28、話が噛み合わない
ギルドにクロード殿下が来ている。
(なんで……!?)
それに、さっき確かにはっきりと目が合った。その瞬間、クロード殿下はこちらへ向かって走り出したのだ。
(気付かれたの……!?)
でも、どうして?
ユーリの認識魔法がかかっているはずじゃないの?
それに以前、街で鉢合わせた時には気付かれなかった。
それなのに、今回はどうして……!
先ほどは、クロード殿下の姿を見た瞬間に身体が強張り、その場から動けなくなった。けれどユアンと目が合った途端、はっと我に返る。そして、無我夢中で走り出した。
(私はもうあの部屋には閉じ籠りたくない……!)
やっと見つけた気がするの。自分の居場所を……!
けれど背後から迫る足音はどんどん近づいてきた。
その時。
「リゼリア……っ」
ぐいっと腕を引かれ、身体ごと抱き寄せられた。その瞬間、リゼリアは血の気が一気に引いた。
「……よかった」
耳元で安堵したような声が落ちる。
よかった……? どういう意味なの。
だけどそれよりも――。
(どうしよう……!)
なんて言ってこの場を切り抜けようかと思考を巡らせていた時、再びクロード殿下が口を開いた。
「リゼリア……無事だったんだな」
ますます意味がわからなかった。だけどその声には迷いがない。まるで最初から私がリゼリアだと確信しているようだった。
それに――あまりにも優しい声音だった。
けれど、なぜだろう。それが妙に恐ろしかった。
それに、さっきまで走っていたせいだろうか。息苦しさが増していく。
「ど、どなたかと間違えているのではないでしょうか」
震えそうになる声を必死に押し殺しながら答える。
するとクロード殿下は静かに首を振った。
「もう君を二度と間違えないさ……あの時の事はすまなかった。姿が変わっていたんだな。見つけられなくてすまなかった」
宥める様に頭をそっと撫でられる。
なんだろう……本当に話が噛み合わない。
「えっと……私は――」
「いいんだ」
クロード殿下は遮るように言った。
「分かっている」
全然分かっていない。そう言いたかったのに言葉が出ない。
「君を連れ去った男に脅されでもしたか? もう大丈夫だ。一緒に帰ろう」
低く穏やかな声が落ちるとともに、抱き寄せられていた腕に力がこもる。
そこでようやく理解した。
クロード殿下は私が自らの意思で逃げたのだと思っていない。連れ去られたと思っているのだわ……!
その瞬間、急に足の力が抜けて膝折れしそうになる。けれどクロード殿下がさらに強く抱き留めた。気付けば、その胸に体重を預ける形になっていた。
「やっぱり……リゼリアだろう」
その声はどこか確信に満ちていた。
「大丈夫だ。今、魔力補充をするから――」
その時だった。
「――おい」
低い声が空気を裂いた。
はっと顔を上げる。そこに立っていたのは――。
いつも隣にいるのが当たり前になっていた人。認識魔法で姿を変えたユーリだった。
(ユーリ……!)
その姿を見た瞬間、胸の奥に安堵が広がる。
怖かった。本当にどうしていいのか分からなかった。
けれど、ユーリが来てくれた。それだけで大丈夫だと思えてしまう。
「戻ってくるのが遅ぇなと思って来てみたら」
ユーリは冷え切った視線をクロードへ向けた。
「おいお前、こいつを離せよ」
その瞬間、クロード殿下の表情が初めて大きく変わった。
「お前は…………!!」




