プロローグ
私はもう二度と――誰かの価値に縋って生きたくなかった。
誰かに必要とされることでしか、自分の存在を証明できない人生なんて嫌だった。
私は、自分の足で立ちたい。
たとえ、それが大切な人のそばを離れることになったとしても。
「ねぇ、ユーリ」
向かいに座る彼へ、私は意を決して口を開いた。
「私……ギルドで正式に雇ってもらえることになったの」
大魔導師ユーリ・アデライン。
ぶっきらぼうで不愛想。
でも、魔力を失った私に、安心できる居場所を作ってくれた人でもある。
そして――
いつの間にか、私が恋をしてしまった相手。
でも。
ユーリは、きっと違う。
私のことを大切にしてくれている。
けれど、それは恋ではない。
友人として。
家族のような存在として。
ただ、それだけ。
だから私は、決めた。
この気持ちを押し付けないために。
そしてもう一度、自分自身の人生を歩むために。
「だから……ある程度安定したら、ここを出るつもりよ」
その瞬間だった。
カタン、と。
ユーリが持っていたマグカップを机に置く音が響いた。
「……は?」
目を見開いた彼の表情に、隠しきれない動揺が浮かんでいた。
「なんでだ」
その一言に、胸が大きく跳ねる。
(もしかして……)
一瞬だけ。
ほんの一瞬だけ、期待してしまった。
もしかしたら。
ユーリも私と同じ気持ちなのではないかと。
震えそうになる声を抑えながら、私は答える。
「な、なんでって……元々そういう話だったじゃない」
沈黙が落ちた。
ユーリは眉を寄せ、何かを考えるように視線を伏せる。
「……このままでも、いいんじゃないか」
その言葉に、胸の奥が揺れた。
「……どうして?」
聞かずにはいられなかった。
「そう、だな……」
ユーリは困ったように頭を掻く。
「自分でもよく分からねえ」
そして、ぽつりと続けた。
「でも……このままでも問題ないと思ったんだ」
その瞬間、心臓が一気に冷えていくのが分かった。
(……違う)
そういう意味じゃない。
私が欲しかった言葉は、それじゃない。
胸の奥で、小さく灯っていた期待が音もなく崩れていく。
「……ふざけないで」
自分でも驚くほど、冷たい声が出た。
「……え?」
「ふざけないでって言ってるの!」
顔を上げたリゼリアの瞳には涙が滲んでいた。
「ねえ……この前から何なの?」
震える声が止まらない。
「私は……やっとの思いで伝えたのに……」
胸の奥に押し込めていた感情が、溢れていく。
「それを……踏みにじるようなこと言わないでよ……!」
「お前、なんでそんなに怒って――」
「期待させるようなこと言わないで!」
その瞬間。
ユーリの動きが止まった。
「……え?」
彼は目を見開く。
「お前……それ、どういう――」
聞きたくなかった。
これ以上、ここにいたら。
きっと私は、もっと傷つく。
私は勢いよく立ち上がり、自室へ向かった。
そして。
ユーリからもらった転移用スクロールを手に取る。
「リゼリア!」
背後から、彼の声が響いた。
振り返らない。
「……ユーリのばか」
頬を伝った涙を拭うこともなく、私はスクロールを発動させた。
眩い光が、部屋を包み込む。
伸ばされた彼の手は――届かなかった。
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