15、最強魔導師との共同生活①
こうして私とユーリは、一緒に暮らすことになった。
「とりあえず、何をすればいいの?」
「あー、適当に家事でもやってくれ。俺は休む」
適当にって……。
それが一番困るんだけど。
そう思った時には、ユーリはすでにソファへと寝転がっていた。
「え、ちょっと……」
彼は返事もなく、目を閉じたまま微動だにしなかった。
「本当に寝たの!? まさかの放置!?」
思わず声が大きくなる。
けれどユーリは起きる気配すらなかった。
仕方なくリゼリアは部屋を見回した。
最低限の家具が置いてあるだけで、物がほとんど置いていない。ゴミもなさそうだった。
……この家はとにかく生活感がなさすぎる。
というより――。
「本当にここ、人が住んでるの……?」
思わず呟いてしまうほどだった。
机も棚も殺風景だ。
それでも窓枠や棚の上には薄っすらと埃が積もっている。
どうやら掃除はしていないらしい。
(掃除は必要そうね)
そう考えた瞬間――。
ぐぅぅぅぅぅ。
静かな部屋に盛大な音が響いた。
「……っ!」
反射的にお腹を押さえる。
慌ててユーリを見るが、相変わらず眠っていた。
(よ、よかった……)
聞かれていないらしい。
けれど考えてみれば、最後にまともな食事をしたのはいつだっただろう。
逃げることに必死で何も食べていなかった。
(まずは食事よね)
料理なんてしたことはない。
でも食材さえあれば何とかなるかもしれない。
そんな希望を抱きながら食糧庫へ向かった数秒後。
「えええぇぇぇっ!?」
予想外の光景に、思わず悲鳴が飛び出した。
なんと食糧庫には干し肉しかなかったのだ。
パンがない。野菜もない。果物もない。調味料すらほとんどない。
本当に干し肉しかない……!!
「う、嘘でしょう……?」
何度見ても結果は同じだった。
辺りを探しても干し肉。
棚を開けても干し肉。
箱の中も干し肉。
どこまでも干し肉。
「どれだけ干し肉が好きなのよ……!」
え、食事に興味ないの?
魔導師ってみんなこうなの??
いくらなんでもこれは酷すぎでは!?
その時、奥から気だるそうな声が聞こえる。
「なんだよ、騒がしいな」
振り返ると、眠そうな顔をしたユーリが立っていた。
リゼリアは勢いよく指を突きつける。
「ユーリ!!」
「なんだ」
「これはどういうことなの!?」
「だから何が」
「なんで食糧庫に干し肉しかないのよ!!」
ユーリは一瞬だけ考えこむとすぐに口を開いた。
「腐らないから」
めちゃくちゃ真顔だった。
「理由になってないわよ!」
「なるだろ」
「ならない!」
あまりにも当然のように言っているから、即座に否定してしまった。
けれどユーリは不思議そうな顔をしている。
心の底から理解できないらしい。
「食事なんて食えればいいだろ。干し肉ならすぐ食べられるし」
「本気で言ってるの……?」
「?」
首を傾げられた。
どうやら本気らしい。
(この人、本気で言ってる……!)
リゼリアは額を押さえた。
ユーリ・アデライン、彼は魔法の天才。大魔導師だ。
凄い人なのだろう。
でも――。
(生活能力は壊滅的だわ……!!)
その確信だけは、出会って一日で得られたのだった。
***
「と、とにかく食材を手に入れましょう」
干し肉だけじゃ正直食事にならないわ。
こうしてユーリに提案したけれど――。
「え? どうしてだ?」
「どうしてって、これだけじゃ食事にならないわ……!」
「今まで俺は、この食事でなんの問題もなかったが――」
そういった後、ユーリは少し考え込むようにして口を開く。
「でもまあ、たまにはいいか」
「じゃあ、行くぞ」
「行くって?」
「ん? 街に」
そして街に買い物に向かうことになったけれど、私はクロード殿下から逃げ出した身だ。
ユーリはそれを考慮して、私に魔法を施してくれた。
でも鏡を見ても私の外見に全く変化は見られなかった。
「ねぇユーリ、全然変わっているように見えないけど……」
「これは認識魔法なんだ。他人には全くの別人に見えるはずさ」
「なるほど……?」
少し不安は残ったけれど、大魔導師の彼が言うのなら大丈夫なのだろう。
そうして私たちは街へ向かった。
まさかその先で、最も会いたくなかった相手と再会することになるなんて。
お読みいただきありがとうございます!
もし面白い、続きが気になると思っていただけたら、ブックマークや評価で応援していただけると、執筆の励みになります!




