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第34話 炎の灯台、理を焦がす熱

いつもお読みいただきありがとうございます! 真・宇宙の中枢手前で立ち塞がる「絶対零度」のシステム防衛機構。 無力と思われたゼニスの筆頭魔術師、ノエルの熱い魂の魔法が迸ります!

 ラグが叩き割ったバグの防壁の先。世界の大元を書き換えるための最深部中枢コアへの直結ルートは、皮肉なことに、これまでのどの場所よりも静かで、美しい空間だった。


 無数のデータコードが雪のように静かに降り積もり、足元のガラスのような床を真っ白に染め上げている。


「……寒い」


 ノエルが思わず両手で身を抱きしめた。吐く息が白く染まっている。防寒着など意味をなさない、骨の髄まで凍りつくような冷気。それは、かつてゼニスの地下で直面した凍結病――エラーエンジンがばら撒いていたものと全く同質の、システムによる強制終了の冷気だった。


「……中枢コアを守る最終防衛システムゼロ・フリーズ」  ナハトが無感情な声で、前方にそびえ立つ巨大なオブジェクトを見上げた。


 それは、空中に浮かぶ真っ白な氷の結晶のような巨大構造物だった。周囲の熱、音、そしてノエルの杖から零れる魔力すらもが、その結晶に吸い込まれるように消えていき、ただ絶対的な停止へと変換されていく。


「おい、ノエルお嬢様! 魔力出力が急激に低下してるぞ! このままだと、お前らの精神データごとエラーとして強制凍結フリーズされちまう!」


 ロアの肩に止まった「ルカくん2号」から、切羽詰まった声が飛ぶ。


「……あ、足が……動かない……」


 ノエルのブーツが、床から這い上がってきた白いノイズに覆われ、石のように固まっていた。隣ではラグも大剣を杖代わりにしているが、その表面にはすでに霜が降りている。


「うりゃっ!」


 ロアが元気よくハンマーピッケルを振り下ろし、ノエルの足元の氷を叩き割った。だが、一時的に剥離しても、空間そのものが絶対停止を強要しているため、すぐに新しい白いノイズが這い寄ってくる。


「……ロア……私たちに構わず、先に行きなさい」


 ノエルが、震える唇を噛み締めながら言った。


「私の魔法じゃ……この理の世界システムには干渉できない……っ。ここは、私が足止めするわ。だから、あなたは中枢へ……」


「ダメだよ!」


 ロアが、初めてはっきりと怒ったような顔をした。


「ノエルを置いて行ったら、お掃除が中途半端になっちゃう! みんなで、全部綺麗にするんだから!」


「……バカね、ほんとに。私は、戦力外なのに……」


 ノエルは、かつてセレステの至高の魔術師エリートとして君臨していた自分の傲慢さを思い出し、自嘲気味に笑った。  この真理の世界では、魔法なんて何の意味もないただの計算式だ。システム(防衛機構)に数式ごと上書きされれば、何も残らない。


 ――本当に、そうだろうか? ノエルの脳裏に、かつてこの理を敷いた神――ガレンの言葉が蘇った。 どんなに完璧にシステムを組んでも、汚れ(バグ)は蓄積する。人間たちの意思や、愛こそが、その汚れなのだと。


「……計算不能のノイズ」


 ノエルは、凍りついた両手で、自らの杖を強く握り直した。


「システムが予想できないほどの不純物(感情)を乗せれば……書き換えられる前に、熱を伝えることができる……!」


「ノエル……?」


「ルカ君!! 『ゼロ・フリーズ』の座標軸を、私の杖に全転送して!」


「おい、何する気だ!? これ以上の魔力展開は、お前の精神データそのものを焼き切るぞ!」


「いいから、やりなさい!! 私は、セレステの筆頭魔術師よ。ただ凍りついて終わるなんて、私の誇りが許さないの!!」


 ノエルの絶叫と共に、ルカくん2号のレンズが光り、彼女の視界に直接、巨大な結晶の急所(弱点コード)が浮かび上がった。


「システムが理解できないほどの、純粋で、非合理的な熱を……!!」


 ノエルの全身から、これまでにない規模の真紅の魔力が吹き上がった。

 それは緻密に計算された美しい魔法ではなかった。ただ、この無機質な世界に抗い、理不尽に怒り、仲間ロアたちの歩む道を照らしたいという、剥き出しの人間の魂の熱。


「……絶対業火スーパー・プロミネンス!!」


 ――ゴォォォォォォォォォォッッ!!!!


 杖の先から放たれたのは、太陽そのもののような巨大な炎の奔流。それはシステムの書き換え処理デリートを圧倒的な熱量で焼き焦がし、エラーコードの壁を突き破って、巨大な氷の結晶のど真ん中に突き刺さった。


「……対象の温度データ、急激に上昇。システムの処理能力を超過。……融解を開始します」


 ナハトの報告の直後。  ガラスが割れるような甲高い音と共に、空間を支配していた絶対停止の機能が崩壊し、白い雪のようなコードが、暖かい赤い光を帯びて霧散していった。


「やった……」  ノエルが力を使い果たし、膝から床へ崩れ落ちる。


「ノエルッ! すっごい! すっごくあったかい焚き火みたいだったよ!」


 ロアが駆け寄り、ノエルの体を力強く抱きしめた。


「……ふふ……。あなたなら、そう言うと……思ったわ……」


 ノエルは満足げに微笑み、そのまま気絶するようにロアの小さな胸に身を預けた。彼女の放った規格外の炎は、凍てつく空間に人間の熱という名の最大の道標ノイズを焼き込んでいた。


 ロアは抱きとめたノエルをそっとラグに預け、ハンマーピッケルを強く握り直して、視線を前へと向けた。  絶対零度の防壁を越えた先。ついに、真理の全てが格納された中枢コアの大扉が、その姿を現していた。


(第34話終わり)

計算された美しい魔法ではなく、ノエルの泥臭く純粋な「熱(感情)」こそが、絶対停止の無機質なシステムを打ち破りました。 そして次回、ついに中枢の扉で世界管理者と対峙します!


ノエルの熱意に打たれた方は、ぜひ**【ブックマーク登録】や【ポイント評価】**をしていただけますと大きな励みになります!

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