第33話 バグの引力と、重剣の道標
いつもお読みいただきありがとうございます! 今回はロアの道を切り拓く大剣使い・ラグの大立ち回りです。 バグで歪んだ空間の巨大な迷路に、彼はどう立ち向かうのか……?
地上の防衛戦が激化する中、真・宇宙の奥深くへと進むロアたちの足取りは、次第に重くなっていた。
「……うおっ! あぶねえ!」
ラグが咄嗟に身を屈める。彼が先ほどまで立っていた空間が、見えない刃に切り裂かれたようにズレて、星屑の海が奇妙なモザイク状に歪んだのだ。
「……空間の座標軸そのものが、エラーの蓄積でズレ始めているのよ」
ナハトが無機質な瞳で周囲の空間を分析しながら告げた。
「システム防衛機構は、異物である私たちを直接排除するだけでなく、この真・宇宙の構造自体を迷路のように再構築して、中枢への到達を物理的に阻害しようとしています」
「ナハトって姉ちゃんの言う通りだ!」
ノエルの肩を浮遊している「通信ドローン・ルカくん2号」から、ルカの焦った声が響く。
「こっちのモニターで見ても、お前らが進むべきルートのコードがグチャグチャにこんがらがってやがる! 見えない壁や、重力が逆転するバグの沼がそこら中に発生してるぞ!」
「ルカ君、それ直せないの!?」
ノエルが悲鳴を上げる。彼女の魔法は相変わらずこの空間では不正データとして吸い込まれてしまい、着弾すらままならない状態が続いていた。
『無茶言うな! これはただの機械の配線じゃねえ、世界の設計書そのもののバグだぞ! 俺にハッキング窓口の権限がなきゃ、どうにも……!』
「つまりは、迷路の壁が勝手に動いて、俺たちを閉じ込めようとしてるってことか」
ラグが、低く唸りながら立ち上がった。彼の眼前には、何千何万というコードが絡み合って形成された、向こう側が全く見えないバグの防壁がそびえ立っていた。
「……あのさあ、ラグのおじちゃん」
ロアが、ハンマーピッケルを片手に小首を傾げる。
「壁ってことはさ、壊しちゃえば通れるんじゃないの?」
「……ハッ! 違えねえ。俺もそう思ってたところだぜ、大将」
ラグは野獣のように獰猛に笑い、自らの身の丈ほどもある分厚い大剣を、両手で頭上に構えた。
「無駄よ」
ナハトが制止する。
「純粋な物理攻撃では、このバグの座標壁に計算上のダメージを与えることは不可能。あなたの剣は、ただデータの中を『すり抜ける』だけで終わる」
「チッ、すり抜けるってんなら……すり抜けられねえほど、ぶっとく、重くしてやるだけだろォ!!」
ラグは構えた大剣の刀身に、己の生命力たる闘気を極限まで注ぎ込んだ。これまで彼は、傭兵として誰かを殺すために剣を振るってきた。だが今、この一撃は違う。
――この小さな大将に、一番綺麗なお掃除をさせるための、ただの道標だ。
「オオオオオオオオオッッ!!」
咆哮と共に、ラグの規格外の腕力が爆発する。振り下ろされた大剣が、真・宇宙の暗闇に一騎の流星のような軌跡を描いた。
――ガァァァンッ!!
空気を切り裂く音ではない、鉄が鉄を叩く音でもない。
それは、世界を構成する理の壁を、純粋な物理的な質量の暴力によって、強引に叩き割った音だった。
「……なっ!?」
無感情なはずのナハトの瞳が、限界まで見開かれる。
「バグの防壁が……物理的な質量によって、強制切断された……? 計算外です。いくら規格外とはいえ、人間の限界を超えた出力……」
「……へっ、どうだ、システム野郎。人間の意地って奴は、数字じゃ測れねえんだよ!」
肩で息をしながら、ラグが豪快に笑う。彼の振るった一撃は、分厚いバグの防壁を文字通りモーゼの十戒のように真っ二つに叩き割り、その奥へと続く一本のまっすぐな道を切り開いていた。
「すげえ……! マジでやりやがった、あのおっさん! 壁のバグがあまりの物理エネルギーに処理落ちして、一時的に正常なルートが復元してるぞ!」
ルカくん2号から歓声が上がる。
「すごい! まっすぐな道だ! ありがとう、ラグ!」
ロアが満面の笑みで、ラグの分厚い手にハイタッチする。
「おうよ! 道ならいくらでも切っ拓いてやる。だから、あっちの奥で威張ってる一番デカいバグ野郎は――お前がしっかり掃除してこい、大将!」
「うんっ! 任せて!」
バグの壁が切り開かれた先には、ひときわ巨大な光の渦――システムの中枢が存在する最深部への門が、静かにその姿を現していた。
(第33話終わり)
空間の座標バグすら純粋な物理的質量で叩き割るという、ラグの規格外なシーンでした。 頼れる仲間に道を切り拓いてもらい、ロアはついに中枢への最深部へと進みます!
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