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第38話 ナハトの言葉と、見えていたもの

いつもお読みいただきありがとうございます! 今回は真・宇宙の奥で、ナハトがロアに重大な告白をするシーンです。 「あなたは消せない」という言葉の真意はどこに……?

 シオンの支配域から引き下がったロアたちは、星屑の海の端――システムデータの濃度が薄くなる外周部まで退いて、息をついていた。


 ラグが大剣を傍らに寝かせ、とっくに固まって食えたものじゃない乾パンを無言でかじっている。ノエルは消耗した魔力を取り戻すために目を閉じて座っている。


 そのなかで、ロアは一人でルカくん2号と向き合っていた。ルカくん2号の通信レンズがチカチカと点滅し、ルカの声が低めのノイズと一緒に届いてくる。


「……そっちの状況、こっちのモニターで全部見てた。ロア、お前が殴っても通じなかった瞬間、俺も一緒にどうしようかと思ったぞ」


「そっか。ルカも見てたんだね」


「当たり前だろ。お前がいなくなったら、2号の本体(俺)ごと帰ってくるからな」


「うん。……でも、いいもの見えたよ」


「あ? いいもの?」


「シオンがさ、俺を見たとき、一瞬だけ動きが止まった。ルカも気づいてたでしょ?2号のモニターで」


 沈黙。


「……まあ、データ的には確かにあったな。コンマ零点何秒の処理停止。俺のモニター上じゃ一瞬だけシオンの出力値がゼロになったのを拾ってる」


「ゼロって、感情と同じ反応じゃないの?」


「そりゃまあ……そうかもしれないが、それが何を意味するかは......」


「それが汚れたとこだよ。シオンの一番痛いところ。だから俺が直せる」


 ルカくん2号がしばらく黙った。レンズがゆっくり二回点滅する。


「……お前って、ほんとに変なヤツだよな」


「ほめてくれてありがとう」



 その夜(正確には真・宇宙に夜はないが、ロアたちが設定した休息時間)。


 ノエルとラグが眠ったあと、ロアが一人壁に背を預けていると、ナハトが近づいてきた。

 声もなく、気配もなく、ただ気がついたら隣に立っている。相変わらずの無機質な存在感。


「……ロア」


「なに、ナハト」


「……少し、話があります」


 ロアが顔を向けると、ナハトが真正面を向いたまま、いつもより少しだけ声のトーンを落として口を開いた。


「私はシオン側のプログラムとして、あなた方をコアへ誘導するための役割を担っています」


「うん、知ってたよ。なんとなく」 「……知っていましたか」


 ナハトが眼をパチリとさせる。初めて驚きに近い動作をした。


「シオンが最初にお前の誘導のおかげって言ったから」


「……それは見落としていました」


 ナハトが静かに瞑目する。


「ただ、一つ訂正があります。私はシオンの完全な拡張プログラムではありません。私を設計したのは……正確には、シオンではなかった」


「誰が設計したの?」


「……分かりません。それも観測できていない事実の一つです。ただ、私の行動原理の根幹に、シオンの命令系統では説明のつかない優先事項が組み込まれています」


 ロアが首を傾けた。


「その優先事項って、何?」


 ナハトが少し間を置いた。


「……あなたを守ること、です」


 ロアが目を丸くする。


「いや、どういうこと? シオンは僕を消したがってるんじゃないの?」


「はい。ですが私のシステムは、命令に逆らってでもあなたを守れという行動原理を持っています。それ自体が矛盾です。私は何度もシオンに従おうとチャレンジしましたが、毎回チャレンジが失敗します」


「この星空(真・宇宙)での迷路に迷い込みそうになったとき、ナハトが助けてくれたのも」


「はい」


「バグの引力で動けなくなったとき、ナハトが一人でかき分けてくれたのも」


「はい」


 ロアはしばらく星屑の光を見上げた。


「……じゃあ、ナハトは最初から俺たちの味方だったんだね」


「……私は、そのように表現できません。私は自分の行動原理を選んでいません。ただ……」


 ナハトがほんの少し間を置いた。


「ただ、それを悪いとは思っていないと、今は言えます」


 ロアがにっこり笑った。


「ありがとう、ナハト。正直に話してくれて」


 ナハトはその表情に対して何も返さなかった。ただ目を細めて、ロアから少しだけ顔を背けた。  プログラムの動作としては、過剰な入出力を処理するために視線を逃がす。  けれどその何かは、そういう言葉では片付けられないものに少しずつ変わりつつあった。


「……一つだけ、教えてください」


 ナハトが静かに続ける。


「あなたは、シオンを……どうするつもりですか」


 ロアは即座に答えた。


「お掃除する」


「……消す、ということですか」


「違うよ。さっき言ったじゃん。消すんじゃなくて、直す」


 ナハトが黙った。


「シオンの中の一番痛いところ、直してあげたいな。なんか……すごく長い間、一人で怖かったんだと思うし」


 ナハトの処理回路が、わずかに引っかかった。  


「一人で怖かった」


 それは、シオンだけに当てはまる言葉ではなかったから。


「……それは、できますか」


「わかんない。でもやってみる」


 ロアはそう言って、ゴロンと床に横になった。


「ナハトも寝ないと」


「私はプログラムなので......」


 長い間があった後、ナハトはロアの隣に、静かに腰を下ろした。


(第38話 終わり)

ナハトがついに「自分の行動原理の矛盾」をロアに告白しました。 「守れという命令がどこから来たのか分からない」──これがいつか回収される伏線になっています。


次回は「消すじゃなくて直す」という発想の転換を、ロアが改めて実感するシーンです。 じいちゃんの言葉の真意がいよいよ近づいてきます!


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