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番外編 ④ 修復された街と、小さな英雄の噂

いつもお読みいただきありがとうございます。 セレステ学園編、最後を締めくくる閑話です。 激闘の末に平和を取り戻した街の様子と、ノア一行のその後の評価、そして次なる目的地「機械都市・ゼニス」への旅立ちの予感を描きます。 彼らの冒険は、ここからまた新しい広がりを見せていきます。

 白紙化の悪夢から数日が経過した、学園都市セレステ。

 無惨に削り取られていたはずのメインストリートは、今は何事もなかったかのように柔らかな活気に満ちていた。石畳の一つ一つ、建物のレンガの隙間、立ち並ぶ街路樹の葉脈に至るまで、数日前の不条理な崩壊が嘘のように完璧な「元の姿」を取り戻している。


 行き交う人々もまた、自分が一度白紙として存在ごと消去されかけたことなどまったく覚えていないようだった。


「……信じられないわね。大規模な記憶の改竄(世界のロールバック)でも起きたのかしら」


 街角のオープンカフェ。フィオナ・ロックハート教授は、呆れたようにため息をつきながら、三杯目のブラックコーヒーを煽った。


 彼女の目の前には、相変わらず無表情で大きなショートケーキをつつくノエルと、左腕に痛々しい包帯を巻き、苦虫を噛み潰したような顔で高級な紅茶を睨みつけるアルゴスの姿があった。


「一般市民の認識の理が、白紙化の直前の状態に巻き戻っているようですね。……我々や、あの中枢で戦った一部の者を除いては」  アルゴスが、教授であるフィオナを立てるような、どこか慇懃いんぎんな口調で口を開く。


「それにしても……街中の魔素の流れが、かつてないほどにスムーズだ。以前我々を苦しめていた原因不明の頭痛や、魔法行使時の微妙な違和感ノイズが、街全体から完全に消え失せている」


「ええ。大黒柱の果てしない穢れ(バグ)が取り除かれたおかげよ。……あの子の、とんでもない『お掃除』のおかげでね」  ノエルが、ショートケーキのイチゴを銀のフォークで刺しながら、微かに誇らしげに口角を上げた。


 その時。隣の席に座っていた、二級魔導科の修練着を着た生徒たちの噂話が耳に入ってきた。


「……なぁ、聞いたか? こないだの夜、演習場での決闘の後……なんか、すっごく空気が澄んだ気がしないか?」


「ああ、わかる! ベルシュタインの雷神の衣が剥ぎ取られた瞬間、街中から重くるしい圧迫感が消えたんだよ! 俺も昨日、ずっと失敗してた火攻魔法が一発で成功したんだ」


「[IMAGE:ノアの勇姿]それにさ……最近、とんでもない噂が流れてるんだぜ。あの無敗の雷神アルゴスを、ちっぽけなハンマー一本で叩き伏せた新入生がいるって……」


「マジかよ!? それに、本家から来た処刑人ガウェインの理不尽な魔力さえ、その小僧が全部お掃除しちまったらしいぜ。今や、ベルシュタインの狂犬と氷の天才が、揃ってその小僧の仲間になってるって噂だぞ」


「ハンマーを持った名もなき新入生……。学園のルールを壊して世界を直した、小さな英雄か。……一度、拝んでおきたいな」


 生徒たちの会話は、次第にハンマーを持った小さな英雄の正体についての熱心な議論へと変わっていった。


「……ハッ。尾ひれがつきすぎるな。……教授、そうは思いませんか?」


 アルゴスが鼻を鳴らし、フィオナに視線を向ける。以前のような血の匂いのする殺気や、目上の者への不遜さは、今の彼にはなかった。


「でも、悪い気はしないんじゃない? 忌み嫌われる狂犬じゃなくて、街を救った英雄のひとりとして名前が挙がってるんだもの、アルゴス・フォン・ベルシュタイン君」


 フィオナが、生徒をからかうような教授特有の表情でニヤリと笑う。


「……茶化さないでください。私はこの学園を、そして救われたあいつ(リゼ)を護る義務がある。……あの小さき騎士に、これ以上の心配はかけられんからな」


 アルゴスが穏やかな視線を向けた先。  カフェの向かいにある美しい石畳の広場で、ノアがリゼと一緒に、のんきに笑いながら白鳩にパン屑をやっていた。  その腰には、世界を救ったというのにまったく驕る様子のない、使い古された小さなハンマーがちょこんと提げられている。


「……さあて。平和な休日はここまでよ。ガレンお爺ちゃんに手配を頼まれていた雪山装備の準備が完了したわ」


 ノエルがフォークを置き、大きなゴーグルをカチャリと掛け直した。


「私たちが向かう次の目的地は、ここから遙か北。一年中分厚い氷に閉ざされた鋼鉄の街機械都市・ゼニス。……ラグ、準備はいい?」


「おうよ! 道ならいくらでも切っ拓いてやる。大将とノエルお嬢さんの護衛は、この俺の剣に任せときな!」


 ラグが背負った大剣を鳴らし、豪快に立ち上がる。穏やかな日差しが降り注ぐ、修復されたばかりの美しい王都セレステ。アルゴスとフィオナ教授、そしてリゼは、広場で笑うノアたちの背中を、静かな祈りと共に見送っていた。


 小さな英雄と、彼を護る異端の仲間たちの旅は、まだ始まったばかりなのだ。


(番外編④終わり)



お読みいただきありがとうございます! アルゴスは学園の守護者としてフィオナ教授とリゼと共にセレステに残り、ノア、ノエル、ラグの3名で次なる大地へ。 番外編はいかがでしたでしょうか?


本編に戻ります。物語のギアが一段上がる次回からも、どうぞお楽しみください! 感想、ブクマ、評価、お待ちしております!

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