表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
執着王子から逃げた令嬢は、秘密だらけの天才魔導師に拾われました――愛だと思っていたものは、執着でした。  作者: ゆにみ
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/60

52、自覚した想い

 「ねえリーゼ。ウチで正式に働いてみない〜?」


 ユーリの背中を見送ったあと、ユアンが話題を変えるように口を開いた。

 薬師ギルドで今後も働けるなんて、思ってもみない提案だった。


 「でも私は、薬師の資格はないわよ?」


 「ここは薬師見習いも働いているんだよ〜」


 「えっ、そうなの……? みんな優秀だから気がつかなかったわ」


 「そうでしょ〜! 僕の指導が上手いからかな〜」


 ユアンは胸を大きく張る。


 その様子を見ていると、最近何となく落ち着かなかった気持ちが、少しずつ和らいでいくようだった。


 「それに、働きながら資格を取ることもできるから!」


 「それなら、ぜひ今後もお世話になりたいわ」


 「うんうん〜! これからもよろしくね〜」


 ユアンの言葉に笑顔で頷く。


 本来なら、これ以上ないほど嬉しい話だった。


 ギルドで正式に働ければ生活は安定する。

 自分の力で生きていけるようになる。

 それは、公爵家を出ると決めた日から望んでいた未来のはずだった。


 これ以上、ユーリの迷惑になることもない。


 (……なのに)


 胸の奥が、ちくりと痛んだ。

 その理由だけは、どうしても分からなかった。




 ***





 そして、その日の夜。


 リゼリアはユーリと夕飯を囲んでいた。


 「今日、ギルドでね――」


 そこまで言いかけて、言葉が止まる。


 どうしてだろう。

 伝えるだけの話なのに、口にしてしまえば何かが変わってしまうような気がした。


 (変わるって……何が?)


 自分でも答えは分からない。

 それでも、言葉だけが喉の奥につかえたまま、出てこない。


 「どうした?」


 「いえ……何でもないわ」


 「そうか?」


 ユーリは少しだけ首を傾げたが、それ以上は追及せず、ぽつりと口を開いた。


 「今日、魔法塔に戻ったんだけどさ……思っていたより歓迎してもらえた」


 「よかったじゃない……!」


 ギルドのことで頭がいっぱいになっていたけれど、今日はユーリが長いあいだ消息不明だった魔法塔へ戻る、大切な日だったのだ。


 「……ああ」


 照れくさそうに視線を逸らし、頬をほんのり染めるユーリ。

 その姿を見ているだけで、自然と私まで嬉しくなる。


 「今までいなかった分のこともあるし、とりあえず三日くらいは魔法塔に泊まっていく」


 「わかったわ」


 三日くらいなら、きっとあっという間。そう思ったのに、胸の奥が少しだけ寂しくなった。


 (……変ね)


 以前なら、こんな気持ちにはならなかったのに。


 結局、その夜はギルドで正式に雇ってもらえることは、ユーリに話せなかった。





 ***




 ユーリが三日ほど家を空けることは、今までにも何度かあった。


 だから今回も、何とも思わないはずだった。

 けれど、三日目の夜になっても、ユーリは帰ってこなかった。


 (……忙しいのよね)


 魔法塔へ戻ったばかりなのだから、仕事が立て込むのも当然だ。

 そう自分に言い聞かせる。


 それなのに、胸の奥には小さな寂しさが残った。


 食事をしていても、気づけば向かいの椅子へ視線が向いてしまう。

 誰も座っていないその席を見つめては、ふっと目を逸らす。


 (変なの)


 今までだって、こういうことはあったのに。

 どうして今回は、こんなにも静かに感じるのだろう。


 



 そして四日目の夜。

 ようやく玄関の扉が開く音がした。


 「すまない。思っていたよりも手間取って」


 その声を聞いた瞬間、胸の奥に溜まっていた何かが、ふっとほどけていく。


 「……お疲れ様」


 「ありがとう……って、お前、顔色悪くないか?」


 心配そうな表情で覗き込むように、ユーリが顔を近づける。

 その距離の近さに、不意に鼓動が大きく跳ねた。


 「っ……」


 思わず息を呑む。


 「どうした?」


 「い、いえ……昨日、少し夜更かしをしてしまっただけよ。今日は早く休むわ」


 「そうか。あんまり無理するなよ」


 変わらないいつもの声。なのに、胸の奥が落ち着かない。


 部屋に入って扉を閉めると、大きく息を吐く。

 静かな部屋の中で、自分の鼓動だけがやけに大きく聞こえた。


 (……もう、分かってしまった)


 どうしてユーリがいないことを寂しいと思ったのか。


 どうして帰ってきた瞬間、安心してしまったのか。


 どうして彼が近づくだけで胸が苦しくなるのか。


 どうしてギルドで正式に雇ってもらえたことを、話せなかったのか。


 答えは、もう一つしかなかった。

 私はゆっくりと目を閉じる。


 この気持ちに名前をつけてしまったら、もう元には戻れない。


 ユーリ・アデライン。


 あなたのことが――好き。


 その瞬間、もう以前の私には戻れないことを知った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ