18、最強魔導師との共同生活④
「もう大丈夫なのか?」
「ええ。魔力補充もしてもらったから、身体はもう平気よ」
そう答えると、ユーリは小さく頷いた。
珍しく心配してくれていたらしい。
ぶっきらぼうで言葉も足りないけれど、なんだかんだ優しいのよね。
「じゃあ、さっそく料理を作るわよ!」
「今日はもう干し肉でいいんじゃないか?」
「何言ってるのよ。せっかく買った食材がもったいないでしょう」
「……面倒だな」
「面倒じゃないの」
即座に言い返すと、ユーリは小さくため息をついた。
「じゃあ俺も手伝う」
「いいの?」
彼からそんな言葉が飛び出すとは。思わず聞き返した。
「だってお前、料理したことないだろ」
事実を突きつけられ、言葉がぐさりと胸に刺さる。
「……じゃあ聞くけど、ユーリは?」
「ないな」
「一緒じゃないの!」
思わず声を上げると、ユーリはきょとんとした顔をした。
「確かに」
あっさり認められてしまい、今度は私が拍子抜けする。
そして気づけば、二人して笑っていた。
きっと彼なりに気を遣ってくれているのだろう。
こうして私たちは二人でシチューを作ることになった。
***
「それで、この野菜はどうするんだ?」
「えっと……たぶん切るのよね?」
「たぶん?」
「だって作ったことないんだもの!」
「威張ることじゃないだろ」
料理経験ゼロ同士の会話だった。
そんな中、ユーリが包丁を手に取ろうとして、ふと手を止める。
そして片方の手袋を外した。私は思わずその手を見つめてしまった。
「……なんだ」
「え?」
「さっきから見てるだろ」
不意に指摘され、慌てて視線を逸らす。
「ご、ごめんなさい。ずっと手袋をしてるから気になって」
ユーリは外した手袋へ視線を落とした。
「別に大した理由じゃない」
「そうなの?」
「ああ」
それ以上は語らなかった。
なんとなくだけれど、これ以上聞かれたくないのだろう。
私は素直に引き下がることにした。
「まあいいわ。それよりシチューよ」
「まだ作り方分かってないだろ」
「うっ……」
痛いところを突かれた。
結局その後も、私たちはおばちゃんから教えてもらったレシピと睨めっこしながら悪戦苦闘することになったのだった。
***
「なんとかできたわ……!」
鍋の中には、どうにかシチューらしきものが完成していた。
具材の大きさはばらばらだし、形も歪だ。
「はじめてにしては上出来じゃないか?」
「でしょう?」
リゼリアは胸を張って答えていた。
自分で買い物をして、自分で料理をする。
今まで当たり前のように誰かがやってくれていたことを、自分の手でやり遂げた。
それだけで胸が弾んだのだ。
(はじめての料理……!)
恐る恐るスプーンを口へ運ぶ。
「……おいしい」
気づけば声が漏れていた。ユーリもスプーンを口へ運び、小さく頷いた。
「うまいな」
「本当?」
「ああ」
その言葉が嬉しくて、自然と笑みがこぼれる。
「ほら、やっぱり作ってみて正解だったでしょう?」
「まあ、そうだな」
珍しく素直な返事に、思わず吹き出しそうになる。
王宮から逃げ出し、街へ出て――色々なことがあった。
不安なことは山ほどある。それでも、こうして自分で考え、料理をして。
こんなふうに心穏やかに過ごせたのは、いつ振りなのだろうか。
家族とのことに、クロード殿下のこと。それに魔力欠乏症のこと。考えなければならないことは、まだたくさんある。
けれど、こうして自分で選び、自分で行動している今が不思議と心地いい。
きっと私は今まで、自分のために生きてこなかったのだ。
父に言われるまま、周りの期待に答えるため。いつの間にか、本当の自分を押し込めていたのかもしれない。
だから、これから先の未来を思うと少しだけ胸が高鳴る。
まるで、これから私の人生が始まるような気がした。




