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第93話 共鳴する魂、開かれる理の門

「……これが、最後の試練なの?」


 ロアが、漆黒の扉の前に立つ。扉には、二つの窪みがあった。一つは実体を持つ聖葬槌を嵌める溝。一つは論理コードを流し込むための鍵穴。


「……この門は、物理的な修復と、論理的な定義が……寸分の狂いもなく同期シンクロした時にしか……開かない。」


 シオンの声は、今や風の囁きのように心もとない。 彼の像はもはや輪郭さえもぼやけ、背景の虚無に溶け込みかけていた。


「……シオン。私が、隣で支えます。……同期エラー、出さないでください。」


 ナハトが、震える自分の手をシオンの半透明な手にそっと重ねた。感触はないはずなのに、紫の光がシオンの像を補強し、彼をこの世界に繋ぎ止める重りとなる。


「……準備はいいか。……せーの、で。……三、二、一……!」


 ガキィィィィィィィィィン……ッ!!!!


 黄金の光と翡翠のコードが激しくぶつかり、共鳴した。世界のプログラムを塗り替え、物理法則を再定義するエネルギー。それは、生身の少年であるロアの身体を、内側から引き裂くような衝撃。


「……う、ああぁぁぁぁぁっ!!」


 ロアの腕から血が滲み、聖葬槌の柄が赤く染まる。


「……バグを突っ切れ! ……視るんだ、……その槌の先にある、……新しい世界の輪郭を!!」


 ナハトは二人を支えながら、自らの予備リソースを、ナノ秒単位でシオンの崩壊を止めるためのパッチとして使い果たしていた。


(……止まって。……まだ、消えないで。……私たちの、……私、の……。)


 ――。


 黄金と翡翠の光が完全に混ざり合い、真っ白な閃光となってアーカイブを埋め尽くした。


 ガシッ。


 世界の綻びが、最後の一箇所まで正しく縫い合わされた音がした。    


 ギギギギギギ……ッ!!


 漆黒の扉が、ゆっくりと、しかし重厚に左右へと開いていく。  

 だが、その扉の向こう側から溢れ出してきたのは、輝かしい上位階層への希望だけではなかった。


 ドォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!


 空間全体を圧し潰すような、漆黒のプレッシャー。 門の向こうに、真っ黒な霧の翼を広げた影が、不気味に浮遊していた。


「……あの、黒い、指導者か……っ!」


 大教主たちをも遥かに凌駕する、理の破壊者の頂点。扉が開かれた瞬間に待ち構えていた、絶望。


「……ロア。……いよいよ、……本当の、掃除の……時間だ。」


 シオンの半透明な指先が、微かに震えた。世界の定義が剥がれ落ちる、本当の終わりの秒読み(ゼロカウント)が、今始まった。


(第93話 終わり)


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