表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
執着王子から逃げた令嬢は、秘密だらけの天才魔導師に拾われました――愛だと思っていたものは、執着でした。  作者: ゆにみ
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/60

45、やっと見つけた

 静寂の森を進んだ先にユーリがいた。姿を見つけた瞬間、張り詰めていた心が一気にほどける。


 (いた……!)


 胸いっぱいに安堵が広がる。

 けれど、その安堵は次の瞬間、恐怖へと変わった。


 ユーリは巨樹の根元付近でに横たわったまま、ぴくりとも動かない。


 リゼリアの顔から血の気が引く。


 「ユ、ユーリ……っ!」


 夢中で駆け寄り、彼の肩へと手を伸ばす。


 「ねえ……! ユーリ!? 起きて……お願いだから……!」


 何度も身体を揺するけれど、返事はない。

 リゼリアの額に冷たい汗が伝う。


 (やっと……やっと見つけたのに……!)


 どうして倒れているの?


 どうして動かないの……?


 リゼリア自身も限界だった。

 体力は底をつき、治癒魔法を使う余力も残っていない。


 それどころか、ユーリに触れた瞬間から、胸の奥がじわりと締めつけられるような息苦しさが戻ってきた。


 (どうして……?)


 森を抜けた時には楽になったはずなのに。


 (どうすればいいの……?)


 焦りで頭が真っ白になりかけた、その時だった。

 ユーリの身体が、わずかに動いた。


 「…………ん」


 閉じられていた瞼がゆっくりと持ち上がる。


 「……リゼリア?」


 ぼんやりとした赤い瞳が、こちらを映した。


 「なんでお前、ここ――」


 最後まで聞くことはできなかった。リゼリアは思わず彼へ飛びついていたからだ。


 「ユーリ……!」


 腕に力を込め、ぎゅっと抱きしめる。

 息苦しさが続いていたけれど、そんなことを気にしている余裕なんてなかった。


 「本当に心配したのよ……! 急にいなくなるし……こんなところで倒れてるし……!」


 安心した途端、張り詰めていたものが一気に溢れ出す。

 震える声が止まらなかった。


 一方、ユーリは目を丸くしたまま固まっている。けれど、すぐに何事もなかったように口を開く。


 「……俺は寝てただけだぞ?」


 「…………え?」


 「疲れたから少し休んでただけだ。別になんともない」


 「そ……そうなの?」


 一瞬、全身から力が抜ける。けれど次の瞬間、別の感情が込み上げた。

 今心配したこと以外にもユーリに問いただしたいことは山ほどあるのだ。


 「……って、それだけじゃないわ!」


 涙目のまま、ユーリを見上げる。


 「急にいなくなるなんて……! どれだけ心配したと思ってるの!」


 その言葉を聞いた途端、ユーリの表情が曇った。

 唇が小さく動き、何かを言いかける。


 けれど、その言葉は飲み込まれた。


 代わりに、ユーリはそっとリゼリアの腕を外す。その手つきは優しいのに、どこか迷っているようだった。

 そして立ち上がると、一歩、また一歩と後ろへ下がる。


 まるで、自分から距離を作るように。


 「……ユーリ?」


 リゼリアの胸がざわつく。嫌な予感が、静かに広がっていく。


 「すまない」


 低く絞り出すような声だった。


 「近づかないでほしい」


 「どうして……?」


 せっかく会えたのに。


 ここまで必死に来たのに。


 拒絶されたような気がして、胸の奥がずきりと痛む。


 けれど、ユーリの顔を見た瞬間、その痛みは別の感情へ変わった。


 ――苦しそうだったのだ。

 息が乱れているわけでも、顔色が悪いわけでもない。

 それでも、何かを必死に押し殺し、耐え続けているような表情だった。


 その姿を見て、今までの出来事が一本の線で繋がる。


 王宮で会った時も。急に姿を消した時も。今、自分を遠ざけようとしていることも。


 (もしかして……)


 リゼリアは息を呑む。


 「……私が近づくと、何かあるの?」


 ユーリは答えない。

 唇がわずかに動き、何かを言おうとして――結局、静かに視線を逸らした。

 その沈黙が、何よりも答えだった。


 「ねえ……そうなんでしょう?」


 震える声で問いかけながら、一歩踏み出す。

 するとユーリは反射的に、さらに一歩後ろへ下がった。


 その仕草だけで胸が締めつけられる。


 「お願い……」


 リゼリアの瞳に涙が滲む。


 「何が起きているのか、ちゃんと教えてよ……っ」


 ユーリの瞳が大きく揺れた。苦しそうに眉を寄せる。

 長い沈黙の末、ようやく口を開いた。


 「……お前は、もう戻れ」


 「ユーリ……!」


 やっぱり話してくれない。一緒に暮らしていた頃もそうだった。

 ユーリは自分のことだけは、何一つ話そうとしなかった。

 何が好きで、苦手なのかさえ。


 私が知っているユーリなんて、本当はほんの一部でしかない。


 「それより」


 まるで無理やり話題を変えるように、ユーリは口を開く。


 「お前、ここにはどうやって来たんだ?」


 「……え?」


 「ここは人を寄せ付けないはずなんだ。そう簡単に辿り着ける場所じゃない」


 「……何よ」


 思わず声が冷たくなる。


 (それは……今、このタイミングで聞くことなの?)


 そんなリゼリアの様子を見て、ユーリは息を呑む。


 「……なんだ?」


 「話を逸らさないで」


 その瞬間、ぴたりと空気が止まった。それでもユーリは何も答えない。


 「……ここは危険だから戻れ」


 「戻らないわ」


 ここまで来たのだ。もう逃げない。絶対に引いてたまるものですか。 

 リゼリアは、ただ真っ直ぐにユーリを見つめた。


 ユーリの表情が僅かに苦しそうになる。


 「……頼む」


 「いやよ」


 ユーリの声は震えていた。


 私を帰そうとしているのに。どうしてそんなに苦しそうなの。どうして、そんな顔をするの。


 「なんでよ……なんであなたは、そんなに苦しそうなのよ……!」


 リゼリアの瞳から涙が溢れる。ユーリの瞳が大きく揺れる。


 「……俺は、魔力を喰うんだよ」


 その声はどこまでも弱々しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ