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第39話 じいちゃんの言葉の、続き

いつもお読みいただきありがとうございます! 今回はロアにとって大切な転換点です。「消す」ことと「直す」ことの違い──それをロアが初めて、本当の意味で腑に落とすシーンを描きます。

 休息時間が明けた後、ロアはずっと黙って何かを考えていた。


 珍しいことだった。普段のロアは何でも見たまま感じたままを口に出してしまって、考えながら動くということをほとんどしない。  それが今日は、ハンマーピッケルを両手に持ったまま、古びたメモを膝の上に広げて、しばらくじっとしている。


「……やっぱり変だわ、ロアが静かって」


 ノエルが紅茶の代わりに温めたデータウォーター真・宇宙で生成できる無味の液体を口に含みながら、のんびりと言った。


「考えることがあって」


「珍しい」


 ロアはムッとしたが、否定はしなかった。


「……爺ちゃんがさ、よく言ってたことがあるんだよ」


 ノエルが「ん?」と耳を傾ける。


「掃除は、汚れを落とすことじゃない。元の形に直すことだって。小さい頃から百回は聞いた」


「……それって?」


「でも僕ずっと勘違いしてたんだ、たぶん」


 ロアはメモをそっとたたんだ。幼い頃の自分の筆跡で「じいちゃんのいったこと」とだけ書いてあるメモ帳の切れ端。インクが滲んでいる。書いた日に泣いていたのかもしれない。


「汚れを見つけたら叩けばいい、って思ってた。叩いて剥がせれば、そこで終わり。それが僕の仕事だって。でも……」


 ロアがハンマーピッケルのピッケル側を見た。これまでほとんど使ったことのない部分。ハンマーで叩くのがロアのやり方だったから。


「……元の形に直すって、消すとは全然違う」


 ノエルが静かに頷く。


「消したら、消えちゃう。そこに何もなかったことになる。でも直すって、その形があったことを認めた上で、正しい形に戻してあげることじゃないかな」


「……シオンのこと、考えてる?」


「うん。シオンって、たぶん汚れてるんじゃないよ。傷ついてるんだと思う。誰かのせいで歪んだんじゃなくて、誰かを守りたくて、どんどん形がずれていったんだ」


 ノエルが静かに息を吐いた。  彼女はかつて理の頂点(筆頭魔術師)として、世界を正しい形と間違った形に分けて考えていた。間違った方を排除すれば、世界は美しくなると思っていた。


「……あなた、ずっとこういうことを感覚でやってきたのね」


「感覚?」


「論理や計算じゃなくて、ただこれは汚れてる、これは傷ついてるって分かるじゃない、あなた」


 ロアが首を傾ける。


「まあ……なんとなく、見えるんだよね。汚れって輝き方がちょっと変なんだ。本来の輝きじゃない感じがする」


「それはあなたの特権じゃなくて、あなた自身の目なのかもしれない」


 ロアがきょとんとした。


「……爺ちゃんも、そういう目で世界を見てたんじゃないかな」


 その言葉を反芻しながら、ロアはハンマーピッケルを構えた。ターゲットは、近くの星屑コードにしがみついている小さなバグの塊。バグの塊は周囲のデータを少しずつ歪め、輝きを濁らせている。


 いつもなら迷わずハンマーで叩き消していた。  でも今日は違う。


「……元の輝き方、どんなだっけ」


 ロアはハンマーピッケルをゆっくりと構え直し、今度はピッケル側の尖端を、バグに向けて優しく当てた。  叩くはなく、刻むイメージ。歪んだ輝きの形を確かめながら、正しい軌跡を探すように。


 ――チン。


 これまでと全く違う、澄んだ音がした。


 黄金の光が、消えるのではなく広がった。温かいオレンジ色を帯びながら、バグの歪んだ輝きの形を包み込み、少しずつ、正しい形に刻み直していく。


「……あ」


 ロアが息を呑んだ。


 バグが消えたのではなかった。バグが元のコードに戻っていた。正常に輝く星屑の粒として、周囲の海に溶け込んでいった。


「ロア……!」  ノエルが目を見開く。


「直った」


 ロアが信じられないように自分のハンマーピッケルを見下ろした。ピッケルの先端から、まだオレンジ色の粒子がほんのりと漂っている。


「直った!!」


 ロアの満面の笑みが、暗い星屑の海を一瞬だけ明るく照らした。


 少し離れた場所で、ナハトが一人でその様子を観測していた。観測プログラムとして何かを記録するはずだったが、彼女の演算の一部が、その場面を記録の形式ではなく別の何かとして保存した。


 その過程で、ナハトは初めて観測対象を見て、自分の処理速度が一時的に落ちたことに気づいた。


(……これが、感情というものか)


 ナハトは小さくそう演算した。それが何の感情なのかは、まだ表現できなかった。


(第39話 終わり)

「消すのではなく、直す」──ロアが初めて「修復(第2段階への道)」の片鱗を見せました!! そして今回、ナハトが初めて「自分が感情を持っているかもしれない」と認識する瞬間も描けました。


次回はいよいよ、修復の力が本格的に目覚めるキービジュアル回です。 応援の**【ブックマーク登録】や【ポイント評価】**をいただけると、とても励みになります!

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