表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/72

第36話 初めての壁と、お掃除の続き

いつもお読みいただきありがとうございます! 前回は管理者・シオンとついに対面したロアたち。 そして今回、ロアのハンマーピッケルが「初めて通じない」──その瞬間を描きます。

 真・宇宙の中枢前。

 白銀の翼を広げた管理者・シオンが、まるで静止した彫刻のような完璧な姿勢で中空に立っていた、         周囲の星屑データコードが彼を中心に整然と回転し、まるでそれ自体が彼への服従を示すかのように、乱れた波長ひとつなく整列している。


「……削除を実行する」


 シオンの右手から放たれた初期化の光が、ロアに向かって一直線に伸びた。


「ふっ!」


 ロアは瞬時に右へ跳び退き、光の軌跡をかわした。着地と同時に、腰に提げたハンマーピッケルを右手でひっつかんで構える。


「お兄ちゃん……じゃなかった、シオン! ちゃんとお話しようよ! 絶対お掃除できるから!」


「……会話は非効率だ。あなた方の存在を消去する方が、処理速度が上がる」


 シオンの声に感情の起伏はない。まるで天気を読み上げるような平坦さで、ただ結論だけが語られる。それでもロアは首を傾けた。


(……おかしいな。シオンって、最初に俺のことを見たとき、一瞬だけ何かがあった気がしたんだけど……)


『ロア! くっちゃべってる場合じゃねえ、動け!』


 今にも途切れそうなノイズ混じりの音で、ルカくん2号から声が飛んだ。次の瞬間、ロアの立っていた場所が無音のまま消滅した。シオンが指先一つで空間ごと削除したのだ。


「ッ!」  反射的に横転してかわしたロアが、今度こそ距離を詰める。


 腕を引いて、ハンマーピッケルを渾身の力でシオンの右腕に振り下ろした。


 ――ガッ!!


 手に伝わる感触が、これまでと全く違った。  バグの壁を叩いたときのような硬い質感ではなく、まるで大気を殴ったような空振り感。目に見えてはシオンの腕に当たっているのに、ハンマーピッケルがシオンを認識していないかのように、光の矢がスルリと抜けてしまったのだ。


「……何?」  ロアが呆然と自分の武器を見下ろす。


「理解できないか」  シオンが静かに口を開いた。


「私は削除の特権を持つ。これは、あなたの特権である剥離と同質の上位干渉権。同格の特権は、互いに干渉不能なのが原則だ」


「……上位干渉権?」


「簡単に言えば、あなたの力は私には通じない。私の力もまた、あなたを完全には消せない。……恐らく、意図的にそう設計されているのだろうな」


 シオンが、ほんの一瞬だけ、視線をロアから外した。その方向の先には何もない。ただの暗い星屑の海。  だがロアには、シオンが何かを思い出してから視線を戻したように見えた。


(……やっぱり、なんか変だ)


「ならさ! 俺はどうしたらいいの?」


 ロアが、落ち込んだ様子を一切見せないまま、元気よくシオンに問い返した。


「……は?」  シオンの眉が、ほんの一分だけ動く。


「だって通じないなら、通じる方法を教えてくれる?」


「……何を言っている。教えてどうする」


「そりゃあ、お掃除するに決まってるじゃん!」


 シオンの動きが、コンマ数秒の間だけ止まった。非常に短い停止。プログラムの処理落ち。目ざとくそれに気づいたのは、ロアの肩の上のルカくん2号だけだった。


「……おい、今のシオンのデータ出力、一瞬だけ0になったぞ。何だ……?」


 シオンはすぐに排除動作を再開した。今度はさらに速い。連続した削除の光の束が、ロアの足元から空間ごと切り取っていく。


「後退!」  ナハトがロアの手を引いて一気に引き下がらせる。絡み合う「削除の光」をギリギリでかわしながら、三人は中枢の扉から引き離されていった。


「……っく! 追ってくる!」


「距離を稼いでください。シオンは中枢コアから一定距離以上は自律的に離れられない。その範囲から出れば追跡は止まります」


「なんでそんなこと知ってるの?」


「……観測してきましたから」


 ナハトの目が、一瞬細くなった。何かを言いかけて、止めた。


 そのまま三人は全力で星屑の海を駆け抜け、シオンの支配領域を脱した。


 安全が確保できた頃、ロアは足を止めてハンマーピッケルを見つめた。



「……通じなかったなあ」


「珍しいね、ロアが落ち込んでる」


 ラグが嘆息をつきながら、血も出ていない傷(データの欠損)を肩のあたりで確認する。


「落ち込んでないよ! ただ考えてる!」


 ロアは細い眉をきゅっとしかめた。


「シオン、悪い人じゃないと思うんだよね。なんか……すっごくつらそうだった」


「……つらそう、ね。あの氷みたいな目のドコが?」


「うまく言えないけど……誰かを探してるみたいな顔してた。俺が知ってる顔と、似てた気がした」


 ロアはそう言いながら、自分のリュックサックから古びてこびりついた汚れのついた小さなメモを取り出した。幼い頃にガレン爺さんから受け取った、たった一枚の紙切れ。


「じいちゃんがさ、いっつも言ってたんだよね。『お掃除は、汚れを落とすことじゃない』って」


「ロア……」ルカくん2号が小さく呼んだ。


「うん。なんか今日はじめて、その意味がわかりそうな気がしてきた」


 ハンマーピッケルが、ほんの少しだけ、これまでとは違う温かみを帯びて光った。消える金色ではなく、もっとゆっくりと、形を保ちながら。


 ロアはメモを丁寧にたたんでしまい、もう一度中枢コアの方向を見た。


「もう一回行こ。今度は消さないで、直してみる」


(第36話 終わり)

ついにロアのハンマーピッケルが「通じない壁」にぶつかりました! そして今回初めて、シオンの「処理停止(感情エラー)」が描写されています。 ルカくん2号がそれを検出した──さて、これが何を意味するのか……?


消すだけじゃない「お掃除の続き」が、次回からいよいよ始まります! 少しでも面白いと思っていただけましたら、【ブックマーク登録】や【ポイント評価】で応援いただけると大変励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ