三大魔法学院対抗戦-虚無-
暗い、遠くは見えない。明かりはなく、ここがどこなのか見当もつかない。しかし、自分の姿は確認できる。闇の中だというのに不思議な感覚だ。
(ここはどこ・・・?)
さっきまで闘技場で戦っていたはずなのに。こんな魔法は教わらなかったし、聞いたこともない。ただ、闇が広がっている。
「サリア」
聞き覚えがある声がした。振り返ってみるとそこにはエルが立っていた。
「エル!どうしてここに?」
サリアがエルに近寄るとエルはサリアを突き放すような動作をする。
「サリア、お前って本当にむかつくやつだな」
「え・・・?」
「なんでもかんでもお兄様、お兄様。おまけに私のことはまるでできない子、アホの子、馬鹿なやつって心の中で見下してやがる」
「エル、何を言って・・・」
「お前はどう思うよ、レン」
するとエルの隣にレンが現れる。
「確かに嫌な女だ、人を見下して比べて挙句の果てに自分は誰よりも偉いと思ってやがる。ただ、強いだけの兄を持っているだけで自分のほうが上だと勘違いしている馬鹿な女だ」
「エル!レン!私はそんなこと思ってない!私は・・・!」
サリアが二人に詰め寄るとエルとレンが消えた。延ばした手は空を掴む。
「私は・・・・どうしたら・・?お兄様・・・」
頭を抱え込むサリアに影が近づく。はっと顔上げるとそこにはゼロの姿があった。
「お兄様・・・?」
するとゼロは顔をゆがませてサリアを見下げる。その表情はサリアが今まで見たことのない顔、知らない顔、見たくない顔だった。
「無様な・・・!俺はお前を―――――」
そのとき、青い光がゼロを貫きサリアの顔をかすめていった。
「お兄様・・・」
手を伸ばし消えつつあるゼロを掴もうとする。しかし、またしても手は空をつかんでしまう。まるで、そこにいる人物はここにはいないかのように。
黒い霧のようなものがサリアを包み込んでほんの少し時間がたった。
(かかった!)
この魔法が発動した瞬間、エイティは勝利を確信した。
エイティが発動した魔法は『闇属性魔法A級ナイトメア』対象を闇で包み込み、恐怖、苦痛など人の心の闇を増大させる精神攻撃である。
(たいした事無いな、命令では今後のために少し壊してもいいと許可もでている。そろそろ止めを刺してやるとするか)
エイティがサリアに止めを刺そうと魔力を流そうとした瞬間、身体が飛び退いた。
エイティ自身、何が起きたかわからなかった。体が震え、冷や汗がどっと吹き出す。
(なんだ、今のは・・・?)
わからないが、もし、さっきいた位置にいれば死んでいた気がする。
(殺気か・・・?だが、一体誰が?)
周囲を観客に気付かれない程度に見回すが該当する人物は見当たらない。
(まぁいい、これで終わりだな)
ナイトメアの力を増大させるために魔力を流し込むが、魔力は魔法陣にいかずに霧散してしまった。
(どういうことだ?)
それどころか、サリアを包み込んでいた黒い霧が晴れていく。
(まさか魔法解除?)
色々と可能性を探っていると一点だけ気付いた。さっきまではなかったが、地面にある物が生えていた。それは矢にも見えるが何かがおかしかった。青いのだ、それも真っ青というわけではない。むしろ透き通るような綺麗な青色をしている。その矢が魔法陣を消していっている、これではいくら魔力を流し込んでも発動しないわけだ。だが、一つの疑問が浮かび上がってくる。
(一体誰が・・・?)
同じ頃、同じ疑問を持つ者がゲストルームからいた。黒い鎧を着込んでいる長髪の若い男だ。
「ありゃあ、一体なんだ?吸収魔法かぁー?」
そう言って隣の同じように黒い鎧で身を包み込んでいるあごひげの男に疑問をぶつける。
「違うな、吸収魔法ではない」
「じゃあ、一体何なんだよ!」
イライラと長髪の男が食って掛かる。答えは別の方向から返ってきた。
「消滅魔法じゃよ」
二人が振り向くとそこには白髪の老人が立っていた。
「これはマーリン様」
ひげの男、ガイレットがお辞儀をし挨拶をする。若い男も釣られてお辞儀だけする。
「消滅魔法ってなんだよ、初めて聞いたぞ?」
「シムオール!マーリン様に向かってなんて言葉遣いだ!」
「まぁまぁ、よいよい」
ほうっておくと騒ぎが大きくなりそうなので、マーリンは笑って二人を止める。
「消滅魔法ってのはじゃな、古に禁じられた魔法の一つじゃ」
「え、まさか禁忌魔法ってやつか・・・・?」
シムオールが驚いた顔でマーリンを見るがガイレットのほうは落ち着いていた。まるでその存在をあらかじめ知っていたような顔振りだ。
「禁忌に近いというべきかの。古の始祖たちが禁じただけであって、我々が使っても何の問題はあるまいて」
「そ、そうなのか」
「だが、その魔法式もやり方も存在しない」
「え?」
二人の会話に深刻そうな顔をしたガイレットが口を挟む。
「そうなんじゃよ、あれの存在は文献にのみ載っておってのう。魔法式すら記述されておらんのじゃ」
「じゃ、じゃあなんで今あそこで発動しているんだよ!というか、使い手がいないってことだろ!?おかしいじゃないか!」
「そう、おかしいが、使い手なら存在するのじゃよ」
「誰だよ・・・」
「貴様も一度は耳にしているだろう?」
「おい、待てよ・・・まさか」
「そう、『蒼の虚無』じゃよ」
シムオールが一瞬固まるが思い出したかのように口を開く。
「いやいや、ちょっと待て!その前に消滅魔法についてもっと詳しく教えろよ!」
「シム!」
ガイレットがシムオールを止める。
「わしも詳しくは知らん。じゃが、文献の通りならアレはすべてを消す魔法。『絶対消滅魔法』といわれている」
「すべてを消す魔法?だから消滅魔法?そのままじゃん」
シムオールの言葉にはぁーっとため息をつくガイレット。それに対し笑いながら答えるマーリン。
「確かにな、しかし、正式名称がないもんじゃからなぁ。そう呼んでいるだけじゃ、それよりもわからんか?すべてを消す魔法、これについては?」
「すべてを消す魔法・・・・・、待て待て待て!まさか、まさか!魔法も?人も?」
「そう消すことができるのじゃよ」
「それゆえ禁忌魔法といわれている」
「だけど、あいつは使っている!なぜだ!?なぜ、あいつを止めない!」
「止められるか?あの『最強』を?」
ガイレットの言葉にシムオールは沈黙した。それを見届けるとガイレットはマーリンに向き合う。
「ところでマーリン様はなぜここに?」
「人を探しておってのう、おぬしたちも重要人物じゃからこの辺にいるかと思ったんじゃが・・・」
「そうですか・・・」
そう言うとマーリンは個室から立ち去ろうとしている。それを慌てて引き止めるガイレット。
「試合を見ないのですか?」
「探しておる人物はおらんし、試合のほうは興味がないからの」
個室に沈黙が落ち、ガイレットは再び闘技場のほうに目を向けた。そこには銀色と青色のマスクを着けマントは青一色、銀と青の混ざり合ったローブを纏った人がエイティと向き合って立っていた。黒い霧はほぼ消え去り、よろめきながらもサリアが出てくる。倒れそうになるサリアを蒼の虚無が支え、そのまま抱きかかえる。
「あなたは・・・?」
まだ視界がぼやけているのか、抱えている人物を把握できないようだ。
蒼の虚無は手でサリアの目を閉じるように動作をした。すると、サリアは意識を失う。そのうち、寝息が聞こえ始めた。
「てめえか。俺に向かって殺気を放ちやがったのは!」
戦闘態勢をしつつ目の前の蒼の虚無に対して敵意をあらわにする、エイティ。しかし、蒼の虚無はそれを一瞥しただけで審判にむかって合図を送る。試合終了の合図を。
「答えろ!!」
押し黙る蒼の虚無に向かってエイティが吠えた。
「殺気を送ったのは俺ではない、よかったな」
「よかったな、だと・・・!?ふざけるな!」
「まだ首と胴体つながっている、よかったじゃないか。もし、俺が止めに入らなければお前はもうこの世にいないぞ?」
「・・・・どういうことだ?」
「答えるまでもない、この子を傷つけたくない人間がいるってことさ」
そう答えると蒼の虚無は空高く飛び、エイティの視界から消えた。試合終了の音が鳴り、次の対戦者の名前が告げられ、闘技場からエイティが下りてもエイティは今日あった屈辱を忘れることができなかった。相手を倒せず、正体不明の攻撃を食らい、『最強』に助けられる始末。
怒りに燃えている人物はエイティ以外にもいた。カルパニア側の最後の選手、レンだ。
サリアやエルの不甲斐無さに怒っているのではなく、ギルナミア帝国に対してだ。普通に試合をする分には問題なかった。だが、ここに来て精神攻撃、しかも蒼の虚無が止めなければサリアがどうなったのかすら想像もしたくない。医務室に向かったサリアに会いに行くのは試合が終わって、勝利を手にしてからでも遅くはない。きっと、ゼロ先輩もそれを望むはずだ。心に決め、レンは闘技場に向かった。
対戦者はすでに闘技場に立っていた。背格好は同じくらいで赤髪、女だ。
アナウンスが双方の紹介をし、試合開始の合図が鳴る。レンは冷静に相手を見つめた上で先手を打つべく魔法を放った。無詠唱で放たれた矢は相手の頬をかすめる。外すように放ってはいない。相手が避けたのだ。
(接近戦に持ち込む気か!)
相手も避けながら無詠唱で魔法を放つ。レンの目の前に高速で飛んできたのは雷の矢だった。咄嗟に光の壁を張り矢を防ぎきる、だが相手の攻撃はそれで終わらなかった。魔法を撃った次の瞬間、右手が急速に光始め電撃が走った。属性効果が現れる現象は唯一つ。
(魔法剣か!しかも雷属性!)
対するレンも右手に魔力を集中させる。具現化するのは光の魔法剣、ゼロとの訓練でレンが編み出したものだ。光と雷の魔法剣が交差する。電撃と光線が飛び散った。何度も何度もぶつかり合う剣、両者一歩も引かない攻防だ。雷の魔法剣を操るイレブンと光の魔法剣を扱うレン、互いに打ち合い続けたが決着はつかない。両者はこのまま続けてもただの体力の消耗戦だということに気付き、同時に魔法を放つ。
「<光よ、槍となり貫け!シャインランス!>」
「<雷よ、槍となり貫け!ライトニングランス!>」
ガキン!バチバチバチバチバチ!
レンが放ったシャインランスとイレブンの放ったライトニングランスがぶつかり合った。
閃光と稲妻で視界が奪われた。眩しい光が闘技場を包み込む。光が徐々に消えて視界が戻りつつあると闘技場にはイレブンが倒れており、その前に光を纏ったレンが光の魔法剣を携え立っていた。咄嗟に光属性で全身を強化し、光を無効化したのだった。
光の中で何が起こったのかはわからない、しかし結果がすべてだ。試合終了の合図が鳴りレンは勝利を収めた。
レンが勝利を手に入れるすこし前、サリアは医務室で寝ていた。
医務室の担当ルクルは困惑していた。突然、蒼の虚無が入ってくるなり、女の子をベッドに置いて帰ってしまったからだ。
「そのうち、その子を治すやつが現れるから安静にさせておけ」
という伝言付きで。
少女の状態を診断してみたが、どうやら闇魔法にやられたようだ。
治療しようとすると、男が1人入って来た。怪我人と思ったが違うようだ。男はルクルを無視し、少女のベッドに向かうので慌てて、ルクルは呼び止めた。
「お待ちください、現在その子は絶対安静です!治癒者が来るまで、動かさないようにと言われてます!」
だが、男はルクルの言葉に反応せず、少女の顔の前に手をかざした。
「やめなさい!何をするのですか!」
「<聖なる光よ、我が手に宿れ。癒しの光よ、闇を取り払え、ケアヒーリング!>」
ぽぅっ!と光が集まったかと思うと少女を包み込む消えた。
「今のは・・・光属性治癒魔法ですか。しかも、A級の」
「そうだ、この子は俺に任せて、あんたはあんたの仕事をしろ」
むっとした表情をルクルはしたが、少女の容態が回復したのも事実。自分にやることがなくなってしまったのでこの場を去る。どうせ隣室には自分もいることだし、変なことはされないだろうと思ったからだ。
ルクルが去った後、ゼロはサリアの傍らに座る。自然に目を覚ますのを待ち、しばらく時間が経った。うっすらと目を開けるサリア、視界にはゼロの姿がうっすらと見えた。
「お兄様・・・ここは?」
心配そうな顔で聞いてくる。
「医務室だ」
短く答えるゼロ。
「そう、ですか。私は負けたのですね」
「そうだな、どうやって負けたか覚えているか?」
「相手側の黒い魔法を当たった後はよく覚えてません。何があったのですか?」
一瞬、間を置きゼロが答える。
「あれは闇魔法だよ、闇属性は色々と厄介な特徴があるからな」
自分が負けたことに対してかサリアは涙を見せた。
「私は・・・弱いですね、お兄様。どんなに勉強しても、お兄様に教わっても本番では力が出せないなんて・・・」
「確かに戦いでは弱いな。だけどな、サリア、お前には戦いでは発揮できないそんな力があるのさ」
ゼロはサリアの頭を撫でながら言う。
「それはどういう意味ですか?」
「まだ言うことはできない。お前は戦うな、戦いは俺がする。だから、戦うとかそういう概念は捨てるんだ」
「お兄様がそう仰るのであれば・・・」
「今日はここで休むといい、大会のほうは気にするな」
「はい、お兄様は?」
「お前の傍にいるよ」
サリアが目を瞑り眠ったことを確認するとゼロはそっと部屋から出た。サリアの傍にいることをあえて無視したのは気配を感じたからだ。
部屋を出るとそこにはマーリンとゲンが立っていた。
「少々話をしてもよろしいかな?死の剣閃ゼロよ」
「一体何の御用だろうか、ご老体」
「貴様!マーリン様に向かって何という口の利き方だ!」
マーリンの傍らにいた男が身構える。
「俺とやる気か?ゲン・カミナギ」
名前を呼ばれてゲンに動揺が走る。
「な、なぜ私の名前を・・・?」
「そこまでじゃ、二人とも。ゲン、わしの質問の後で構わんかな?」
「す、すいません、マーリン様」
「で、質問ってのは?」
せかすようにゼロが問う。
「うむ、単刀直入に言うが、お主、アカネ・カミナギの魔力回復を行ったかの?」
「・・・ああ、やったが?」
この答えにマーリンは驚く。なぜなら、自分の予想が大きく外れたからだ。
「今学院に在籍しておるのも、妹がいるのも事実かな?」
「事実だ」
「ううむ、本当におぬしはあの死の剣閃と呼ばれている男なのか?わしらは人違いをしてるわけじゃないだろうな・・・?」
「そんなこと聞かれても困る、その通り名は周りが勝ってに呼んでいるだけだ。これ以上人を疑うのであればいっそ証明してみせようか?」
強烈な殺気が二人を襲う。
「くっ」 「ぐぬぅ・・・。どうやら本物のようじゃ、わしらはここで退散しよう。お邪魔だったようだしの」
二人が立ち去るのを見て殺気を収める、ゼロ。すると、マーリンがふと立ち止まり質問をまたしてきた。
「最後にひとつだけ、なぜ、アカネを助けたのじゃ?」
「才能があるからだ、剣の才能も、魔法の才能もだ。鍛えればいずれ優秀な魔法剣士となるだろう」
「そうか・・・、邪魔した」
マーリンは立ち去り、ゲンはゼロに向かって感謝の礼ををするとマーリンの後を追っていった。ゼロはそれを見届けるとまたサリアの元へと戻っていった。大会の妙に長い一日目はこうして過ぎていった。




