表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/126

第74話 虚空の距離、翼なき者の足掻き

「……くそっ! 届かない!!」  


 ロアが、浮遊岩の端から聖葬槌を振り回すが、巡礼者たちは嘲笑うように距離を取って空を舞う。


 そこには、地上の物理法則ではありえない距離の剥離が存在していた。

 1メートルに見える距離が、踏み出せば10メートルにも感じられ、逆に遠く離れているはずの巡礼者の矢が、放たれた瞬間にロアの喉元へと到達する。  


 翠風の塔が制御する距離と質量の理が、侵入者であるロアたちに牙を剥いていた。


「シオン! あいつら、ワープしてるの!?」


「……否。ワープではない。……ターゲットの周辺だけ、空間の密度が書き換えられている。……奴らにとっては1歩の距離が、こちらにとっては100歩に等しい。……極めて悪質なハッキングだ」


「――浄化の風に消えよ、地を這う者共!」  


 巡礼者が放った断裂の矢が、空気を引き裂きながらノエルへと殺到する。


「ノエル、危ないッ!!」  


 武器のないラグが、その巨躯を挺してノエルの前に立ち塞がった。


  「……ノエル! さっきの空気の壁だ! もっと厚く、もっと重く張れ!!」


「……っ、無理よ……! 魔力を吸い取られるスピードが……追いつかない……ッ!!」


 ノエルの持つ杖が、翠色の風に晒されて激しく火花を散らす。彼女の蒼い魔力は、この領域を支配する翠風の管理者権限に飲み込まれ、彼女自身の制御を離れて霧散していく。


 その時。  ノエルの視界が、一瞬だけ白く塗り替えられた。


(……聞こえる。……遠い、空の上の、巨大な歯車の回転音が……)


 それは、シオンの解析したデータでも、ラグの感じる物理的な圧力でもない。ノエルの血の中に眠る、この世界がプログラムとして構築される以前から、空を司ってきた者たちの記憶。


(……吸い取られているんじゃない。……あたしを、呼んでるんだ)


「……ロア、ラグ! ……あたしから離れないで!!」  


 ノエルが、唐突に叫び声を上げた。  彼女は消耗しきった瞳を見開き、杖を捨てるように地面へと突き刺した。


「ノエル!? 杖を放してどうするんだ!」


「……杖なんて、いらない。……あたしが、この風の『核』になるから!!」


 ノエルの全身から、これまでの蒼い魔力とは異なる、透明に近い純白のオーラが溢れ出した。  その瞬間。  周囲を支配していた翠色の風が、まるで主を認めたかのようにピタリと静止した。


「……何ッ!? 理の書き換え……? そんな馬鹿な!!」  


 空中を舞っていた巡礼者たちが、突如として質量を失ったかのように空中で翻弄され始めた。  ノエルが「距離」の理を無意識に上書きし、自分たちの周囲3メートルだけを、外部の歪みから切り離したのだ。


「……信じられん。……管理者権限を通さず、純粋なオリジナル・コードでパッチを当てただと……?」  


 シオンの声が、驚愕に震える。


「……今だよ、みんな!! 距離が、戻ってる!!」


「よっしゃぁぁぁぁ!! よくやった、お嬢!!」


 ラグが、自分たちを拒んでいた空間の壁が消えたことを察知し、地面を蹴った。空中を漂う浮遊岩を足場にし、一気に巡礼者の一体へと肉薄する。武器のない拳。だが、そこにノエルの魔力が纏わりつき、風の刃となってラグの拳を巨大な破壊の塊へと変えていた。


「ロア!! トドメだ!!」


「……うんっ!!」


 ロアが、ラグの肩を踏み台にしてさらに高く跳躍する。

 ノエルの切り拓いたまっすぐな距離を通り抜け、聖葬槌が動揺する巡礼者の眉間へと振り下ろされた。


(第74話 終わり)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ