第26話 垂直の境界、空へ続く梯子
お読みいただきありがとうございます! 物語は新章「世界の天井編」へ突入します。 ゼニスの「熱」を取り戻したロアたちが次に向かうのは、世界の物理的な限界点。 見上げるほど高い「壁」の向こう側には、一体何が隠されているのか? 常識の通じない、垂直の冒険が始まります。
「……ねえ、ロア。あれ、本当に山なの?」
ゼニスを発ってから数日。雪原を突き進む魔導ソリの上で、ノエルが呆然とした声を上げた。
進行方向にそびえ立っているのは、もはや地形と呼べる代物ではなかった。
地平線の端から端までを埋め尽くす、完璧なまでに垂直な絶壁。
岩肌は不自然なほど滑らかで、鏡のように空を反射している。それは山というよりは、世界という箱を仕切る「巨大な板」に見えた。
「ううん、違うよノエル。……あそこだけ、世界のお肌がすごく突っ張ってるんだ」
ロアはソリの縁に立ち、黄金の瞳を細めてその巨壁を見上げた。
彼には見えていた。壁の表面を流れる、膨大な座標データの奔流を。
通常、地形は固定されているものだが、あの壁だけは常にミリ単位で振動し、世界の計算を維持しようと必死に踏みとどまっている。
「……計算不能。……地上から垂直高度一万メートルまで、同一の物質特性を保持。……自然物である確率は0.003%以下です」
ソリを操縦するルカ――ではなく、ゼニスから同行することになった小型の自律偵察機(ルカが持たせてくれた『通信用ドローン・ルカくん2号』)が、無機質な音声で分析を告げる。
「ルカが言ってた通りだ。ここが世界の端っこなんだね」
ラグが、背負った大剣の重みを確かめるように鼻を鳴らし、警戒を強める。
壁に近づくにつれ、空気の正体が重くなっていた。いや、質量が増しているのではない。一歩進むたびに、重力の向きが微妙に揺らいでいるのだ。
「……っ、体が浮く……!? キャッ!」
不意にノエルの体がふわふわと浮き上がり、慌ててソリの手すりにしがみついた。
[WARNING: Un-Authorized_Access] [Error: Gravity_Constant_Flickering] [Cause: Boundary_Overlap]
「あはは! 面白いね、ここ! 飛んでるみたい!」
ロアだけは、上下左右が逆転し始めた空間を平然と歩き回っている。
彼にとって、狂った重力は剥がれかけのシールのようなものに過ぎない。
「……ロア、遊んでる場合じゃないわ! 向こうから何か来る!」
ノエルの指す先、垂直の壁から剥がれ落ちるように現れたのは、銀色に輝く鳥のような、けれど機械的な光沢を持つ物体だった。
[ALERT: Surveillance_System_Online]
ザザッ……ザザザザザッ!!
それは羽ばたくことなく、空間の座標を無視するような鋭い機動で、ソリへと肉薄してくる。
「……監視者。……システムの不法侵入者を検知。……排除フェーズに移行します」 キィィィィィィィン――!!
ドローンからルカの焦った声が割り込んできた。
銀の鳥たちが一斉に、その翼を黒い長方形へと変化させる。
[COMMAND: Partial_Format_Initiated]
ガリィィィィィッ!!
それは、管理者シオンが使っていたデリート・コマンドと同じ輝き。
「あれ、シオンの仲間?」
「……違う。あれは、もっと古い……っ。捨てられたルーチンが勝手に動いてるんだ! 逃げろ、ロア! そいつらに触られたら、存在のバックアップごと削られるぞ!」
空から降り注ぐ、消去の雨。
[TARGET: Irregular_Entity_Locked]
シュパァァァンッ!! ドゴォォォォンッ!!
ロアは腰のハンマーピッケルを抜き放ち、逆さまになった空へと跳躍した。
「大丈夫だよ、ルカ! ……古い汚れなら、僕がまとめて掃除しちゃうから!」
黄金の光が、重力すら無視して垂直の壁へと駆け上がる。
ドォォォォォォォンッ!!
少年の振るう一撃が、世界の境界線を真っ向から叩き割ろうとしていた。
[CRITICAL_ERROR: Unknown_Logic_Interference_Detected] [WARNING: Re-Formatting_Failed]
(第26話終わり)
第26話、最後までお読みいただきありがとうございました! 物語はついに世界の核心へと迫り始めました。垂直の壁を登るロアたちの戦い、いかがでしたでしょうか。
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次回、第27話「雲海の墓標、捨てられた記憶」。 世界の「ゴミ捨て場」に隠された、衝撃の過去が明らかになります。 これからも応援よろしくお願いします!




