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第67話 紅き鼓動、火焔の修復者

「いっけぇぇぇ、ロアッ!!」  


 マグマの槍を一身に受け止め、火花を散らすナハトのシールド越しに、ラグの野太い咆哮が響いた。


「――お掃除、開始!!」  


 ロアが、ナハトの背中を蹴り飛ばすような勢いで前方へと跳躍した。

 その手にある聖葬槌は、シオンの送り込んだ火焔モード・パッチを受信し、これまでの青いクリスタルから一変――心臓の鼓動のように妖しく脈動する、鮮やかな紅い輝きを放っていた。


「……何ッ!?」  熱の使徒が、驚愕に顔を歪める。  


 ロアが踏み込んだその空間摂氏五千度を超える死の領域であるはずのそこが、ロアが近づく端から「急速に温度を下げて」いたからだ。


 ハンマーの紅い光が、周囲の熱量を貪欲に、暴力的なまでの速度で吸い取っている。

 大気は一瞬で白く凍りつきそうになり、直後、吸い取られた莫大な熱エネルギーが、聖葬槌のヘッド部分へと集束されていった。


「……熱力学・第二法則の強制書き換え完了! 熱を全て撃力に変換した! 叩き込め、ロア!」 


 シオンの勝ち誇ったような声が、通信を埋め尽くす。


「う、おおおおおおおおっ!!」  


 ロアが、紅く燃え盛る巨大な光の塊と化した槌を、使徒の胸元へと叩きつける。

 物理攻撃を溶かすはずの使徒の障壁が、逆に「自分の熱を奪われて」脆くひび割れた。


 ドガァァァァァァァァァァァァァン……ッ!!!!


 かつてないほど重厚な、空気を文字通り圧縮して破裂させたような衝撃音が地響きを立てた。

 使徒の岩漿の身体が、槌の重圧に耐えかねて真っ二つに裂け、数10メートル後方の岩山へと吹き飛んで激突した。


「……やった!?」  


 ノエルが、濛々と立ち込める蒸気の向こう側に視線を走らせる。


「……いや、まだだ。感触が軽かった」  


 ラグが、痛む右腕を庇いながらも、鋭い眼光で敵を見据えた。

 彼の予想通り、激突した岩山から、さらに巨大な熱量が溢れ出した。


「……ククク。ハハハハハ! 素晴らしい。実に素晴らしいぞ、不法滞在者共め」  


 岩山の中から、這い出してきたのはすでに人の形をしていない、巨大な炎の蛇のようなバグの塊だった。


「俺の理を逆手に取るとはな。だが、吸い取れる熱量にも限界はあるだろう?」  


 使徒の声が、要塞の四方八方から反響する。


「ここは火焔の要塞。世界の熱の40パーセントを管理するルートサーバーだ。供給源は無限にある!」


 使徒の言葉に合わせるように、辺り一帯の地面が再びドロドロに溶け出し、一行の足場を奪いに来る。  ロアの聖葬槌は、一度のフルブースト攻撃で紅い輝きを失い、冷却のための強制排熱プロセスに入り激しい蒸気を吹き上げながら沈黙してしまった。


「……コンマ2秒、冷却が遅い。ナハト、ロアを回収しろ!」 


 シオンの指示が飛ぶが、ナハトも先程のシールド展開による過負荷で、機械羽の片方が根元から折れ曲がっていた。


「……逃がさん。全員、灰になってガレンの礎となるがいい」  


 炎の蛇が鎌首をもたげ、要塞の全熱量を一点へと凝縮し始めた。

 一行は完全に囲まれ、袋のネズミの状態だった。


「……くそっ。……俺の手があれば」  


 ラグが、武器のない自分の拳を握りしめ、歯噛みする。

 物理的な暴力だけでは、この流動する溶岩を止めることはできない。


「ラグ、諦めないで!」  


 ロアが、動かなくなった槌を必死に抱えながら、ラグの顔を見上げた。


「武器がなくたって、ラグはラグだよ! 爺ちゃんだって言ってたもん、本物の職人は、道具が壊れた時こそ腕が鳴るって!」


「……腕が鳴る、だと?」  


 ラグが、ロアの真っ直ぐな瞳に、一瞬だけ射抜かれたように動きを止めた。


「そうだよ! あいつ、地面を溶かして僕たちの足を止めてるでしょ? なら、溶ける前に固めればいいんだよ!」


「ほう……面白い提案だな、ロア」 


 シオンのホログラムが、不敵な笑みを浮かべる。


「ノエル、最大威力の氷結魔法をラグに叩き込め。……ラグ、貴様のその無駄に頑丈な肉体を、一瞬だけ【絶対零度の冷却媒体】にする。耐えられるか?」


「……へっ。肉ごと溶かされるよりは、キンキンに冷えてる方がマシだぜ」  


 ラグが、ようやくいつもの不敵な笑みを取り戻し、一気に重心を低くした。


(第67話 終わり)


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