41、このままじゃ二度と会えない
先ほどまで溜め込んでいた思いを吐き出したからだろうか。
怒りや悲しみでぐちゃぐちゃだった頭の中が、少しずつ整理されていくのを感じた。
その場に座り込んでいたリゼリアは、ゆっくりと立ち上がる。
呼吸が整うにつれて、感情も落ち着いていく。
ユーリが生きていることが確認できたのはよかった。けれど、なぜ突然姿を消したのかは分からない。私を避けているような行動を取っている理由も。
このままでは、終われない。
納得できないまま、置いていかれることだけは嫌だった。
最後にどうしても話がしたい。理由を聞きたい。
もしその上で、もう会いたくないと言われるのなら――その時は受け入れようと思う。
(……悲しいけど)
そう思うだけで胸の奥がひどく痛んだ。
真実を知るのは怖い。拒絶される可能性だってある。
それでも、このまま何も知らないまま終わるほうが、ずっと苦しい気がした。
だからユーリと会って話がしたい。
ふと視線を落とすと、手の中のスクロールが目に入る。
姿は見せないくせに、生活に困らないようにだけはしているような行動。
「……突き離したいのか、そうじゃないのか分からないわよ……ユーリ」
リゼリアは小さく苦笑した。
どうせユーリは、今も返事をくれない。こんなふうに考え続けても答えは出ない。
それでも、このまま終わるのは違う。
何かあるはずだ。何か、ユーリの痕跡が。
放っておけば、もう二度と会えない気がした。
そう思った瞬間、胸の奥がひやりと冷えた。
リゼリアは顔を上げる。その瞳は、迷いを残しながらも真っ直ぐ前を見ていた。
「……探さないと」
静かな決意の声が、誰もいない部屋に落ちた。
***
まず最初に向かったのは、ユーリの部屋だった。彼からは研究資料もあるから入るなと言われていた。
プライベートな空間もあって、私が立ち入ることはなかった。
けれど今は、そんなことを気にしている場合ではない。
ここなら何か手がかりがあるかもしれない。
そうして、リゼリアはその扉を開けた。
「……っ」
入った瞬間、鼻先をかすめる彼の匂いに、思わず息を呑む。
懐かしくて、胸が締めつけられる。
初めてこの家に来たとき、あまりの簡素さに驚いた。
生活感がなく、本当に人が住んでいるのか疑ったほどだった。
けれどユーリの部屋は違った。生活感そのものだった。
机の上には山積みの資料。
開いたままのクローゼットには、雑に掛けられた服。
きっと、これまでずっと研究に没頭していたのだろう。
(魔法オタクのユーリだものね……)
リゼリアは自然と小さく笑っていた。
とにかく今は痕跡。気持ちを切り替え、部屋を調べ始める。
……ユーリにこの部屋に入ったことは後で謝ろう。
そうしてリゼリアは真っ先に机に向かう。
一番痕跡が残されている可能性が高いと判断したからだ。
そこで、一冊のノートが目に入った。
「……これ、魔法陣?」
ページをめくると、見たことのない魔法陣がびっしりと書き込まれている。
しかもどれも、既存の魔導書には載っていない形。
「もしかして……自作?」
リゼリアは高い魔力を持ち、それなりの魔法も扱える。
それでも、魔導書に載っているものしか使えない。
自作の魔法陣など、聞いたこともなかったのだ。
「さすが大魔導師様ね……」
改めて、ユーリの異質さを思い知らされる。彼の存在が当たり前になりすぎて忘れかけていた。
だけど、この自作の魔法陣を見ても私には何も分からない。
続けて机を漁ると、一冊の本が目に入った。
タイトルは――『魔力欠乏症の全て』
「……っ」
ページを開くと、所々にメモ書きが残されている。
その瞬間、堪えていた感情があふれた。
「……ユーリ……」
これが勘違いでなければ……私のために調べていたもの?
面倒だと言いながら、裏ではこんなことをしていたの?
頬を一筋、冷たいものが伝う。
やっぱり嫌われて避けられているなんて思えない。何か理由がある気がした。
さらに机を調べていると、一枚の地図が出てきた。
そこには無数の×印が書き込まれていた。
「何、これ……」
それにどれも……森にばかり×印ばかり書き込んである。
その時、リゼリアの視線がある一点で止まる。
一箇所にだけ⚪︎印が書き込んであったのだ。
「ここは……」
あまり人の立ち入らない森だ。そして、ユーリと初めて出会った場所もまた森だった。
「もしかして……ユーリはここにいる?」
ずっと薄暗かった心に、一筋の光が差し込むようだった。




