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執着王子から逃げた令嬢は、秘密だらけの天才魔導師に拾われました――愛だと思っていたものは、執着でした。  作者: ゆにみ
二章

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56、不器用な人

 木の根元に腰を下ろしたまま、リゼリアは静かに花々を眺めていた。

 風が揺らす小さな花々は穏やかなのに、胸の中だけはまだ雨が降っているみたいだった。


 でも、少しずつ頭の中は整理できてきた気がする。


 よく考えれば、気持ちを伝えること自体は悪いことじゃないと思えてきた。


 期待するから苦しくなる。

 自分が前を向くために、この想いを伝える。

 それ以上は、ユーリに求めない。


 (……それなら、大丈夫)


 すると、背後から誰かの足音が聞こえてくる。


 振り返ると、そこには息を切らした銀髪の青年――ユーリ・アデラインが立っていた。

 

 思わず身体が強張る。

 まだ、顔を合わせる覚悟なんてできていなかったのに……。

 私はぎゅっと拳に力を込めた。


 「……何しに来たの」


 溢れた声は、思っていたよりもずっと低い声だった。


 それでもユーリは、止まらなかった。彼はゆっくりとこちらへと歩み寄ると、視線を逸らしたまま口を開く。


 「……ごめん」


 「それは……何に対して?」


 「お前が出て行った後、よく考えた。それで……気付いたんだ、お前のことを傷つけたって。それで……」


 言葉を探すように、途切れ途切れに話す。

 その姿を見ているだけで、胸が苦しくなった。


 (そんなこと……蒸し返さないでよ)


 傷つけたからごめんってこと?

 それでユーリは楽になるのかもしれない。


 でも私は?


 今もこんなに惨めな気持ちになっているというのに。


 「もう……いいわ。その話は」


 だめだ。

 これ以上聞いたら、また泣いてしまう。


 けれど、堪えきれずに目元には熱が集まってくる。

 慌てて目元を拭うと、彼の方からはっと息を呑む音が聞こえてきた。


 「いや、違うんだ……俺が本当に伝えたかったのは……」


 ユーリの腕は、力なく宙を彷徨う。

 けれど。すぐに、その拳を握りしめる。


 一瞬だけ目を閉じると、覚悟を決めたように口を開く。

 

 「お前のことが好きだ」


 その瞬間、心臓がどくんと大きく跳ねた。

 彼の言葉が頭の中で何度も繰り返される。


 (……でも)


 前と同じ意味な気がして、喜び以上に怖かった。

 

 また「分からない」なんて言われたら――今度こそ立ち直れないかもしれない。

 どうしてこの人は、期待させる様な事ばかり言うのか。


 「……それ、どういう意味で言ってるの?」


 「それは……その……」


 するとユーリは視線を逸らし、頬を軽く掻く。言葉に詰まらせているようだった。


 (……ほら)


 やっぱり困ってる。

 ユーリは恋愛的な意味で言ってない。


 また俯きそうになったその時。


 「ずっと一緒にいたいんだ」


 「……え?」


 予想していなかった言葉に、思わず目を瞬かせた。

 ユーリは視線を逸らさずに、こちらを捉える。


 「結婚したい」


 「そ、それって――」


 「結婚したいって方の意味だ」


 私の言葉を遮るように、ユーリは真っ直ぐに言い切った。

 一瞬、思考が止まる。


 (け、けっこん……?)


 頭の中が真っ白になる私をよそに、ユーリは顔を赤く染める。


 「だから、その……」


 彼は、耳まで真っ赤に染め、片手で顔を覆う。


 「……お前が、好きなんだ」


 その声は小さかった。

 けれど、誤魔化すように言っていたあの日とは違う。

 震えながら、それでも一つも迷っていない声だった。


 それに、ユーリがこんなにも照れている所なんて、見たことがなかった。


 恋愛の「好き」なんだと理解した瞬間、熱が一気に頬へ集まった。

 張り詰めていた糸がぷつりと切れたように、涙が一筋、頬を伝う。


 その瞬間、ユーリの顔から血の気が引いた。


 「……なんで泣く」


 「え?」


 「俺、また何か間違えたか」


 「ち、違っ……」


 「……悪かった」


 なんだかズレている彼を見て、思わず笑ってしまう。

 私は涙を拭いながら、小さく肩を揺らした。


 「もう……本当にあなたは……不器用なんだから」


 「……え?」


 私は立ち上がると、ユーリの前まで歩み寄る。


 「私も……好き」


 「あなたが好きなの」


 その言葉に、ユーリの動きがぴたりと止まった。


 「……本当か?」


 「何度でも言ってあげる」


 「好きよ、ユーリ」


 「…………」


 「ユーリ?」


 「……」


 「ちょっと」


 しばらく黙ったまま立ち尽くしていたユーリが、小さく呟く。


 「……嬉しくて、声が出なかった」


 その一言に、思わず吹き出した。


 「もう……」


 そして、ユーリは少しだけ視線を泳がせる。


 「その……抱きしめていいか?」


 「そういうのは聞くものじゃないわ」


 「……ごめん」


 また謝る。

 本当にこの人は……。


 私は一歩近づき、そっとユーリの胸元を掴んだ。


 驚いたように揺れる金色の瞳を見つめながら、そのまま背伸びをする。

 柔らかく唇を重ねると、ユーリの肩がびくりと震えた。


 ゆっくり顔を離し、微笑む。


 「……これで分かった?」


 しばらく固まっていたユーリは、小さく頷いた。


 「わかった……」


 「ふふ」


 穏やかな風が丘を吹き抜ける。

 ようやく二人の想いは、同じ場所へと辿り着いたのだ。

次回、最終話です!

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