第32話 地上の異変と、結集する絆
いつもお読みいただきありがとうございます! 今回は視点が変わり、地上に残った仲間たちの奮闘です。 世界のバグが地上へ降り注ぐ中、アルゴスとルカが規格外の防衛戦を見せます!
ロアたちが世界の天井に横穴を開け、真・宇宙へと到達したその瞬間。
地上に残されていた二つの世界――魔法都市セレステと機械都市ゼニスの空に、同時に致命的な異変が走った。
「なんだ、あれ……! 空が、割れてるッ!?」
「空から、黒いノイズみたいなのが降ってくるぞ!」
セレステの王宮前広場。ゼニスの下層排気ダクト群。
場所は全く違えど、そこに暮らす人々が見上げた絶望の光景は同じだった。
かつて本物だと信じていた青空の表面に、巨大な亀裂のような黒いノイズが走り、そこからドロドロとしたタールのようなバグの塊が、雨のように地上へと降り注ぎ始めたのだ。
空の向こう側に侵入したロアたち(イレギュラー)を排除するための防衛プログラムが、自らが守るべき隔離施設(地上世界)にまで漏れ出している――明らかなシステムエラーの暴走であった。
「……キャァァァッ!!」 セレステの街角で、逃げ遅れた少女に狼型のバグが襲いかかる。
――ズドォォンッ!!
だが、その鋭い牙が少女に届くより早く、真横から凄まじい大質量が黒いバグを吹き飛ばした。 濛々と舞い上がる砂埃の中から、一際巨大な重装甲に身を包んだ戦士が、鈍く光る大剣を肩に担いで立ち上がる。
「チッ……。俺としたことが、あいつの背中を見失って、こんな地上で泥水すすることになるとはな」
「……文句を言わないの。ロア……いえ、『特権持ち』が神々の玉座をひっくり返すまで、私たちがここを持ち堪えるって約束したでしょ」
アルゴスが肩をすくめると、その背後から、神聖騎士団長の白銀の鎧を纏ったフィオナが凛然と歩み出た。 異端審問官としてロアを追っていた彼女だが、今は教会の欺瞞を知り、名乗るべき正義の矛先を世界の防衛システム(バグ)へと変えていた。
「フィオナ団長! 騎士団の第一陣、結陣完了しました!」
「それに、魔導アカデミーの有志も支援に入りますわよ!」
フィオナの背後には、かつてノエルを取り巻いていた高飛車な生徒たちも、今は青ざめながらも杖を構えて並んでいた。
「総員、円陣防御! 空の裂け目から降る異物は、一匹たりとも街の深部には入れませんよ!」
フィオナの鋭い号令と共に、セレステの防衛戦が幕を開ける。
一方、はるか北に位置する機械都市ゼニスでも、同じく絶望的な攻防が始まろうとしていた。
「おいおいおい! 冗談キツいぜ。俺の通信ドローン・ルカくん2号が捉えた真・宇宙の映像と、完全に同じバグじゃねえか!」
ゼニス地下。 入り組んだスクラップの山の頂上に組まれた、要塞のようなガラクタの指令室。 そこに設置された何十面ものモニターから、パイプラインの街に降り注ぐ黒い脅威を睨みつけ、ルカが舌打ちをした。
「……兄さん、街の人たちが……! あんなの、普通の銃や蒸気兵器じゃ倒せないよ!」
ルカの隣で、オペレーター席に座った弟のテオが、悲鳴混じりの戦況報告に耳を塞ぎながら叫んだ。 ロアによって氷の繭から救い出されて間もないというのに、テオは「僕にも手伝わせて」と志願し、不眠不休でルカのサポートに回っていた。
玉の汗を流しながら震える手でモニターを操作する少年の表情には、隠しきれない不安がにじんでいた。
『分かってる! だからこそ、俺の出番だっての!』
ルカはニヤリと不敵に笑い、手元の巨大なレバーを力の限り押し込んだ。
「全回線、オーバーライド(強制介入)! ゼニスの全重機、俺の指令で踊らせてやるよ!!」
――ガゴンッ、ギュイィィン!
その瞬間、ゼニスの街中に放棄されていた巨大な廃クレーン、削岩用重機、果ては教会の異端審問用の自動機甲兵までが、一斉にルカのハッキングによって青いランプを点灯させて再起動した。無人の重機たちが、意思を持った鉄の群れのように、降下してくるバグの塊へと突撃していく。
「こちら、ルカズ・ジャンク&フィックスの天才CEOだ! ゼニスのお偉いさん方も、下層のネズミ共も、俺が動かす鉄屑の盾の後ろに隠れてな! お前らを掃除させるのは、空から降ってくるワケ分かんねえバグなんかじゃねえ……!」
ルカはモニターに映る、遠く真・宇宙で戦う小さな少年――ロアの姿をちらりと確認した。
『あのアホみたいな『お掃除屋』が帰ってくるまで、この街のぜんまいは俺が巻き続けてやるッ!!』
セレステの魔法と、ゼニスの鋼鉄。これまで互いを否定し合っていた二つの理が、ロアという存在を繋ぎ目として、今、世界システムという巨大な理不尽に対して、一つの抵抗の炎となっていた。
「……頼んだよ、兄さん。ロアも」
テオが祈るように、胸の前で小さな手を組んだ。
(第32話終わり)
ルカの大胆なハッキング操縦と、頼もしいアルゴス&フィオナの共闘でした。 ロアという「特権持ち」を繋ぎ目にして、かつては対立していた魔法と機械の力が手を取り合います。
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