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魔力を失い婚約破棄された令嬢ですが、執着監禁王子から逃げた先で人生やり直します  作者: ゆにみ


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9、リゼリア逃亡する

 多分クロード殿下にこの部屋を出たいと言っても拒否されるだろう。

 彼の優しさにすっかり忘れかけていたけれど、元々私は半ば強引にここへ連れてこられたのだ。


 それなら……。


 自力で逃げ出すしかない。


 (……でも、どうやって?)


 リゼリアは机に肘をつき、指先でテーブルを規則正しく叩きながら考え込む。


 逃げるにしても、ここは王宮だ。

 警備は厳重で、どこへ行っても人の目がある。


 下手に動けば、すぐにクロード殿下へ伝わってしまうだろう。


 失敗は許されない。もし見つかれば――今度こそ、本当に外へ出られなくなる気がした。


 その時だった。


 「そんなに考え込んで、どうしたんだ?」


 不意に降ってきた低い声に、心臓が跳ね上がる。


 「……っ、で、殿下!?」


 慌てて顔を上げると、そこにはクロード殿下が立っていた。

 いつ部屋へ入ってきたのか、まるで気づかなかった。


 「驚いた顔も可愛いな」


 彼は笑っていたけれど、その赤い瞳はじっとこちらを見つめていた。


 「だが、ドアが開く音にも気づかないほどとは……何かあったのか?」


 まるで探るような視線に、息が詰まりそうになる。心の奥まで見透かされているみたいだった。


 気づけば、じっとりと手のひらに汗が滲んでいる。


 (……駄目。勘づかれてはいけない)


 ここで怪しまれれば終わりだ。

  リゼリアはぎゅっと拳を握りしめ、無理やり笑みを作った。


 「こ、この前読んだ小説の続きが気になってしまって……その、色々想像していただけですわ」


 一瞬、クロード殿下が目を丸くする。けれどすぐに、ふっと柔らかく笑った。


 「ずいぶん夢中になっていたみたいだな」


 「わ、忘れてください……」


 恥ずかしそうに俯くと、彼は小さく笑う。


 「すまない。からかいすぎた」


 それ以上、追及されることはなかった。内心ほっと息を吐く。


 (誤魔化せたのかしら……?)


 その後、クロード殿下はしばらく他愛ない話をしたあと、公務へ戻っていった。


 静かになった部屋で、リゼリアはゆっくり息を吐き出す。


 最近の殿下は、以前にも増して突然部屋へやって来るようになった。

 まるで、少しでも目を離したくないと言うように。


 だからこそ、行動の予測がつかない。


 逃げ出すなら、一度で成功させなければならない。


 (……慎重に動かないと)


 その時、不意にある記憶が脳裏を過る。


 ――王宮の抜け道。


 次期王太子妃として妃教育を受けていた頃、緊急時に備えて秘密の通路について教えられたことがあった。


 もし、あの道を使えれば――。


 「……逃げられるかもしれない」


 小さく呟いた瞬間、胸の奥に希望の光が差し込む。


 けれど問題は、どうやってそこまで辿り着くかだ。


 この部屋を出るには、誰かの目を欺かなければならない。


 考え込んだ末、リゼリアはふと侍女の姿を思い浮かべた。


 着替えの時間……あの時だけは、部屋に人が入る。


 (……ごめんなさい)


 罪悪感に胸が痛む。


 関係ない人を巻き込みたくなんてない。それでも、自由になるためには進むしかなかった。


 リゼリアはそっと唇を噛み締める。


 後は、機会を待つだけだった。



 ***



 今日はクロード殿下が王宮の外で公務だと言っていた。

 つまり、彼は今ここにはいない。


 それに準備していたものも完成した。

 準備は完璧。


 今日、私はこの部屋を出る。


 ――コンコン。


 静かな部屋に、ノックの音が響く。


 (……今だわ)


 リゼリアは小さく息を呑むと、ゆっくり扉へ向かった。


 「リゼリア様、失礼しま――」


 扉が開いた瞬間。


 リゼリアは侍女の口元へ素早く布を押し当てる。


 「……っ!?」


 侍女は目を見開き、抵抗しかけ――やがて力なく崩れ落ちた。


 (……成功した)


 リゼリアは震える指先を、無意識にぎゅっと握り締めていた。


 遡ること二週間前。


 リゼリアはクロード殿下へ、薬学を勉強したいと願い出ていた。


 「薬学か……元々興味があったと言っていたな」


 幸い、不審がられることはなかった。


 本当の目的は、睡眠作用のある薬を作るため。

 怪しまれないよう、様々な薬草を用意してもらっていたのだ。


 この部屋へ来る前にも薬学書を読んでいたおかげで、最低限の知識はあった。

 試行錯誤の末に薬を完成することができたのだ。


 そして現在に至る。


 本当は、誰も巻き込みたくなかった。自分一人の力で逃げたかった。


 けれど、どれだけ考えても、それは不可能だった。


 ちくり、と胸が痛む。


 倒れた侍女を見下ろし、リゼリアはそっと唇を噛んだ。


 「……ごめんなさい」


 小さく謝罪を落としてから、急いで侍女服へ着替える。


 自身の服は侍女へ着せ、ベッドへと寝かせた。鏡の前に立ち、自身の金髪をそっと手にとる。


 (幸い、珍しい髪色じゃなくてよかったわ……)


 髪をきつくまとめ、深く息を吐く。


 (……大丈夫)


 抜け道までの道順は、何度も頭の中で確認してきた。


 後は、進むだけ。


 リゼリアは静かに扉を開けた。不審に思われないよう歩幅に気をつけながら、目的の場所へ向かう。


 (もう少し……あと少し……!)


 逸る気持ちを抑えながら、確実に進んでいく。


 その時だった。遠くから、聞き覚えのある声が耳へ届く。


 リゼリアは反射的に物陰へ身を潜めた。気づかれないよう、そっと視線を向ける。


 そこにいたのは――。


 国の重鎮たちと話している、クロード殿下だった。


 (……えっ)


 心臓が凍りつき、背中に冷たい汗が伝う。


 どうして……?


 今日、殿下は王宮の外にいるはずでは――?

お読みいただきありがとうございます!

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