第35話 中枢(コア)の大扉と、白き統制者
いつもお読みいただきありがとうございます! 真・宇宙の最深部、ついに世界の理のすべてが格納された第0領域の扉へ到達します。 そこでロアたちを待っていた「真っ白な管理者」とは……?
ノエルの放った絶対業火によって凍結システムが崩壊し、ロアたちはついに真・宇宙の最深部へと到達した。
そこは、星屑の海の中で唯一、完全に無音の閉鎖空間だった。宙に浮く巨大な白銀の扉。それが、世界の理のすべてが格納されている場所――第0領域への入り口だった。
「……着いたね。ここを綺麗にお掃除すれば、世界が元通りになるんでしょ?」
ロアが黄金のハンマーピッケルを右手に提げ、大扉を見上げる。その後ろでは、ノエルを背負ったラグが警戒するように周囲を睨みつけていた。
――扉を開けさせてはならない。
ナハトがロアの前に立とうとした、その直前。巨大な白銀の扉の前に、一枚の真っ白な羽根が舞い落ちた。
羽根が床のガラスに触れた瞬間、空間そのものが波紋のように揺らぎ、そこから一人の青年が音もなく現れた。完璧に左右対称の、隙のない白装束。一切の感情を剥ぎ取られたような、透き通った白い瞳。その後ろには、機械仕掛けの天使のような6枚の白い光の翼が展開している。
「……管理者・シオン」
ナハトが、これまでで最も硬い声でその名を呼んだ。
「……ご苦労だった、観測補助プログラム・ナハト。君の誘導のおかげで、これ以上システムを損壊させることなく、ウィルス(彼ら)をこの閉鎖空間に誘導できた」
シオンと呼ばれた青年は、冷徹な視線をロアたちへと向けたまま、淡々と告げる。
「あんたが、この世界のてっぺんに踏ん反り返ってるボスってワケか。随分と白くて綺麗じゃねえか」
ラグが大剣を構え直す。
「……いいえ。私はボスなどという人間的な階級図には存在しない」
シオンは静かに翼を広げた。
「私は、ただシステムの正常稼働を維持するための規律そのもの。かつて、不完全な感情を持った人間たちを見限り、世界をコード化することで永遠の静寂へと導こうとした――ガレンと共にこのシステムを設計した者だ」
「おいノエル! ラグのおっさん! 気をつけろ!」
ロアの肩に乗った通信ドローン・ルカくん2号から、ルカの血相を変えた叫びが響く。
「そいつのデータ構造……これまでの防衛機構なんかと桁が違う! そいつ自身が、世界のルールそのものの塊だ!」
「……その通り。私は全情報の削除という特権を持つ」
シオンが右手を軽く掲げると、真・宇宙の空間そのものが歪み、ルカくん2号の通信が強制的にノイズの奥底へと遮断された。
「……ルカの声が切れた……」 ロアが眉をしかめる。
「君たちのように不規則な感情――バグによって動くデータは、もうこの世界には不要だ」
シオンの白い瞳がロアを捉える。
「ガレンは甘かった。彼はバグを温かさと呼び、システムの外へと逃げた。だが、不完全な温かさなど、いつか世界を自壊させるだけの熱病に過ぎない。君が持つ剥離の力も、いずれシステムを崩壊させる。だからここで、すべてを真っ白に初期化する」
シオンが無言で指を弾く。
――次の瞬間。
ラグが咄嗟に振り上げた大剣の刃が、空間ごと削り取られ、無音のまま消滅した。
「なっ……!?」
ラグが驚愕の声を上げる。斬られたのではない。世界からその部分のデータが存在しなかったことにされたのだ。
「無駄だ。私の削除は、防御も回避も不可能。物理的な破壊ではなく、存在証明の否定だからだ」
シオンが一歩、ロアへと近づく。
「……待ってよ」
ロアが、今まで見せたことのない、真剣な顔でシオンを見据えていた。
「お兄ちゃんのやってること、ちっとも綺麗じゃないよ。ただ全部見えなくして、なかったことにしてるだけじゃん。そんなの、ゴミを絨毯の下に隠してるのと同じだよ」
「……何?」 シオンの眉が、わずかにピクリと動いた。
「じいちゃんが言ってただろ?」
ロアはハンマーピッケルを両手でしっかりと握りしめる。
「掃除っていうのは、ただ全部壊して真っ白にすることじゃない。汚れたところだけを剥がして、元のみんなの温かい形に直すことだって!」
「……不合理なバグの妄言だ」
シオンが右手をロアへと突き出す。
「初期化を実行する」
シオンの手から放たれる、世界すべてを白紙に戻すための最高権限の光。
だが、その光がロアを包み込むより早く。
「――よぉぉぉぉしっ!!」
ロアは一切の恐怖もなく、純粋な掃除係としての誇りだけを胸に、真っ向からハンマーピッケルを振り抜いた。削除の光と、剥離の黄金の軌跡が、真・宇宙の中心で激突する。
(第35話終わり)
ついに姿を現した管理者・シオン。「すべてを白紙にする特権(削除)」に対して「汚れたところを直す特権(剥離)」が真っ向から激突します! 次回からも目が離せない展開が続きます。
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