46、伝説の果実
”魔力を喰う”
ようやく引き出せたユーリの本音は、リゼリアの想像を遥かに超えていた。
「魔力を……喰う?」
「ああ。だから……頼むから戻ってくれ」
「……戻せないの?」
純粋な疑問だった。
クロード殿下は私の魔力を奪った。それでも最後には返してくれて、私は魔力を取り戻せた。
彼は大魔導師なのだ。不可能ではないはず……。
「アイツみたいに意図して奪ってるわけじゃない。これは体質だ。触れれば、相手の魔力を核ごと身体に取り込んでしまう」
「……核ごと?」
「ああ。一度取り込めば、もう元には戻せない」
リゼリアは言葉を失う。
(核ごと……)
クロード殿下は身体に魔力を保持できていたということ? 彼は闇魔法の使い手。闇魔法だからこそ可能だったのかもしれない。
けれど、ユーリは違う、そういうこと?
「じゃあ……その魔力は消えちゃうの?」
「消えない」
ユーリは静かに自分の胸へ手を当てた。
「俺の中に残る」
「でも……一緒に暮らしていた時は平気だったじゃない」
「あの頃のお前は、魔力がほとんど空だった」
そう言って、ユーリは黒い手袋へ視線を落とした。
「魔力の少ない相手なら、この手袋で抑えられる」
その瞬間、今まで抱いていた疑問がすべて繋がった。ユーリが片時も外さなかった手袋。王宮で距離を取ったこと。突然姿を消したこと。
全部――全部、この体質のせいだったということ?
「せっかく魔力を取り戻したんだ。だから俺のことは構うな」
ユーリは無理に笑っていた。その笑顔が痛々しくて、胸が締めつけられた。
「だから……今まで一人で抱えていたの……? 魔法塔からも姿を消して……私の前からも、いなくなって……」
震える声が漏れる。
きっと、そうするしかなかったのだろう。私がユーリでも、同じことを選んでいたかもしれない。
それでも、今まで誰にも打ち明けずに一人で姿を消す選択をし続けた彼の気持ちを思うと、胸が苦しかった。
「少しくらい……頼ってくれてもよかったじゃない……!」
思わず涙が零れた。
「どうして全部、一人で抱え込んじゃうのよ……!」
「……意味ないだろ」
「意味ならあるわ! 一緒に考えることくらいできるもの……!」
リゼリアは強く首を振る。涙を拭うこともせず、まっすぐユーリを見つめた。
「それに……私がそうしたいの!」
その瞬間、ユーリの赤い瞳が小さく揺れる。
「……リゼリア」
名前を呼ぶ声は、今にも消えてしまいそうなくらい弱々しかった。しばらく黙っていたユーリは、小さく息を吐く。
「……ありがとう。でも、何も諦めていたわけじゃない」
「……え?」
「解決する方法なら、一応ある」
リゼリアが息を呑む。
「本当に……?」
「ああ」
ユーリはゆっくりと背後の巨樹へ視線を向けた。
「この木だ」
「……この木?」
「世界樹だ」
「世界樹って……伝説じゃなかったの?」
伝承では聞いたことがある。かつて世界樹を巡り、人々が争ったという昔話。
そんな存在が、本当に目の前にあるなんて。
「ああ、存在する。そして、このの樹に実る果実には、どんな願いも叶える力があると言われているんだ」
リゼリアの瞳が希望に輝く。
「じゃ……じゃあ、その実を食べれば……!」
「そう思うだろ」
ユーリは自嘲するように笑った。
「だが、あと一歩届かない」
そう言って世界樹へ歩み寄る。
そして――。
「っ!」
何もない空間に身体を弾き返されるように、ユーリは勢いよく後方へ吹き飛んだ。
「最後の結界だけが……どうしても突破できないんだ」
「ユーリ!」
リゼリアが駆け寄る。
ユーリの頬には細い切り傷が走っていた。
「だから、これ以上は近づけない」
ユーリは頬へ手を当てる。手を離した時には、傷は跡形もなく消えていた。
(前に怪我をしていたのも……)
あれも、この結界だったの?
リゼリアは世界樹を見つめる。
結界がある限り、ユーリは果実へ辿り着けない。
だけど、逆に言えば。
(結界さえ突破できれば……)
ユーリを救える。




