第79話 翠風の逆鱗、空を裂く翡翠の修復
「……理の強制書き換えだと? そんな、馬鹿な……ッ!」
翠風の球体牢獄の中で、ゼフィロスが驚愕に、翡翠の翼を震わせた。
ロアの聖葬槌が放つ翡翠の光は、単なる魔力ではない。
ノエルの持つオリジナル・コードと共鳴したことで、この塔の管理者権限そのものを力ずくで正常化していく奔流だった。
「掃除、開始だよ!!」
ロアが、10倍の重力を嘲笑うように空へと跳ねた。
その跳躍は、もはや物理法則に従っていない。 ロアが空を蹴るたびに、周囲の気圧が足場となり、彼を加速させる。シオンからアップデートされた翠風モードの恩恵
――「空間質量無視」と、「遠隔修復」がいよいよ真価を発揮する。
「図に乗るな、地上のお掃除屋め!!」
ゼフィロスが機械の翼を広げ、無数の断裂の刃を全方位へと放った。
これまでのロアなら、回避することさえ不可能な全方位攻撃。だが、今のロアは聖葬槌を振るうことさえしなかった。
ブンッ――!!
ロアが槌を空中で一閃させると、翡翠の光が斬撃のごとき鋭い波となって前方へと飛んでいく。
「……えっ!? 槌が、飛んだ……!?」 ノエルが目を見開く。
それは物理的な投擲ではない。槌の軌道上に発生した強烈な修復の波動が、放たれた瞬間に距離を詰める光となって、ゼフィロスの放った断裂の刃を到達する前に次々と消去(修復)していったのだ。
「……解析成功! 翠風モード・アクティブ! ……対象との距離をゼロと定義し、修復の衝撃波を音速の5倍で射出中!」
シオンの声が、歓喜に震える。
「ぐ、ぉっ、あぁぁぁぁッ!!」
ゼフィロスの翡翠の鎧が、ロアの放つ遠隔修復の衝撃をまともに受け、ひび割れていく。距離で逃げることができない。彼がどんなに空間を歪めても、ロアの槌は歪む前の空間そのものを直してしまうのだ。
「ノエル、今だよ! 一緒に、この空を直そう!!」
ロアが空中で制止し、ノエルへと手を差し出した。
「ええ、分かったわ! これが、あたしたちの風よ!!」
ノエルが、地に突き刺したままの杖を抜き放ち、ロアの翡翠の光に重なるように、極大の嵐を召喚した。
ロアの正常な空間と、ノエルの支配する魔力。
二つの力が一つに溶け合い、翠風の牢獄を内側から食い破る、一筋の巨大な光の柱が天を貫いた。
「……あ、りえん……。私が、私が構築した完璧な理が……書き換えられていく……。……ガレン……貴様は、まだ、私たちを否定し続けるというのか……!!」
ゼフィロスの叫び声が、眩い光の中に消えていく。球体牢獄が砕け散り、天空に再び、澄み切った翡翠色の夜明けが訪れようとしていた。
(第79話 終わり)




