17、最強魔導師との共同生活③
「お、おいしい〜〜!!」
「案外うまいな」
私たちは早速、屋台で串焼きを食べていた。
香ばしい香りと焼きたての肉汁が口いっぱいに広がる。
今まで食べてきた高級料理とは違う。けれど、これはこれで驚くほどおいしかった。
「そうでしょう? あんな干し肉ばかり食べてちゃもったいないわよ」
「まだ言うのか」
「言うわよ」
「しつこいぞ」
「本当のことじゃない」
すると前方から笑い声が聞こえてきた。
「お前さんたち、仲がいいんだねえ」
屋台の店主がにやにやしながら言う。
「えっ!?」
思わず声が裏返った。一方のユーリは首を傾げていた。
「そうか?」
その反応に店主はさらに笑った。
私は思わず頬を熱くする。
仲が良いかどうかは分からない。
でも、こんなふうに肩の力を抜いて話せる相手なんて、今までいなかった気がする。
とにかく外で食べる食事がとてもおいしく感じられたのだった。
***
「じゃあ次は食材の調達よ!」
そうして私たちは食材を買いに向かったけれど……。
「う〜〜ん……」
リゼリアは料理をしたことがないのだ。
食材だけ見ても何が作れるのか分からなければ、何を作ればいいのかも思いつかない。
「ほらみろ、やっぱり干し肉でいいじゃないか」
「あなたはちょっと黙ってて」
思わずすぐに即答してしまった。そんなユーリは不満そうな顔をしてる。
本当に干し肉しか頭にないのね……。
干し肉のことなんて、しばらく考えたくも無いわ。
引き続きリゼリアが店先で項垂れていると、店のおばちゃんが声をかけてきた。
「お嬢ちゃん、お悩みかい?」
「料理に慣れてなくて……」
「作ったことないからな」
「ユーリ!」
「事実だろ」
「余計なこと言わないで!」
私たちのやりとりを見て、おばちゃんは楽しそうに笑った。
「仲良しだねえ」
また言われた。どうして皆そうなるのよ。
結局、おばちゃんから簡単なレシピとおすすめの食材を教えてもらった。
下心も見返りもなく親切にしてくれる。
それがなんだか嬉しかった。
貴族社会では何をするにも駆け引きばかりだったから。
自分で生活するって、こんなにも楽しいのね。
***
「じゃあ帰ってシチューを作りましょ!」
「張り切ってるな」
「楽しみにしてなさい!」
そう言って笑った、その時だった。
突然、肩を掴まれる。
「リゼリア?」
聞き覚えのある声に、心臓が凍りつくようだった。
恐る恐る振り返るとそこにいたのは――。
「……っ!」
漆黒の髪に赤い瞳。眼鏡をかけ、深くフードを被っていても分かる。
(クロード殿下……!)
でもどうして?? 認識魔法がかかっているんじゃ無いの??
(バレたの……?)
やだ……もうあの場所には戻りたくない……!
リゼリアは恐怖で身体が動かなくなっていた。
するとクロード殿下は私の肩から手を離した。
「……すまない。人違いだ」
そう言うと、そのまま立ち去っていく。私は呆然とその背中を見送った。
(バレなかった……?)
認識魔法は本当に効いていたのだ。
「…………はあ……っ」
無意識のうちに息を止めていたリゼリアは大きく息を吸った。
安堵したためか、そのままその場で座り込んでしまった。
(よかった……本当に良かった……)
必死に息を整えようとしたその時。
ぐらり、と視界が揺れる。
「え……?」
急に身体が重くなった。息が苦しい。胸の奥がじくじくと痛む。
「リゼリア?」
ユーリの声が聞こえたけれど上手く返事ができなかった。
(安心したせいなの? それにしてはなんだか苦しい……)
「……おい」
その時、ユーリの表情が変わった。いつもの気だるそうな空気が消えている。
「お前、魔力が減りすぎてる」
「ま、魔力……?」
ユーリは周囲を見渡し、小さく舌打ちした。
「ここじゃ駄目だ。帰るぞ」
「え?」
次の瞬間、身体がふわりと浮かぶ。気づけば横抱きにされていたのだ。
「ちょ、ちょっと……!」
「うるさい、黙れ。お前、このままじゃ死ぬぞ」
「し、死ぬ……?」
血の気が引いた。
魔力欠乏症が命に関わる病だと知っていても、改めて言われると足が震える。
そして、そのままユーリは裏路地へ入ると瞬間移動で家へと戻った。
家へ戻るなり、ユーリが私へ手をかざす。すると暖かな力が身体へ流れ込んできた。
苦しかった呼吸が楽になり、重かった身体も軽くなっていく。
「ありがとう……」
「ああ、魔力が尽きかけていたからな」
「えっ」
魔力欠乏症にとって魔力の枯渇は命取りだ。
私、本当に危なかったんだ……。
昨日、クロード殿下に魔力補充をしてもらったばかりなのに。
いつもなら数日はもつはずだった。
どうして急に?
やっぱり色々心労が重なっていたから?
それとも別の理由があるの?
同時にふと違和感も覚えた。同じ魔力補充なのに……ユーリとクロード殿下で感覚が違っていた。
ユーリは身体が楽になったけれど、クロード殿下はもっとこう……妙にしっくりくるというか。
人によって属性は違うし、相手によって変わる物なのかしら。
けれど、その考えはすぐに首を振って追い払った。
今は分からないことばかりだ。これ以上考えても仕方ない。
「とにかくありがとう」
「ああ」
ユーリは短く返事をした。
けれどその表情は険しいままだった。
その後、ユーリが小さく呟いていたことを私は知らない。
「アイツ……なんなんだ?」
ユーリは窓の外をチラリと見ながら、眉を顰める。
「……思っているよりも面倒そうだな」




