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第40話 修復者の光と、初めて呼ばれた名前

いつもお読みいただきありがとうございます! ついにこの日を迎えました──ロアの「修復者(第2段階)」としての覚醒キービジュアル回です。 今まで叩いて消してきた力が、今日から「形を直す光」へと変わります。

 さほど大きなバグではなかった。


 星屑の海の中を泳ぐように移動していたロアたちの前に現れたのは、体長二メートルほどの「球形のバグ」だった。  滑らかな球面の表面に「0」と「1」の数字がびっしりと刻まれ、それが絶えず書き換わりながら、周囲の正常なコードを少しずつ汚染していく。


「……中くらいのサイズね。前のバグに比べたら大分マシだけど、放置したら増殖するわよ」


 ノエルが魔力感知で確認しながら言う。


「じゃあ僕がやる」  ロアが前に出た。


「消すの? それとも……」


「直してみる」


 ロアはハンマーピッケルを右手にしっかり握り直した。これまで千回以上使ってきた道具の、ピッケル側の先端。自分でも一度も真剣に使ったことのない部分。


 昨日(正確には休息時間)、小さなバグに試した感触が指先に残っていた。消えるのではなく広がる光。正しい形を探して刻むという感覚。


「……ちゃんとできるかな」


 無意識に漏れた一言。ノエルがそれを聞いていた。


「できるわよ」


「……なんで断言できるの」


「あなたが初めてできるかなって言ったから」


 ロアが振り返るとノエルが小さく笑っていた。


「いつも根拠もなくやってみるだったでしょ。そのあなたができるかなって言うなら、それは本当にやりたいことってことよ」


 ロアはしばらく彼女を見て、それから前に向いた。


「……そっか。じゃあやる」


 踏み込んだ。


 バグが気づいて反応する前に、ロアはピッケルの先端をバグの表面に静かに当てた。叩くのではなく、触れる。


 自分が知っているここが元々どんな輝きを持っていたかを探す。球形の表面の「0」と「1」の羅列の奥に、本来あった形が透けて見える気がした。


(……ここが歪んでる。もともとはこういう形だったはずだ)


 ピッケルが、まるで自分の意志を持つように動いた。一筆、二筆。

 バグの表面に正しいコードを「刻み直す」ように。


 ――チン。チン。チン。


 連続した澄んだ音が鳴り響く。音のたびに、バグの表面から0と1の歪んだ羅列が消え、代わりに温かいオレンジ色の光の粒子が広がっていく。


 それは消えるのではなかった。広がりながら形を保ち、周囲の正常なコードと溶け合っていく。


 ラグが思わず大剣から手を放して、その光景を見た。

 ノエルが息を呑む。

 ナハトが計測する言葉を忘れて、ただ見ていた。


 三十秒ほどかかった。球形のバグが完全に光の粒子に変わり、周囲の星屑の海に溶け込んで、跡形もなく消えた。


 消えたのではない。元に戻ったのだ。


「……終わった」


 ロアが手を下ろした。ピッケルの先端からオレンジの光がほんのりと尾を引いている。


 しばらく、誰も何も言わなかった。


「……ロア」  ノエルが最初に口を開いた。声が、少し震えていた。


「今のって……」


「直せた」  ロアが、驚いたような顔で自分の手のひらを見た。


「消えたんじゃなくて、元のコードに戻った。ちゃんとそこにあったものが、正しい形で戻った」


「……信じられない」


「僕も」


 二人が顔を見合わせて、それからロアが笑い出した。

 声を上げて、屈託なく笑った。  この暗い星屑の海の中で、こんなに大きく笑うのは初めてかもしれなかった。


「できた! ほんとにできた!!」


 ルカくん2号が激しくレンズを点滅させた。


「ロア! 今のデータ、モニターに全部記録した! バグが消えたんじゃなくて、本当に元のコードに変換されてる! 俺のスキャナーが修復完了って出した!」


「修復完了って!?」


「お前のハンマーピッケル、設計思想が変わったんだ。剥ぎ取るだけじゃなくて、再構成リコンストラクトの動作が追加されてる!」


 ナハトが、静かに一歩前に出た。


「……一つ、確認させてください」


 ロアが振り返る。ナハトが、これまで聞いたことなかったトーンで言った。


「あなたは今、あのバグを直したと言った。しかし、あのバグには元々の形があったはずです。それをあなたはどうやって知ったのですか?」


「えっと……見えた、かな。なんとなく、こういう形だったんじゃないかって」


「……感覚で?」


「うん」


 ナハトが短く黙った。そして今まで聞いたことのない言葉を発した。


「……すごいですね」


「え、ナハトがすごいって言った!?」


 ラグが素っ頓狂な声を上げる。


「一度だけです。繰り返しません」


 ナハトがそっぽを向いた。そしてその顔が、ほんの少しだけ本当に微かに──柔らかかった。


 ロアはそれを見て、また笑った。


「……ナハトが褒めてくれるなんて、爺ちゃんに言いたいな」


 言ってから、少しだけ目を細めた。  


(第40話 終わり)

ロアの「修復者リペアラー」としての覚醒回、いかがでしたでしょうか! 消えるのではなく広がる光。バグが元のコードに「戻る」という、これまでとは全く違う剥離の形が描けました。


そしてナハトが初めて「すごいですね」と言う、そのギャップも楽しんでいただけたら嬉しいです。


次回からは修復の力を使ったロアが、いよいよシオンへの再挑戦に向けて動き始めます! 引き続き**【ブックマーク登録】や【ポイント評価】**でのご支援、よろしくお願いします!

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