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第75話 翠の管理者、暴かれた翼の記憶

「……ノエル、すごいや! 風が、止まった!」  


 ロアが、聖葬槌を肩に担ぎ直しながらノエルに駆け寄った。


 ノエルの周囲に展開されていた純白のオーラが、ゆっくりと収束していく。彼女が上書きした正常な空間のおかげで、空中を翻弄されていた巡礼者たちは次々と岩礁に叩きつけられ、活動を停止していた。


「……ハァ、ハァ……。あたし、何をしたの……?」  


 ノエルは、杖を握る自分の手を見つめて震えていた。魔力を吸い取られる苦痛が消え、代わりに、この塔の隅々まで自分の神経が繋がっているような、奇妙で巨大な全能感が彼女を包み込んでいた。


「……素晴らしい。……管理者権限のオーバーライドを確認。……だが、それは禁忌に触れる行為だ」


 突如として、100メートルほど上空の雲が渦を巻き、一つの巨大な巨大な目のような紋章が空に浮かび上がった。直後、その紋章が眩い光を放ち、一人の男が静かにロアたちの前へと降り立った。


 深い翠色の法衣を纏い、背中には巡礼者たちとは比較にならないほど巨大で美しい、翡翠ひすいの翼を持つ男。


  「……私は『翠風の塔』の管理者、ゼフィロス。……汚れた地を歩む者たちよ、そこなる翼なき同胞をどこで手に入れた?」


「……翼なき、同胞?」  


 ラグが、ノエルを庇うように前に出た。


「ノエルのことか!? こいつは俺たちの仲間だ。どこで手に入れたなんて、品物みたいな言い方してんじゃねえぞ!」


「……滑稽だな。……その娘の体内を流れる管理コードは、1000年以上前にこの塔から追放された『天空の民』……ガレンによって選別された純正種のものだ」


 ゼフィロスの言葉に、一行に衝撃が走った。


「……爺ちゃんの、純正種……?」  


 ロアが、思わず呟く。


「……あいつは、あたしの何を知ってるの?」  


 ノエルが、掠れた声でゼフィロスを糾弾した。


「……教えてやろう。お前はこの塔の演算コアとして作られた、生体プログラムの末裔だ。……かつてガレンは、塔の理を完全に制御するため、自らの血肉を分け与えた試験体を作り出した。……それが、お前の祖先だ」


 ゼフィロスの瞳が、冷酷な光を湛える。


「……翼を失い、地上へと捨てられた失敗作。……だがその潜在的なアクセス権限だけは、今も翠風の塔を狂わせる鍵として内包されている。……お前がここにいるだけで、風の理はさらに混沌へと加速するのだ」


「……デタラメを言うな、管理者。……ノエルは独立した個体だ。お前たちのシステムの一部ではない」  


 シオンが珍しく感情を剥き出しにして、ゼフィロスにハッキングを仕掛けた。


「……黙れ、下位の管理ソフトめ。……この娘は『回収』されるべき資産だ。……さあ、還ってこい。自らの使命、空の一部へと戻るのだ」


 ゼフィロスが翡翠の翼を大きく広げると、周囲の距離が、先ほどとは比較にならないほど劇的に書き換えられた。


 ――10秒。  ロアたちがまばたきをする間もなかった。ゼフィロスの姿が、ロアの鼻先まで瞬時に移動していた。


「……まずは、そのお掃除槌という不快なイレギュラーから排除しようか」  


 翡翠の剣が、ロアの聖葬槌を真っ向から両断せんと振り下ろされた。


(第75話 終わり)


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