13、ユーリ・アデライン②
「……お前、働いたことは?」
「……ありません」
「じゃあ無理だな」
私の返事を聞くとユーリは即答した。
「え、そんな……!困ります……!!」
「俺は困らない。じゃあ」
彼はさらりと吐き捨てるように言うと、再びこの場を去ろうとする。
私は慌てて、また彼の服を咄嗟に掴む。
ユーリはこちらに顔を向けると、盛大にため息を吐いた。
「このやり取り、あと何回やれば終わるんだ」
「なんでもやりますから……!!」
必死な様子な私とは正反対に、ユーリは面倒そうにこちらを見つめる。
「お前、貴族だろ」
「え?」
「見ればわかる」
彼は腕を組み、呆れたように言い放つ。
「手を見ろ。傷ひとつない。髪も手入れされてる。立ち方も喋り方も全部そうだ」
「あ……」
「ボランティアじゃないんだ。何もできないやつを雇う趣味なんてない」
そうはっきりと言われて、リゼリアは言葉を失う。
(確かにその通りだわ……)
王宮から逃げ出しただけで、自分はまだ何も持っていない。
何も出来ないのでは、自分の足で立っているとは言えない。
あの王宮に閉じこもっていた日々と何も変わらない……。
現実を突きつけられ、リゼリアは俯いてしまった。
そんなリゼリアを見て、ユーリは眉間を押さえる。
「……面倒くせぇな」
彼は頭を掻きながら、小さく呟いた。
そして、ちらりとリゼリアに視線を移した瞬間、ユーリの視線が止まる。
「……ん?」
その金色の瞳は細められていた。
「……お前、何だその魔力」
「え?」
突然の言葉にリゼリアは目を瞬いた。
「私……魔力欠乏症なんです」
「いや、そういう話じゃない」
ユーリの表情が険しくなる。
まるで何かを確かめるようにリゼリアを見つめていた。
「……おかしい」
「…………?」
リゼリアは首を傾げた。
数秒の沈黙の後、ユーリは視線を逸らして呟く。
「……いや、なんでもない」
そして大きく息を吐くと、彼はこちらに向き直した。
「気が変わった」
「え?」
「しばらくなら置いてやってもいい」
急に言っていることが変わって、驚いたけれど喜びの方が大きかった。
リゼリアの顔がぱっと明るくなる。
「ほ、本当ですか!?」
「勘違いするな」
喜んでいる様子のリゼリアを見て、彼は即座に釘を刺す。
「役に立たないと判断したら追い出す」
「わかりました!」
「それと俺の言うことは聞け」
「聞きます!」
「……返事だけは立派だな」
呆れた声だったけれど、完全に拒絶する気配はもうなさそうだった。
「ありがとうございます!」
深々と頭を下げるリゼリアを見て、ユーリは頭を掻いた。
「……まあ、いいか」
「何か言いました?」
「なんでもない」
そしてユーリは洞窟の出口へ向かって歩き出す。
「行くぞ」
「どこへですか?」
「俺の家だ」
そう言ってユーリは振り返ることもなく足早に進んでいく。
「ま、待ってください……!」
慌ててその背中を追いかける。
大魔導師ユーリ・アデライン。
その時の私は、彼との出会いが自分の運命を大きく変えることになるなんて、まだ知らなかった。




