表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/71

第45話 剥がれない仮面、届かない鉄槌

いつもお読みいただきありがとうございます。 シオンの孤独に触れたロア。しかし、管理者の拒絶は想像を絶する「壁」となって立ち塞がります。 「お掃除」が通用しない絶望的な状況の中、ロアが叫んだ言葉とは――。 

 静寂が、音を立てて砕け散った。


 シオンの瞳に宿った火花が、空間の法則そのものを書き換えていく。

 真っ白だった床は、ノイズを撒き散らしながら漆黒のワイヤーフレームへと剥き出しになり、周囲のモニター群はロアたちを押し潰すための圧搾壁へと変貌した。


「……計算外だ。君の存在そのものが、私の最適化を汚染している」


 シオンが呟く。その声は、震える肩とは裏腹に、氷点下の冷徹さを取り戻していた。 彼は自分の心に生じたガレンへの思慕というバグを、今この瞬間、力任せに強制削除したのだ。


「うわっ、地面が消えてる! ナハト、ここ、すっごく足場が悪いよ!」


 ロアがふらつきながら叫ぶ。  ラグが咄嗟にロアの細い腕を掴み、背後の安全な階層へと引き寄せた。


「ロア、離れるな! こいつ、本気で世界ごと俺たちを消す気だぞ!」


「でもラグ! あのおっかない顔、止めてあげないと……。君、そんなに怒ったら、またホコリが溜まっちゃうよ!」


 ロアは必死にハンマーピッケルを構え直し、空間の歪みを縫ってシオンへと駆け出した。汚れがあれば剥げばいい。  拒絶があれば壊せばいい。それが、ロアがじいちゃんから教わった、たった一つの掃除のやり方だった。


「えいっ!」


 ロアが思い切り、シオンを守る光の膜へとピッケルを振り下ろす。    


――キンッ。


 あまりに頼りない、乾燥した音が響いた。


「……あれ?」


 ピッケルの刃は、シオンの数インチ手前で、見えない壁に弾かれた。剥ぎ取れない、火花すら散らない。そこにあるのは、汚れやバグといった付け足されたものではなく、世界そのものがそこにあることを拒んでいる真空の拒絶だった。


「お掃除……できない……?」


「……言ったはずだ。君の観測など、私の理の前では無力だと」


 シオンが冷たく見下ろす。彼の周囲には、もはや塵一つとして存在できない絶対隔離領域が展開されていた。ロアの特権――剥ぎ取りの力は、対象に触れることさえ許されない。


「無駄よ、ロア! 下がって!」


 ノエルが叫び、全魔力を込めた氷結魔法を放つが、それすらもシオンの領域に触れた瞬間にデータ不足として消失していく。


「……クソッ、こいつの処理速度、地上とは桁が違いすぎる!」


 ロアの肩から、ルカの悲鳴に近い声が漏れる。


「ロア、逃げろ! ゲートの接続が維持できねえ! このままじゃ全員、空間のゴミとして消去されちまうぞ!」


「やだ! 俺、まだあの子とお話してないもん!」


 ロアは歯を食いしばり、弾かれたピッケルを何度も壁に叩きつける、手が痺れる呼吸が荒くなる。  お腹が、きゅーっと空いてくるような、情けない感覚が込み上げてくる。


「君……そんなに一人でいたいなら、なんでそんなに悲しい顔してるのさ!」


「悲しくなどない。それは君の視覚モジュールが起こしている錯覚だ」


 シオンの表情は、完全に石像のように硬直していたが、その握りしめた白い拳が微かに、本当に微かに震えているのを、ロアの直感だけが捉えていた。


「嘘だ! 爺ちゃんの道具箱と同じ匂いがするんだよ! ずっと開けてもらえなくて、誰かに触ってほしいって、泣いてる匂いなんだ!」


「……黙れと言っているッ!!」


 空間が爆発した。  シオンの激情に呼応したコードが、光の奔流となってロアたちを呑み込む。


「撤退だ! 全員、俺に捕まれ!」


 ラグが咆哮し、ロアとノエルを両脇に抱え込んだ。ルカが強制転移のシーケンスを起動し、一行の姿が白光の中に溶けていく。


 意識が遠のく中。  ロアは、自分たちを消し去ろうとする奔流の向こう側で、ポツンと一人、王座に取り残されたシオンの姿を見た。モニターの光に照らされた、あまりに小さな、管理者の背中。


「待っててよ、シオン! 次は、もっと大きい雑巾……ううん、ピカピカに直す方法、見つけてくるからね――!!」


 転移の閃光が、すべての音を奪い去った。後には、再び静寂だけが支配する、冷たく白い聖域が残された。


 シオンは、一行が消えた空間をじっと見つめていた。  


「……直す、だと?」


 誰もいない空間で、彼は自分の指先を、不思議なものを見るように見つめる。そこには、完璧な管理者が持つはずのない、一筋の熱が、確かに残っていた。


(第45話 終わり)

お読みいただきありがとうございます! 真・宇宙編、第一章「星屑の迷宮」、ここに完結です! 圧倒的な管理者の力の前に、初めて「お掃除」が通用しなかったロア。 しかし、その去り際の言葉は、シオンの凍りついた心に確かな亀裂を残しました。


次回、第46話からは第二章「白き統制者の壁」がスタートします。 一度敗北し、撤退を余儀なくされたロアたちは、どのようにしてシオンに対抗する術を見つけるのか。 そして、シオンとナハトの関係に隠された、さらなる「エラー」とは。


物語のギアが一段上がる次章も、どうぞお楽しみください! 感想、ブクマ、評価、お待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ