25、ようやく掴んだ手がかり(sideクロード)
「殿下……! 少し休まれてはどうでしょうか……!」
王都から離れた街道沿い。クロードは騎士たちと共に、今日もリゼリアの行方を追っていた。
だが、その顔色は決して良いとは言えない。連日の捜索に加え、ろくに睡眠も取っていないのだ。
それでも足を止める気にはなれなかった。
「こうしている間にも、リゼリアが助けを求めているのかもしれない」
「それはそうなのですが……」
低く落ちた声に、騎士は困ったように眉を下げる。そして何かを思いついたように顔を上げた。
「そうだ……! 殿下、せめて疲労回復のポーションだけでも飲まれてはいかがでしょう」
「ポーション?」
「この先に薬師ギルドがあるのです。評判の良い薬師が集まっているとか」
騎士はどこか期待するような目でこちらを見ていた。
心配をかけている自覚はある。ここで断れば、さらに不安にさせるだけだろう。
クロードは小さく息を吐いた。
「……そうだな。それくらいなら」
騎士の表情がぱっと明るくなる。
そうして案内された先にあったのは、薬草の香り漂う木造の建物だった。
(ここが薬師ギルド……)
クロードは何気なく扉へ手をかける。そして、扉が開いた瞬間に全身を貫くような衝撃が走った。
「……っ!?」
全身が総毛立つ様だった。空気の中に残る微かな痕跡。
(この魔力は……!)
胸の奥で黒い感情がざわめいた。忘れるはずがない。
リゼリアを連れ去った、あの男。
忌々しいほど強大な魔力。
(……間違いない)
クロードの瞳が鋭く細められる。ようやく掴んだ手掛かりだった。
***
早速、薬師ギルドの中へ足を踏み入れる。
クロードは深くローブを被り、その正体を隠していた。不用意に王族だと知られるわけにはいかない。
「魔法師を探しているの〜?」
間延びした声が響く。声の主は、茶髪の癖毛を揺らす青年だった。人懐っこい笑顔を浮かべている。
「君がギルド長か?」
「そうそう。ユアンだよ〜」
「あ、そうそう。魔法師のことだよね? このギルドには魔法が使える人間は多少いるけど、僕がいちばん強いかなー」
軽い口調とは裏腹に、その身からはそれなりの魔力を感じる。
だがあの時感じた魔力とは比べ物にならない。絶対にこの男ではないと確信できる。
ギルドに残っていた魔力とは質も規模も違う。
「お兄さん、この辺じゃ強い魔法師なの?」
「多少はな」
「ふーん」
ユアンは興味深そうに目を細めた。クロードは本題を切り出す。
「ここ最近、このギルドに強力な魔法師が来なかったか?」
「うーん」
ユアンは顎に手を当てる。
「お客さんの職業までは分からないかなぁ〜」
「そうか」
クロードは相手の表情を観察する。だが嘘をついている様子は見えない。
いや。正確には、何かを隠しているようにも見えなかった。
「それよりも、お兄さん」
「なんだ」
「ここにはそれを聞きに来ただけ?」
「いや。ポーションを購入するつもりで来た」
「あ、やっぱり〜?」
ユアンは嬉しそうに立ち上がる。
「疲れてる顔してるもんね〜。おすすめあるよ〜」
そう言って、次々と商品を並べ始めた。
結局、クロードは勧められるままにいくつかのポーションを購入することになった。
だが、収穫がなかったわけではない。
あの男は確実にここへ来ている。それだけは間違いなかった。
ギルドを出たクロードは振り返り、静かに目を細めた。
(もう少しだ)
リゼリアへ繋がる手掛かりを、ようやく掴んだのだから。
***
一方、その頃。
薬師ギルドでは――。
「……ふーん」
ユアンが一人、カウンターに頬杖をついていた。先ほどの男のことを思い返しているらしい。
「何か探してるんだろうな〜」
軽い口調で呟く。けれど、その目は意外なほど鋭かった。
「リーゼとユリスも訳アリっぽいし」
ユアンは頬杖をついたまま、先ほどの男が立っていた場所を見る。
「ま、いっか〜」
ユアンはあっさりと考えるのをやめた。
「知られたくないことの一つや二つ、誰にでもあるよねぇ〜」
ユアンは肩を竦めた。誰にだって事情はある。聞かれたくないことを無理に聞く趣味はない。
だから踏み込まない。それだけ。
「さてさて」
ユアンはゆっくりと立ち上がる。
「仕事しよ〜」
そう言って背伸びをする。
そして、鼻歌交じりにギルドの奥へと消えていったのだった。




