42、ユーリに会いにいくわ
×印だらけの地図。その中で、ただ一箇所だけに丸がつけられている。
確証なんてない。けれど、ここにユーリがいる気がした。
そういえば彼は、魔法塔から突然姿を消した後、人目を避けるように暮らしていた。
そして今回、再び姿を消したのは、私が魔力を取り戻したタイミングと重なっている。
(……これは偶然?)
共通しているのは、高い魔力を持つ者が関わっていること。
それに、ユーリが私をここに住まわせてくれた理由も、私の魔力に何か違和感を覚えたからだと言っていた。
リゼリアは、もう一度ユーリの机へ視線を向ける。
そこには、見たこともない魔法陣の数々。
そして、魔力欠乏症について書かれた大量の資料。
何かが繋がりそうなのに。
あと少しで届きそうなのに。
「うーん……」
リゼリアは顎に手を当てて考え込む。けれど、これ以上の答えは出てこなかった。
「とにかくユーリよ!」
リゼリアは顔を上げ、窓の外を見る。
雲ひとつない青空。
差し込む陽光が、部屋の中を優しく照らしていた。
リゼリアは小さく拳を握る。
「待ってなさい……! 今、会いに行くわ……!」
***
ユーリを探しに行くと決めたリゼリアだったが、その前に向かった場所があった。
「リーゼ! 今日は随分と早いんだね〜!」
すっかり馴染みとなった薬師ギルド。
いつものようにユアンが明るく出迎えてくれる。
「しばらくここに来られなくなりそうだから、挨拶をしておこうと思って」
その言葉を聞いた瞬間、ユアンの表情が少しだけ変わった。
「……なんかリーゼ、スッキリした顔をしているね?」
「そうかしら?」
「うん。最近は時々、寂しそうな顔をしてたから」
「寂しかったわけじゃ……」
胸がぎゅっと締め付けられる。
思わず否定しかけるが、ユアンが続けて尋ねた。
「もしかして、ユリスに会えたとか?」
「……まだ会えてはいないの」
「そっか……ごめんね。変なこと聞いちゃった」
「ううん。心配してくれていたのでしょう?」
リゼリアは小さく笑う。その笑顔を見て、ユアンは少し安心したようだった。
そしてリゼリアは、少し迷った後に口を開いた。
「……ユアンには話しておこうと思って」
「どうしたの?」
ユーリを探しに行くことを、最初は黙っておこうとも思った。
けれど。ここはもう、ただの仲間がいる場所ではない。私にとって、大切な居場所になっていた。
だから何も言わずに消えることはしたくなかった。
「私、ユリスを探しに行くわ」
ユアンの目が大きく開く。
「え……!? 探すって……当てはあるの?」
「ええ」
リゼリアは地図を取り出し、一点を指差した。
「まずはここへ向かうつもりよ」
ユアンは地図を覗き込み、表情を曇らせた。
「ここ……静寂の森?」
「知っているの?」
「うん。あまり人が近づかない場所だよ。危険もある」
「分かっているわ」
「分かってるなら……」
「でもここにユーリはいると思うの」
理由を説明できるほどの確信はない。
それに、危険な場所であることは、地図を見た時からわかっていた。
でもどうしてもユーリと会って話したかった。
いや、話さなくてはならない。そう思ったから。
そんな決意を込めて顔を上げる。
するとユアンは頭を抱えるようにして、小さく唸った。
「う〜〜〜ん……」
そして少し沈黙が落ちた後、彼はゆっくりと顔を上げた。
「ねえ、リーゼ。僕も行くよ」
「……え?」
「危険な場所なんでしょ?」
ユアンはいつもの柔らかな笑みを浮かべる。
「薬師が一人いた方が安心だと思うし。それに、僕だって多少は魔法が使えるからね」
その言葉に、リゼリアは目を瞬かせた。
心配してくれているのは……わかる。
でも、例の森は人の立ち入らない場所だ。どんな危険があるのか未知数。私の都合なのだ。そんな場所に他の人を連れて行くことに抵抗があった。
「でも……これは私の問題なのよ」
「うん」
ユアンは頷く。
「だからこそ、一人で抱え込まないでほしいんだ」
その言葉に、リゼリアは黙り込む。
「リーゼがどれだけユリスを心配してるか、僕には分かるよ」
ユアンは穏やかに続ける。
「だからこそ、ちゃんと二人で帰ってきてほしいんだ」
その言葉が、胸の奥に響いた。
帰ってきてもいいという場所があること。待っていてくれる人がいる。それが何よりも心強かった。
そして、リゼリアはゆっくり頷いた。
「……ありがとう、ユアン」
「どういたしまして」
こうしてリゼリアは、ユアンと共にユーリを探しに行くことになったのだ。




