって、思いつかないから。特科会がどうこうなんて情報は持ってないし、持っていたとしても、おれはすごく内向的で、保守的で、独創性も薄い奴だから。外に出てやりたいことなんか何もないから。そんな選択肢は、頭の片隅にも浮かばないと思う。
おれ一人で決めていいんだったら、ずっとこの場所で、同じ日々を繰り返す。
でも、この場所にいるのは、おれ一人じゃなかった。
「百羽、計算して! どっち方向か私、よくわかんないから!」
「今出してる画面の通り! リアルタイムで仰角も出してるから、確認しながら微調整して!」
「全然『微』じゃないけどね!」
それは、単に百羽がいたから選択肢が増えたとか、それだけの話じゃない。
あずきや窓架と出会うことで、外の世界と接触するのも悪くはないんだなって思い直したとか、そういうことだけでもない。
そんなに前向きな話ばっかりじゃなくて。
ただ、おれが人に負けて自分の意見を曲げがちだとか、その程度の話だ。
「玲、上の奴らは片付けた! 後は――」
「回収!」
「――下に集中してくれ! 頼んだぞ!」
いつからこうなったのか、自分でも覚えてない。
本当にいつでも、何もかもを譲ってるわけじゃないと思う。
でも、おれはそういう奴なんだろうなって思い始めたら、急に色んなことが思い当たるようになった。
きったねえあずきの部屋を「困った」とか言われて一緒に掃除してやったり。おれは別に今日は鍋の気分じゃないってときに、窓架が食いたいって言うから鍋の準備をしてやったり。昨日なんか思いっ切りそれだ。いきなり部屋に泊まるって言われて、まあしゃあねーかって、簡単に受け入れてみたり。
央都に行きたいって言われて、背中を押してしまったり。
馬鹿じゃねえの、って自分で思う。
でも、誰だってそんなもんだろ?
「玲ちゃん! カウントダウン、二十五秒!」
百羽がそう叫んだとき、ほとんどの準備は整っていた。
〈塔〉で製造した射出装置は、二十五階からここまで落とされて、おれが作った渦の中に呑み込まれていった。それで機能するのかよって思うけど、機能するって思っていれば、機能する。ぐちゃぐちゃの時代のこういうところは楽だって、本気で思う。おれがそっち寄りだからかもしれないけど。
「十五!」
渦は、もうすっかり〈塔〉が突き刺さっていた地面を剥がし切っていた。
木の枝が地面の上に立ててあるとか、そういう状態に近い。もちろんそれだけじゃ不安定だから、それを窓架が支えてる。周りに張った蜘蛛の巣に糸を引っ掛けて、吊し上げるようにして姿勢を制御している。
「十!」
先に引き上げたあずきは、それでもまだ仕事をしていた。
具体的に言えば、二十五階から〈塔〉に侵入してこようとする奴らを処理している。窓架はもう両手が塞がっているし、おれだってこっちにかかりきりだから。あれなら、とおれは思う。安心して任せられる。
「八!」
発射準備は完了。
おれは、もう一度考える。
いいのか?
「七!」
発射権を握るのは、おれだった。
その上、ここで大暴れしたおかげで力の使い方は大体わかった。母さんがやったみたいに、ここで朽ち果てるまで日々を繰り返すことだって、やってできないことじゃない。
その上で、もう一度おれは考える。
いいのか?
「六!」
瞼を閉じれば、幸せな日々のことを思い出すだろう。
永遠に続いてほしいって、いつでもずっと思っていた日常を、鮮明に思い出すだろう。
きっと、それはおれに『もう一度』を考えさせる。
「五!」
でも、蛇に瞼なんざない。
ラッキーだよな。
「四!」
渦の勢いを強める。百羽が拵えて下ろしたいくつもの燃料を、上手くまとめる。勢いよく水に反応させる準備をする。
「三!」
後は、仕切りを取るだけ。
「二!」
いいさ、
「一!」
どこへでも行っちまえ。
「ゼロ!」
爆発。
〈塔〉が、空を飛んだ。
下から見た流れ星みたいだった。
〈塔〉が推進力を得る。煙を吐きながら、空へと向かっていく。さっきまでのおれの大活躍も霞むような大音量を立てて、空に上っていく。
それは綺麗に、窓架が張った蜘蛛の巣の、ちょうどUFOが焼き切ったところに向かっていく。
突入した。
まるで、大気圏でも突破するみたいに。
その先にあるUFOは、UFOって言うからにはもっと無重力みたいな動きをするのかと思ってた。でも、案外そうでもないらしい。重力のあるなしまで物理法則が壊れたら困るとか、そういう複雑な配慮が仇になったのかもしれないし、あるいは単に、速すぎて避け切れなかっただけなのかもしれない。
衝突した。
突き刺さった。
それでもまだ、〈塔〉の勢いは止まらなかった。
百羽が言ったことだった。母さんと祖母さんが、〈塔〉の機能を上手く使っていたのと理屈は同じ。目印としての機能を喪失したなら、隠れ家として使えるようになるとか、ああいうの。
理屈は同じで、その逆。
新しい意味を与えれば、それが機能になる。
〈塔〉は、おれたちが知ることのできるもっとも新しい科学社会の、一つの象徴だった。それが、化け物の力を借りて空を飛んだ。特殊科学振興会とかいう胡散臭いところが作った謎の飛行物体を、貫いて、撃ち落とした。
ロケットになった。
舟にも、なった。
〈塔〉が〈舟〉に生まれ変わる。曖昧になった世界で、科学も魔法も一緒くたのぐちゃぐちゃになった、その新しいシンボルとして。
飛翔していく。
貫いていく。
一段、二段、三段……UFOのその中心を、推進力のままに、押し通っていく。
それを見ながら、やっぱりおれは考えていた。
馬鹿じゃねえの、って自分を笑う声が聞こえる一方で、その全く逆のことを、真剣に。
誰だって、こんなもんだよな?
好きな奴らの願い事なら、全部叶えてやりたいって。
誰だって、そう思うよな?
二十五段目がUFOを貫くとき、おれは予感している。
これからもおれはきっと、自分が『二番目』に望んでいることを、叶えられないままで生きていくだろう。そのことを「なんだかなあ」って思いながら、ずっと『一番目』を選び続けていくだろう。
でも、それでいいって思っちまうんだろうな。
だって、そっちが『一番目』なんだから。
UFOが大破する。派手な爆発が起きる。その向こうで、〈塔〉はまるで傷付いちゃいない。何かのノイズが聞こえる。今時珍しくなった遠距離通信だろうか。信号が飛び交う。あるいは、記録用の機械だとか、魔法だとか、そういうのが群がってくる。
「我々は!」
〈塔〉から、そんな声が響く。
最初は威勢が良かったのに、急に音が消える。
音声トラブルだとは思わなかった。多分、名乗る名前を考えてなかった。今頃あの二十五階のフロアで、あずきと窓架に相談している。両方から適当なことを言われている。
自分で考えてる。
考えた。
「『未来連合』です!」
百羽が宣言をする。いくつもの信号が飛び交う。挨拶が飛び交う。お互いの出方を窺うような交渉が始まって、その交渉が進むたび、おれたち『未来連合』とやらの地位がどんどんと確かなものになっていく。
ぐい、と身体を引かれた。
ああ、とそれでおれは気付く。くっつきっぱなしになっていた、窓架の糸。〈塔〉へと続く一筋のそれが、ようやく突っ張った。攻撃は止んだ。役目は済んだ。元の姿から、いつもの姿に戻っていく。
早く来いよ、とばかりにその糸が引かれる。
はいよ、とおれは頷いて、その糸を手繰り出す。
一番後ろを歩くのも、悪くはなかった。
好きな奴らの背中を見るのも、押すのも、好きだから。




