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執着王子から逃げた令嬢は、秘密だらけの天才魔導師に拾われました――愛だと思っていたものは、執着でした。  作者: ゆにみ
二章

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51、無意識に

 「俺、魔法塔に戻ろうと思う」


 食事を終え、私とユーリは並んで食器を洗っていた。その時、不意に彼がそう切り出した。


 ユーリは魔力を喰らう体質のせいで、長い間魔法塔から姿を消していた。

 けれど、その問題はもう解決している。


 魔法塔へ戻るというのは、ごく自然なことだった。


 「そう……じゃあ、もう王都に住むの?」


 そう口にした瞬間、胸がちくりと痛んだ。


 私は最初から、ここへ長く住むつもりなんてなかった。自立できるようになれば家を借り、一人で暮らすつもりだったのだ。


 それなのに。


 いつの間にか、ユーリがそばにいる生活が当たり前になっていた。


 引き止めたい。そんな気持ちが、胸の奥から湧き上がる。


 「いや、ここは俺の家だしな。魔法塔に泊まる日が増えるとは思うけど」


 「……そうなの」


 その一言だけで、驚くほど安心している自分がいた。


 昨日まで、あれほど腹を立てていたのに。

 ユーリの「好き」が恋愛ではなく、友達としての好意なのだと納得してからは、不思議と心も落ち着いていた。


 「じゃあ、私も今日はギルドに久しぶりに顔を出そうかしら」


 「じゃあ送る」


 「え? 大量に貰ったスクロールがまだあるわよ?」


 「それは取っておけ。今まで通り、俺が送れる時は送る。それに俺もギルドへ顔を出してなかったからな」


 「……わかったわ。ありがとう」


 口ではぶっきらぼうなのに、行動は優しい。


 友達として好き。そう理解したはずなのに。

 こうして自然に気遣われるたび、勘違いしそうになる。


 昨日から胸の奥が、ずっと小さく痛んでいた。


 「ユアンのことも心配だったから、早く会いに行かなきゃと思ってたのよ」


 「……何で急にあいつが出てくる?」


 そう言うと、ユーリは拭いていた皿を置き、一歩こちらへ近づいた。


 (ち、近い……)


 思わず肩が強張る。


 「実はあなたを探しに森に行った時、ユアンも途中まで一緒だったのよ」


 「何でだ?」


 「心配してくれてたんだと思う。でも途中で魔力の圧に耐えられなくなって、先に戻ってもらったの」


 「……そう、だったのか」


 「ええ。だから心配で」


 そう答えると、ユーリは視線を逸らした。

 しばらく黙り込み、何かを考えるように眉を寄せる。


 (……どうしたのかしら?)


 私が首を傾げていると、彼は再びこちらを見た。


 「とりあえず急ぐか」


 「ありがとう……」


 ユーリもユアンのことが心配だったのかもしれない。

 そんなことを考えながら、私はユーリと一緒にギルドへ向かった。 





 ***




 「リーゼ〜!! 無事だったんだね〜!! それにユリスも見つかってよかった〜!!」


 ギルドへ着くなり、ユアンが満面の笑みで両手を広げながら駆け寄ってきた。


 「心配かけたわね――」


 私も笑みを浮かべた、その瞬間だった。


 「うわっ!」とユアンの驚いた声が響く。

 何事かと思って視線を向けると、ユーリがユアンのおでこへ手を当て、それ以上近づけないように押さえていた。


 「久しぶりなのに酷いじゃないか〜」


 頬を膨らませるユアンに、ユーリは自分の手を見つめて首を傾げる。


 「……すまない。何か身体が勝手に」


 「ふ〜ん?」


 ユアンは一度ユーリを見て、それから私を見た。


 「……あ!」


 何かに気づいたように目を丸くしていた。


 「どうしたの?」


 「ううん、何でもないよ〜」


 そう言って、いつものようににこにこと笑っている。


 (……何だったのかしら)


 今度はユーリへ目を向ける。

 彼は少し離れた場所で腕を組み、顎へ手を当てながら難しい顔をしていた。


 「あなたもどうしたの?」


 「……ああ。何でもない」


 ユーリは小さく首を振ると、「じゃあ、俺はこれで」と言い残し、その場からふっと姿を消した。


 (ユアンもユーリも……今日は何だか変ね)


 そんなことを考えていると、ユアンが隣で満面の笑みを浮かべた。


 「ねえ、リーゼ」


 「なあに?」


 「よかったね〜!」


 「え?」


 何が「よかった」のか分からない。

 きっと、ユーリが無事に戻ってきたことを言っているのだろう。


 「……ええ、そうね」


 私は小さく笑った。


 これでまた、いつもの毎日が戻ってくるのだろう。

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