表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
執着王子から逃げた令嬢は、秘密だらけの天才魔導師に拾われました――愛だと思っていたものは、執着でした。  作者: ゆにみ
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/60

47、あなたを助けたい

 リゼリアはただ真っ直ぐに世界樹を見つめていた。


 (この果実さえ手に入れば……ユーリを救える)


 そのためには、大魔導師――ユーリ・アデラインでさえ突破できなかった結界を越えなければならない。


 「ねえ……ユーリ。私、行ってみる」


 「……は? 俺でさえ入れないんだぞ?」


 ユーリが眉をひそめる。


 「わかってる」


 「いや、わかってない。お前は身体も限界だ。結界に弾かれたら……最悪死ぬ」


 その言葉に、リゼリアは小さく息を吸う。


 (そんなことは……わかってる)


 必死でユーリを探していたせいで忘れかけていたけれど、自分の身体だって悲鳴を上げている。


 「……それでもよ」


 迷いなく言い切る。ユーリの赤い瞳がわずかに揺れた。


 「あなたを助けられる可能性があるなら、何もしないまま諦めたくないの」


 それが、今のリゼリアの本音だった。


 「あなたは今まで、一人で何度も挑戦してきたんでしょう?」


 「だったら今度は、私も一緒に挑戦する」


 「私だけ安全な場所で待ってろなんて……そんなの、もう嫌なの」


 思い返すのは、閉じ込められた王宮での日々。あの時の私はただ守られている存在だった。息苦しくて、どうしようもなかった。だからもう、ただ待つだけの存在には戻りたくなかった。


 「絶対に駄目だ。俺は、お前を巻き込むためにここへ来たんじゃない」


 「でも私は、自分の意思でここまで来たの」


 リゼリアは一歩も引かない。

 真っ直ぐ見つめ返すその瞳に、ユーリは観念したように目を閉じた。


 深く、長く息を吐く。


 静寂が二人を包む。


 やがてユーリは世界樹を見上げ、小さく呟いた。


 「……俺一人じゃ、どうせ無理だった」


 「え……?」


 「だから」


 ユーリは少しだけ困ったように笑う。


 「一緒に行く。今回は、一緒に行こう」


 「ユーリ……!」


 嬉しさのあまり、リゼリアは思わず飛びつこうとする。


 けれど。


 「ちょ、お前……!」


 ひらり、とかわされた。


 「だから近づくなって言ってるだろ」


 「あ……ごめんなさい。嬉しくて、つい」


 「……お前な」


 呆れたようにため息をつくユーリ。

 その顔を見て、リゼリアはふっと笑った。


 「やっと笑ってくれた」


 「あ?」


 「あなた、ずっと苦しそうな顔してたもの」


 その一言に、ユーリは言葉を失う。

 しばらく黙ったあと、照れ隠しのように視線を逸らした。


 「……俺らしくねえな」


 「そうね」


 リゼリアは優しく微笑む。


 「でも私は、今のあなたの方が好きよ」


 ぴたり、と時間が止まった。


 ユーリは固まったまま動かない。

 耳だけが、じわりと赤く染まっていく。


 「…………行くぞ」


 ぶっきらぼうに背を向けるユーリ。

 その様子に首を傾げたものの、それよりも今は世界樹だ。


 リゼリアは静かに巨樹を見上げる。


 行くと言ったけれど、無鉄砲なのは自分でも分かっている。

 その時、不意にユーリの言葉が頭をよぎった。


 ――この森は人を寄せ付けない。


 「ねえ、ユーリ」


 「……なんだ」


 「さっき言ってたわよね。この森は人を寄せ付けないって」


 「ああ。強い目的がない者は、この森に入ろうとすら思わない。だから、お前がここまで来たのは驚いた」


 「強い、目的……」


 その言葉に、リゼリアは小さく呟く。



 この森には、生き物の気配すらない。

 人だけではない。あらゆるものを拒絶しているような、不思議な静けさが漂っていた。


 (まるで……世界樹が人を選んでいるみたい)


 目的がなければ森へ入れない。


 なら、最後の結界も同じなのではないだろうか。


 「……ねえ」


 リゼリアは世界樹から目を離さないまま問いかける。


 「この結界を破るために、あなたは何を試したの?」


 「魔法も、石碑も……思いつく限り全部試した。だが何度やっても弾かれた」


 その言葉を聞き、ユーリの部屋でみた自作の魔法陣や、この森で見つけた傷だらけの石碑が頭に浮かぶ。


 あれは全部、世界樹へ辿り着くためだったのだ。


 (でも……)


 胸の奥で、小さな違和感が膨らんでいく。


 実力で破れる結界なら、とっくにユーリが突破しているはずだ。


 なのに突破できない。

 なんかこう……人間を試している様な……。


 リゼリアは顎に手を当て、ゆっくりと口を開く。


 「ねえ、ユーリ。この森に入るには”目的”が必要だったのよね?」


 「……ああ」


 「だったら最後に試されるのも、魔力でも力でもない」


 リゼリアは世界樹をただ真っ直ぐに見つめていた。


 「ここへ来た理由……その”想い”なんじゃないかしら」


 その瞬間、ユーリがはっと息を呑んだ。リゼリアは小さく笑う。


 「私はユーリを助けたい」


 「その気持ちだけは、誰にも負けない」


 そして、リゼリアは一歩前へ踏み出す。


 「だから――行くわ」

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ