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執着王子から逃げた令嬢は、秘密だらけの天才魔導師に拾われました――愛だと思っていたものは、執着でした。  作者: ゆにみ
二章

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最終話「私の居場所」

 あれから、数ヶ月が経った。


 今も私は、この家でユーリと一緒に暮らしている。


 変わらない朝が来て、変わらない日常を過ごす。

 穏やかで、あたたかい毎日。


 けれど、一つだけ変わったことがある。


 ――ユーリが、以前にも増して過保護になったことだ。


 今日は、ギルドのみんなと薬草採集に向かう日だった。

 支度を終えた私の姿を見るなり、ユーリは心配そうに眉を寄せる。


 「……なあ、風邪ひいていないか?」


 「引いてないわ」


 「なんか声が掠れている気がするが」


 「……いつも通りよ」


 そう答えても、彼はなんだか納得していない顔をしていた。

 そして、おもむろに部屋を出ていくと、次の瞬間には両腕いっぱいに上着を抱えて戻ってくる。


 「これを着ていけ」


 「……え?」


 渡されたのは、一枚ではなかった。

 重ね着すれば冬でも耐えられそうなほどの枚数だった。


 「こんなに着たら暑いわよ!」


 「……そうか?」


 「そうよ!」


 思わず声を上げると、ユーリは本気で首を傾げる。

 この人は、本当に自分がおかしなことをしている自覚がない。


 「もう、本当に大丈夫だから」


 「……とりあえず、送る」


 有無を言わせないように言われ、私は小さく息を吐いた。


 「今日は本当に大丈夫よ? それに、知っているわよ。最近あなた、忙しいでしょう?」


 ユーリは魔法塔の主だ。


 失踪していた期間の分まで仕事が山積みで、以前なら二日、三日帰ってこないことも珍しくなかった。


 それなのに、最近の彼はどれだけ遅くなっても必ず家に帰ってくる。

 目元には薄く隈が浮かび、疲れが隠せていなかった。


 「無理してまで帰ってこなくていいのよ」


 そう言うと、ユーリは少しだけ目を伏せる。


 「……心配なんだ」


 その一言に、胸がふわりと温かくなった。


 「ありがとう。でも、自分の体調くらい自分で管理できるわ」


 「それより、あなたよ!」


 「俺?」


 「そう。今日は休みなんでしょう? とにかく寝て!」


 「だが――」

 

 反論しようとした彼を見て、私は少し考えたあと、くすりと笑う。


 「……ちゅーしてあげないわよ」


 「……それは」


 「?」


 「困る」


 いつになく真剣な顔で言うものだから、思わず笑ってしまった。


 私は彼の前まで歩み寄ると、そっと背伸びをした。

 軽く唇を重ね、穏やかに微笑む。


 「いってきます」


 「……いってらっしゃい」


 耳まで真っ赤になったユーリを見て、小さく笑う。

 数ヶ月前まで、あんなにも自分の気持ちに鈍感だった人なのに。


 今では、私が少し離れるだけで心配してしまう。

 私のためなら、平気で無理をしてしまう。


 (本当に……仕方ない人)


 でも、そんなところも愛おしかった。




 ***




 ギルドへ着くと、すでにみんなが集まっていた。


 「リーゼ、遅かったね〜?」


 ユアンが手を振りながら近づいてくる。


 「遅れてごめんなさい」


 「どうせ、ユリスがまた何か言ったんでしょ〜」


 「……否定はしないわ」


 そう答えると、ユアンは楽しそうに笑った。


 「この前なんて本当に驚いたよ〜」


 「あの話はもうやめて……」


 数日前。


 薬草の葉で指先を少し切ってしまった時のことだ。


 迎えに来たユーリは私の指を見るなり、


 「――誰にやられた」


 と、本気の殺気を放ちながら私の腕を掴んだ。


 誤解を解くのは大変だったし、ギルドのみんなには生暖かい視線を向けられるし……。

 思い出しただけで顔が熱くなる。


 「今日は気をつけなね〜?」


 「わかってるわ」


 「じゃあみんな〜! 森に向かうよ〜!」


 魔力欠乏症の研究は順調に進み、試作品も完成した。

 これからは本格的にポーションを量産するため、必要な薬草を集めていく。


 私もその一員として、なんだか誇らしい。





 ***




 採集を終え、私は家へ帰る。


 扉を開けると、ソファーで眠るユーリの姿が目に入った。

 私が帰って来たことにも気づかないくらい、深く眠っているようだった。


 (……ほら。やっぱり疲れているじゃない)


 思わず笑みが零れ、私はそっと彼のそばへゆっくりと歩み寄る。

 ソファの前でしゃがみ込むと、私はその寝顔を見つめた。


 普段はぶっきらぼうで、少し近寄りがたいくらいなのに。


 眠っている時だけは、どこか無防備で。


 「……かわいい」


 無意識に呟いたその時。


 「……誰がかわいいだって?」


 ユーリの瞼がゆっくりと開く。


 「起きてたの!?」


 「今、起きた」


 「ふふ。だって、あんなに眠り込んでいたんだもの」


 すると、ユーリは寝ぼけたまま腕を伸ばし、私をそっと引き寄せた。


 触れるだけの、優しい口づけ。


 ゆっくりと離れると、ユーリは耳まで赤く染めたまま視線を逸らした。


 「……うるさい」


 「もう……」


 照れ隠しに頭を軽く撫でられて、また笑ってしまう。


 王宮を飛び出したあの日。

 こんな日常が待っているなんて、想像もしていなかった。

 誰かの評価ばかりを気にして、自分らしさを見失っていた私。


 だけど、彼と出会って変わることができた。


 誰かに価値を決められなくてもいい。

 私は私の人生を選んだのだ。


 ――彼の隣で、一緒に未来を見つめたいって。


 「おかえり」


 ユーリが穏やかに笑うと、私も笑い返した。


 「ただいま」


 帰る場所がある。


 待っていてくれる人がいる。


 その当たり前が、何よりも幸せだった。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。


実はこの物語は、構想段階ではリゼリアとクロードの恋愛物語を考えていました。

(作者は執着男が大好きなので、「監禁するくらい重い男を書こう!」と思ったのがきっかけです。笑)


なので、実は私自身もクロードエンドを書く気満々だったんです。


ですが、いざ書き始めてみると、リゼリアはそんな結末では幸せになれない子でした。


物語を書き進める中でリゼリア自身が少しずつ変わっていき、その姿を見ているうちに、彼女の隣にいるべき人物としてユーリという存在が生まれました。


気づけば、私の中でも二人が自然と惹かれ合い、この結末へと辿り着いていました。


今では、このラストが一番しっくりきています。


ここまでリゼリアたちの物語を見届けてくださり、本当にありがとうございました。

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