20、最近気になること
ユーリとの共同生活にも、少しずつ慣れてきた頃だった。
最近になって、私は一つ気になることがあった。
「ねえ、どうして最近クロード殿下のことばかり聞くの?」
リゼリアは食後の紅茶を飲みながら、魔導書を読んでいるユーリに尋ねる。
ユーリはここ数日、やたらとクロード殿下について質問してくるのだ。
どんな人なのか。どんな魔法を使うのか。得意なことは何か。
正直、答えられないことも多い。
「そんなに聞かれても困るわ。私だって全部知っているわけじゃないもの」
するとユーリは本から顔を上げた。
「お前、そいつから逃げてるんだろ」
「ええ」
「だったら気になる」
それだけ言って、すぐに本へ視線を落とす。
(……本当?)
なんだろう。なぜだかはぐらかされている気がした。
「それだけ?」
「それだけだ」
そしてすぐに視線を逸らす。
ん〜! やっぱり絶対に嘘だ。
失礼だけれど、彼はそんなこと気にしない気がする。
私はじっと彼を見る。
しばらくして、ユーリは小さくため息を吐いた。
「……あと、優秀な魔法師らしいからな」
「そっちが本音じゃないの?」
「さあな」
口元だけが少し笑う。
図星らしい。
「もう!」
思わず頬を膨らませる。
「私は真剣なのよ?」
「俺も真剣だぞ」
「全然そう見えないんだけど!」
ユーリは肩をすくめた。
「まあいい。続けろ」
「続けろって……」
私は呆れながらも記憶を辿る。
「でも、本当にそんなに詳しくは知らないのよ。こうなる前まで、クロード殿下とはそこまで関わりがなかったもの」
そう。優しくしてもらったことはある。
けれど――。
思い返してみれば、私が知っているクロード殿下は意外と少なかった。
「だけどお前、そいつから逃げた割には嫌ってはなさそうだな」
「ええ」
リゼリアは素直に頷いた。
「クロード殿下は優しいもの」
少なくとも、あの時の私を救ってくれた。
婚約を破棄され、家族にも見放された私に手を差し伸べてくれたのは、クロード殿下だった。
「ただ、ずっと王宮にいるのが息苦しかっただけよ」
そう答えると、ユーリは何も言わなかった。
ただ、本の頁をめくる手が一瞬だけ止まる。
その小さな違和感に気づくことなく、私は紅茶へと口をつけた。
「……やさしい、か」
ユーリはなにやら小さく呟いていたけれど、よく聞こえなかった。
「何か言った?」
「いや、なんでもない。それよりもお前、また料理を焦がしていたな」
「もう! でも美味しかったでしょう? それよりもあなたも掃除をお願いしたら窓を吹っ飛ばして!」
この前、掃除をお願いしたらなんとこの男、埃を魔法で吹き飛ばそうとして加減がわからなかったのか、窓ガラスが吹き飛んだのだ。
まあすぐに魔法で窓ガラスは直ったけど……。
「掃除なんてしたことないんだよ」
「埃は吹き飛ばすんじゃなくて、拭くのよ!」
「はいはい」
「本当に分かっているのかしら」
とはいえ文句を言いながらも一緒にやろうとしてくれるから、優しいとは思う。
(楽しいな)
こんな風に過ごす日々が続けば良い。そう思ったリゼリアだった。
だけどその日。ユーリは帰ってこなかった。




