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番外編 ② ガレンの煙管(きせる)あのハンマーのルーツ

いつもお読みいただきありがとうございます。 今回は、ロアを育てた偏屈な爺ちゃん・ガレンの視点です。 山を降りた孫の活躍を、彼はどのように見ているのか。 そして、ロアが持つあの奇妙なお掃除道具の「本当のルーツ」が明かされます。

 ――クゥ、プハァッ、


 霊峰ガルドの中腹。標高三千メートルを超え、雲海を見下ろす岩棚の上に組まれた粗末な山小屋。  偏屈な老人・ガレンは、いつものように歪んだ切り株に腰掛け、古ぼけた鉄の煙管きせるをふかしていた。


 彼の眼下には、見渡す限りの完璧な自然――計算尽くされ、ノイズ一つない理想的なポリゴンで描かれたような樹海が広がっている。


 だが、彼の視線はその足元ではなく、遥か南の彼方。豆粒のように小さく見える王都のさらに奥、学園都市セレステの方向へ向けられていた。


「……やりおったな、阿呆め」  ガレンが紫煙を吐き出す。


 彼の目には、何百キロも離れたセレステの空が、一筋の巨大な青白い雷と、圧倒的な光柱によって物理的に切り裂かれるのが、はっきりと見えていた。


「雷神のベルシュタインのバグ……。数百年にわたり、血族に重圧を強いることで無理やりエラーを圧縮し、威力に変換してきた下劣な力。……それを、あの一撃で剥がしきりおったか」


 ――コツン、トントン、


 ガレンは目を細め、煙管の雁首をと切り株に叩きつけた。その顔には、彼がロアに決して見せなかった、苦味を含んだかすかな笑みが浮かんでいる。


「ロア。……お前は山を降りる日、私に問うたな。あの掃除ハンマーはどこで拾ったのか、と」


 ガレンの視線が、かつてロアが寝起きしていた小屋の一角をなぞる。


「拾ったのではない。……あれは、私が打ったのだ」


 彼は右手を裏返し、ゴツゴツとした無数の大火傷の痕を見つめた。


 それは魔獣によってつけられた傷でも、戦闘による傷でもない。  世界の「理」という名の絶対的なコード(設定データ)を、強引に熱し、曲げ、そして一筋の剥離の力を持つ道具へと鍛え上げる際に、システムから受けた「拒絶の火傷ペナルティ」の痕だった。


「この世界は、美しくも酷い『失敗作(ゴミ溜め)』だ。……作った奴は、きっと理想主義の馬鹿だったのだろう。理想の形を描くためだけに、中身のプログラムを継ぎ接ぎにし、耐えきれなくなったエラーを魔法などという便利な名目で生き物に押し付けた」


 ガレンが立ち上がり、山の冷たい風を胸いっぱいに吸い込む。


「あの馬鹿が命懸けで作ったこの偽物の世界(箱庭)には……お前のような、空の星の欠落バグを見て泣けるような、純粋な心を持った命が生まれた」


 ガレンの脳裏に、赤ん坊のロアを土くれの下から拾い上げた日の記憶が蘇る。

 その時のロアは、エラーの雷に焼かれ、体の半分がノイズに侵されて消えかかっていた。ガレンは、自らの魂(全魔力)との引き換えに、システムに干渉する禁忌の打撃道具……あのルーンハンマーを創り出し、赤子の表面にこびりついていた死のノイズを強引に削り落として、なんとかその命を繋ぎ止めたのだ。


「これ以上、システムに逆らって生きている者の痛みを増やしてたまるか。……だから、お前は掃除をしろ、ロア」


 ガレンの低い声が、山の静寂に溶けていく。


「世界の創り手の手抜き(魔法)を剥がし、隠された泥水(真実)を暴き出せ。……それをどう受け取るかは、あそこで喚いている無能な人間どもの勝手だが……」


 彼は再び切り株に腰を下ろし、新しい煙草の葉を詰めた。


「……お前が見つけた綺麗さが。いつか、あの馬鹿(神)をぶん殴って目を覚まさせることを、少しだけ期待しておくとするか」


 ガレンの吐き出した煙が、空の雲海に混じり、南の学園都市の方角へと静かに流れていった。


(番外編 ② 終わり)

お読みいただきありがとうございます! お掃除ハンマーに込められた、爺ちゃんの命とペナルティ。 ロアがなぜあんなにも「剥がす」ことが上手いのか、そのルーツは爺ちゃんの愛(と火傷)にありました。 次は、フィオナの研究室でロアが世界の「不完全な地図」を見る番外編です。


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