24、いざ薬師ギルドへ!②
薬師ギルドで魔力欠乏症のポーション作りの研究に参加することになった私たちは、翌日再びギルドへと訪れた。
「リーゼにユリス! 待ってたよ〜」
昨日と同じくユアンが出迎えてくれた。だけど、どこか様子がおかしい。
髪はあちこち跳ねているし、目の下には薄っすらと隈までできている。
「……ユアン?」
思わず声をかけた、その時だった。
ギルドの奥から慌ただしい足音が響く。
「マスター! もう流石に休んでくださいよー!」
飛び出してきたのは別の薬師だった。途中で私たちに気づき、慌てて姿勢を正す。
「あっ、昨日の方たち!」
私は軽く会釈を返した。するとユアンは全く悪びれた様子もなく笑う。
「ごめんごめん! 楽しくなっちゃってさ〜」
「笑い事じゃありません!」
薬師は額に手を当てた。部下を困らせているのかしら。でもその口調からは、どこか気安い空気も感じられる。
「昨日からほとんど寝てないんですよ、この人!」
「えっ!?」
思わず声が裏返った。まさかそこまでとは思わなかったのだ。
「食事もまともに取ってないですし!」
「それはダメでしょう!?」
さすがに驚いてユアンを見る。けれど当の本人はきょとんとしていた。
「そう?」
「そうよ!」
反射的にツッコミを入れてしまった。すると隣から落ち着いた声が聞こえてきた。
「その気持ちわかるぞ」
「え?」
振り返ると、ユーリが真面目な顔で頷いていた。
「研究していると時間を忘れるからな」
「いや、食事と睡眠は大事でしょう!?」
再び反射的にツッコむ。
(デジャヴ!?)
さっきも同じやり取りをしたわよ!?
「リーゼは分かってないな」
ユーリはふんっと鼻を鳴らし、心なしかドヤ顔である。その隣でユアンもうんうんと大きく頷いていた。
「分からなくて結構よ!」
なんなの、この人たち。思わず頭を抱えたくなった。
(もしかして薬師も薬オタクなの……!?)
魔法塔には魔法オタクしかいないと思っていた。だけど薬師ギルドも大差ないのかもしれない。
私が呆れていると、先ほどの薬師が深々とため息をついた。
「リーゼさん……お気持ちは分かります」
「ですよね!?」
ようやく分かり合える人がいた。思わず固い握手を交わしたくなる。
そんな私たちを見ながら、ユアンは楽しそうに笑う。
「まあまあ。とりあえず研究を始めようよ〜」
そう言って、ぱんっと手を叩いた。
途端に周囲の薬師たちの空気が変わった。
さっきまでふわふわしていたユアンの目も、ほんの少しだけ真剣になる。
「あ、そうだ」
ユアンは何かを思い出したように私を見る。
「まずはリーゼの状態を調べたいから採血させてね〜」
「採血?」
「研究だからね」
「当然だな」
ユーリまで当たり前のように頷く。
私は二人を交互に見た。
(やっぱりこの人たち、同じ種類の生き物だわ……)
***
そういうわけで、私たちは魔力欠乏症のポーション開発を進めることになった。
まずは私の状態を調べるため、採血を行うことになったのだけれど――そこには一つ問題があった。
「でも、私は普通の魔力欠乏症とは違うみたいなの」
採血の準備をしていたユアンへ向かってそう告げる。
「参考にならないかもしれないわ」
せっかくの研究なのだ。無駄なことに時間は費やしたくない。
するとユアンは、ぱちりと目を瞬かせた。少しの沈黙が落ち、私は少しだけ気まずくなった。
(何か言ってくれないかしら……)
せっかく研究することになったのに、水を刺す様なことを言ってしまったかしら。
そう思った次の瞬間。
「それなら尚更やらないと〜!」
「え?」
予想外の反応に私は目を丸くさせた。そして、ユアンが楽しそうに身を乗り出してくる。
「普通の魔力欠乏症のデータは別に集めればいいんだよ」
「でも私は……」
「リーゼはリーゼで貴重な症例じゃないか〜」
まるで面白い発見をした子どものように目を輝かせている。
「普通と違うなら、その違いを調べる価値があるってことだよ」
そう言って、ユアンはにっこり笑った。
「だって、治したいんでしょ?」
その一言に、胸の奥が小さく震えた。
それはもちろん。治したい。失われた魔力を取り戻したい。
私から奪われたものを、もう一度この手に取り戻したい。そのために、ここまで来たのだから。
「今までは魔力欠乏症って魔法師の管轄だと思われてたんだ。でも薬師にできることがあるなら、本気でやってみたい」
その瞳は真剣だった。普段の軽い雰囲気はそのままなのに、研究者としての熱意だけははっきり伝わってくる。思わず胸が熱くなる。
「……よろしくね、ユアン」
私がそう言うと、ユアンは満足そうに笑った。
「うんうん。いいね〜」
そして手をぱんっと叩く。
「じゃあまずは採血からだ!」
「急にやる気ね……」
「だって面白そうだし〜」
「そこは人助けのためって言いなさいよ」
「あ、それもあるよ〜」
全く説得力がなかった。やっぱり根っからの研究気質なのね。
でもその軽さが、私を前向きにさせてくれたのだった。
次回、あの男が登場!




