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執着王子から逃げた令嬢は、秘密だらけの天才魔導師に拾われました――愛だと思っていたものは、執着でした。  作者: ゆにみ
二章

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50、いや、本当に何!?

 ユーリの言葉が、頭の中で何度も繰り返される。


 ――『俺、お前のこと……好きみたいだ』


 え?


 えっ??


 ……今、好きって言われた?


 突然の一言に、さっきまで止まらなかった涙がぴたりと引っ込んだ。


 「え、えっと……ユ、ユーリ……?」


 リゼリアはどこか落ち着かず、舌もうまく回らない。

 混乱したまま隣を見ると、そこにいたユーリはいつも通りだった。


 照れている様子もない。気まずそうでもない。

 どう見ても告白をした人間の表情ではなかった。


 (え……?)


 思わず目を丸くした、その時だった。


 「……いや、やっぱ分からねえ」


 「…………え」


 思わず、間の抜けた声が漏れた。ユーリは本気で首を傾げている。


 「わ、分からない……?」


 「こんなこと、初めてだから」


 頭を掻きながら、困ったように続ける。


 「好きなのかもしれねえし、違うのかもしれねえ」


 「ええぇぇ……」


 リゼリアは固まった。

 その反応を見ても、ユーリは特に気にした様子もない。


 「……とりあえず帰るか」


 そう言って世界樹へ向かってぺこりと頭を下げる。


 「えっ、あ、ちょっ……!」


 慌ててリゼリアも後を追うように頭を下げた。


 そのまま結界を抜けると、ユーリは何事もなかったように転移魔法を発動させる。


 景色が切り替わり、気づけば二人はいつもの家へ戻っていた。


 「…………え?」


 リゼリアは呆然と立ち尽くす。

 ユーリはその横を何事もなかったように通り過ぎた。


 「食事にでもするか。今日は俺がやるよ」


 そう言い残してユーリはキッチンへと向かっていく。やっぱりいつも通りに見える。


 その背中を見送りながら、リゼリアはぽつりと呟く。


 「…………え?」


 もう何度目かわからない声が漏れた。


 (告白……されたのよね?)


 (いや、待って)


 (分からないって何!?)


 (……え、取り消されたの??)


 (告白の……取り消し!?)


 「な、なんなのよ……!」


 思わず声が漏れる。

 その声を聞きつけたのか、ユーリがキッチンからひょこっと顔を出した。


 「何かあったか?」


 「……っ!」


 どこまでも平然としている。その様子が無性に腹立たしかった。


 「なんでもないわよ!」 


 「そうか?」


 首を傾げるだけで、またキッチンへ戻っていく。


 (いや、何その反応!?)


 (どうしてそんなに普通なの!?)


 (さっきのこと、もう忘れたの!?)


 その間にも、台所からは包丁の音が聞こえてくる。 


 トントントントン……。



 まるで、さっきの出来事なんて最初からなかったかのようだった。



 (何だか無性に腹ただしい音に聞こえてきたわ……!)



 リゼリアは、部屋の中を落ち着きなく歩き回る。


 考えれば考えるほど分からなくなる。


 しばらくして、「よし、できたぞ」と、ユーリが料理を運んできた。


 「……ええ、ありがとう」


 食卓についたものの、その日の料理が何だったのか、ほとんど覚えていない。


 たぶん、美味しかった。





 ***




 翌日。


 結局、リゼリアは一睡もできなかった。


 鏡を覗けば、目の下にはくっきりと隈が浮かんでいる。


 (ひ、ひどい顔……)


 重い身体を引きずるように居間へ向かい、温めたミルクを両手で包み込む。

 ぼんやりと湯気を眺めていると、部屋の扉が開いた。


 「おはよう」


 聞き慣れた声に、びくりと肩が跳ねる。


 「お……お、おはよう……」


 ユーリの顔を真っ直ぐに見れない。視線は泳ぎ、声まで裏返ってしまった。


 (む、無理……!)


 昨日のことを思い出すだけで耳まで熱くなる。

 そんなリゼリアとは対照的に、ユーリはいつも通りだった。


 「……って、お前、寝不足か?」


 穏やかな声で問いかけられる。

 ユーリは、とてもよく眠れたのだろう。髪も乱れておらず、顔色もいい。


 (だ、誰のせいだと思ってるのよ……っ!!)


 思わずじとりと睨む。けれどユーリはその視線の意味が分からないらしく、小さく首を傾げた。


 「さあ、飯だ飯」


 そう言って、何事もなかったかのように台所へ消えていく。

 リゼリアはその背中を呆然と見送った。


 (ねえ、本当に何なの!?)


 (どうしてそんなに普通なの!?)


 (好きって言ったのはあなたでしょう!?)


 頭を抱えたくなる。気にしているのは、自分だけなのではないか。


 そんな考えまで浮かび始めた。

 ぼんやり考え込んでいるうちに、一つの答えへたどり着く。


 「……そういうことね」


 私は勘違いしていたのかもしれない。


 好き、と言われた瞬間、勝手に恋愛の意味だと思い込んでいた。

 でも、ユーリの態度を見る限り、そんな様子はまるでない。


 (あんなの告白した人間の態度じゃないわ)


 (……嬉しそうでも、照れている様子でもなかった)


 そもそも私に返事すら求めないのだもの。


 そう、あれはきっと――。


 「恋慕ではなく……ただの好意ね」


 その結論にたどり着いた瞬間、不思議なくらい全てが繋がった。


 だからユーリは平然としている。

 だから「分からない」なんて言えたのだ。


 「……そうよ」


 私は小さく頷く。


 「だって……ユーリだもの」


 そう言い聞かせるように呟いた。

 胸の奥が、ちくりと痛む。けれど、その理由を考えないようにする。

 今はまだ、その痛みの正体を知りたくなかったから。

ユーリは感情赤ちゃんです。本人は至って真面目です。

リゼリア、頑張れ。

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