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執着王子から逃げた令嬢は、秘密だらけの天才魔導師に拾われました――愛だと思っていたものは、執着でした。  作者: ゆにみ
一章

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37、再会と別れ

 クロード殿下から魔力を無事に返してもらった翌日、私は王宮を出ることに決めた。


 荷物をまとめながら、自然と口元が緩む。

 しばらくギルドの研究にも参加できていなかったし、早く戻らなくてはならない。


 それにユーリ……今ではすっかり隣にいるのが当たり前になっていた彼の顔を思い浮かべる。


 (きっと心配しているわよね)


 早く帰らなきゃ。


 そう思っていた矢先、思わぬ来客が訪れた。私の父――ヴァレンティア公爵だった。


 (……なぜ王宮に?)


 けれど、クロード殿下があれだけ大々的に私を捜索していたのだ。情報が漏れていても不思議ではない。


 だけど今やエドワード殿下の婚約者でもないのだ。王宮との繋がりもない部外者。

 それでもエドワード殿下は一室を貸してくださった。


 そうして私は、父親と久しぶりに顔を合わせることとなった。


 「……リゼリア、久しぶりだな」


 「ええ。お久しぶりですわ、お父様」


 久しぶりの再会に思ったよりも何も感じなかった。

 以前なら緊張したかもしれない。けれど今は、ただ冷静にその顔を見ているだけだった。


 「お前、あのユーリ・アデラインと繋がりがあるそうじゃないか」


 その言葉に、私は小さく息を吐く。


 (……ああ。そう言うこと)


 この際、どうやってユーリとのことを知り得たのかは聞かないわ。

 少しでも娘を気遣う言葉を期待した私が愚かだった。


 「彼をこちらに引き込めるなら、公爵家に戻ることを許可しても――」


 「お断りしますわ、公爵様」


 リゼリアは公爵が言い終わる前にはっきりと遮った。公爵の目が大きく見開かれる。


 それに、許可って何よ。私は自らの意思で家を出たと言うのに。


 かつてのリゼリアなら、ここで一瞬でも迷ったはずだった。

 父の評価を失うことを恐れ、言葉を飲み込んだはずだった。


 けれど今は違う。


 「……もう、結構です」


 リゼリアは静かに告げた。


 怒りでも、悲しみでもない。

 ただ、彼女の中で明確に区切りがついた瞬間だったのだ。


 「私はもう、公爵家のために生きるつもりはありませんわ」


 部屋の空気が止まったような気がした。

 公爵が何か言いかけたけれど、言葉は続かない。


 リゼリアは一礼する。

 深くもなく、浅くもない。ただ形式だけの礼。


 「ごきげんよう」


 それだけを残し、彼女は背を向けた。




 ***



 そして私は王宮を後にした。

 門を抜け、街へ向かおうとしたその時だった。


 「――リゼリア」


 聞き慣れた声が背後から届く。

 振り返ると、そこには白銀の髪を風に揺らす青年が立っていた。


 「ユーリ!」

 

 思わず顔が綻ぶ。ユーリはそんな私を見て、わずかに目を細めた。


 「……お疲れ」


 短い言葉だった。それなのに胸の奥がじんわりと温かくなる。


 待っていてくれたのだろうか。

 そう思うだけで嬉しかった。


 「うん。無事に魔力は戻ったわ」


 「よかったな」


 「ありがとう」


 王宮での出来事は思っていた以上に疲れていたらしい。

 けれど、ユーリの顔を見るだけで肩の力が抜けていく。


 私は自然と彼へ近づこうとした。その時だった。


 ほんのわずかに、ユーリが距離を取った気がした。


 (……あれ?)


 一瞬だけ違和感を覚える。けれどユーリの表情はいつも通りだった。


 (気のせい……?)


 そう思っているうちに、ユーリは何事もなかったように口を開く。


 「……帰るんだろ?」


 「ええ。それにギルドにも随分行っていないもの。みんなにも会わなきゃ」


 「そうか」


 ユーリは少しだけ目を伏せる。


 「……よかったな」


 なぜだろう。先ほどと同じ言葉なのに、今度は妙に静かに聞こえた。


 胸の奥に小さな引っ掛かりが残る。けれど、それが何なのかは分からない。


 「じゃあ一緒に帰りましょう?」


 少しだけ不安を覚えながらも、私はそう声をかけた。

 するとユーリは眉をひそめる。


 「俺の魔法を当てにしていないか?」


 「バレた?」


 「バレる」


 呆れたような返事に思わず笑ってしまう。


 (ほら、やっぱりいつも通りじゃない)


 そう思って安心しかけた、その時だった。


 「だが悪い。今日は寄るところがある」


 「そうなの?」


 「ああ」


 そう言ってユーリが差し出したのは、転移用のスクロールだった。

 だけど、数が多い。


 何枚も束になっている。


 私は思わず目を瞬かせた。


 「……こんなに?」


 「あって困るものでもないだろ」


 「それはそうだけれど……」


 転移用のスクロールは高価だ。

 それをこんなに渡される理由が分からない。


 それに、今このタイミングで?


 (でも、まあ……)


 ユーリは時々、普通の人とは感覚がずれている。


 きっと今回もそういうことなのだろう。私は深く考えないことにした。


 「ありがとう」


 スクロールを受け取り、大切に抱える。そして自然に笑った。


 「じゃあ待ってるわよ?」


 何気ない一言だった。


 けれど、その瞬間だけ――ユーリの瞳が大きく揺れた気がした。


 けれど次の瞬間には、いつもの無愛想な顔に戻っている。


 「……ああ」


 短い返事。それから、ほんの少しだけ間を置いて。


 「またな」


 そう告げた。

 次の瞬間、ユーリの姿はふっと掻き消える。


 残された私は手の中のスクロールへ視線を落とした。


 きっと、すぐにまた会える。


 そう思っていた。


 だから気づかなかったのだ。


 これが――ユーリとの別れになるかもしれないことに。

第一章完結です!第二章もよろしくお願いします!


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